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まさか辺境伯がいらっしゃるとは……

街が活動を始める少し前。

メアリお姉様が出かけてさほどしないうち。

ニューベリー邸に一台の馬車が停まる。使用人たちはその馬車に描かれた紋章に戦々恐々としながら、彼らを迎えた。

辺境伯ジェイレン・アレクサンダー様と御子息オズウィン様だ。


ジェイレン様は「辺境の守人」と呼ばれている。その堂々たる姿はあまりの迫力で……熊としか表現しようがなかった。

赤毛の熊だ。

オズウィン様と同じ赤毛とブルーグリーンの瞳をしているが、ほぼ熊である。

オズウィン様よりも身長は少し高い程度だが、問題は太さである。

猪首に見えるが、首から肩に掛けての筋肉が膨れ上がっているせいでそう見えるのだ。腕なんてお父様の三倍以上ありそうに見える。

太腿だって片方だけでお母様の尻周りより太そうだ。


オズウィン様が細く見えるほどの巨体であるジェイレン様はもう、そこにいるだけで存在感がすごい。

熊という表現をしないなら小さな山だ。

小さな山が動いているようなジェイレン様に、お父様もお母様も輪郭がぶれる勢いで振動していた。

「本日は我が息子、オズウィンと御息女キャロル嬢の婚約の申し込みに参った。突然の申し出に驚かせたと思う。すまない、ニューベリー男爵」

「いいいい、いいえ! 大変光栄に思いますアレクサンダー辺境伯!!」

お父様は椅子の上で声も体も振動させている。お母様に至っては高速首振り人形だ。

多分今両親が出されたお茶を手にしたら全部ぶちまけるだろう。

私は黙ったままでオズウィン様を見る。

オズウィン様はにこりと笑みを浮かべて見せた。


――笑顔が可愛い人だなぁ……


人懐っこそうな犬のような笑みは、きっと御令嬢方を魅了する。探そうと思えば私以外にも良いと思う人がいそうな気がするけども、と言う気持ちがどうにも拭えない。

「そ、それにしてもアレクサンダー家に我がニューベリーの者を嫁にとしてよろしいのでしょうか? こう申し上げてはなんですが、家の格というものがあまりにも釣り合わないと思うのですが……」

ようやく振動数が減ったらしいお父様が、一番の疑問を口にしてくれた。

ありがとうお父様。

絶対に聞いて欲しいことだと念押しして良かった。心なしかお父様の髪の毛が少し白くなっているような気がするけど……


ジェイレン様は少し困ったような表情を浮かべ、申し訳なさそうに答えた。

「ご存じかもしれないが、現国王の妻は私の妹なのだ。そして私の妻は私の従姉でな」

「は、はぁ。存じております……」

それが何と関係があるのだろう、とお父様もお母様も、私も頭に疑問符を浮かべる。

ジェイレン様は太い笑い声を出しながら後頭部をかいた。

「そして私の父と母も親戚筋なのだ。故に辺境と王家があまりにもアレクサンダー家で固まりすぎていてな。特に我が家は三代続けて親戚筋から嫁を迎え入れるのは、と……故に息子の妻は親戚関係の無いところからと言う話になったのだ」

「ははぁ、そういうことでしたか……」

「国王も父も私も妻に惚れてそうなったが、あまりにも偏りが過ぎると諫められたのだ」

本当にすまない、ジェイレン様が頭を下げてきた。

焦るお父様とお母様の様子は余所に、私はようやく納得する。


当人たちがどう思おうと、王家とそこに並ぶ権力を持つ辺境にアレクサンダー家がしっかりと根付いている。それを面白く思わない貴族もいるだろう。

なら木っ端貴族の家から嫁を迎え入れ、権力に興味の無いポーズを示せば良い、と言うことなのかもしれない。

嫁を迎え入れる条件としては「魔獣を躊躇いなく屠れる令嬢」だけ。なら相手の家の爵位や資産状況がどうとかそういうことは問題無いと言うことらしい。

要するにオズウィン様が尻拭いのために余所から嫁を迎えなければならなくなったわけだ。

オズウィン様の年齢で婚約者が見付けられなかったのは、魔獣を屠れる度胸と腕のある御令嬢が学園にいなかったからだ。

記憶の限り、腕の立つ御令嬢は数名いたが大体は魔獣が狩れる……というより魔獣を狩ったことがある御令嬢はほぼいないはずだ。

学園での戦闘訓練は基本的に対人戦だから。


うんうん、と納得しつつ私がちらとジェイレン様を見るとバチリと視線が合った。野生の熊と遭遇したときのような緊張が走る。

背筋をピンとさせて硬直した私に、ジェイレン様は大きな口を横に広げ、目尻にしわを作りながら笑った。

「キャロル嬢。まだ出会ったばかりでお互い禄に知らぬだろう。もしキャロル嬢が良ければ、今日は息子と出かけてやってはくれないだろうか?」

「はっ、はいっ! お気遣いありがとうございます!」

私は半分に折れる勢いで頭を下げた。

顔を上げるとジェイレン様はニコニコ上機嫌で、お父様とお母様は心配そうにオロオロしている。

そして当のオズウィン様はと言うと……


「ち、父上……あまりにもそれは急すぎでは……」

「オズウィン、辺境の男であるにも関わらず女性のエスコートも出来ぬとでも言う気ではないだろうな?」

「そっ、そんなことはありません!」

「ならなんだ」

太い指で顎をかくジェイレン様。

オズウィン様はちら、と私の方を見てから頭をかいた。

「……手紙のやりとりから始まると思ったので」


一緒に踊っておきながらデートより手紙のやりとりをしようとするオズウィン様は想像以上に初心なのだろうか?

心なしか頬が赤い気がする。

そしてこのときハタ、と私は思う。


今、普通に頭に浮かんだけど……これってデートなのか?

出会って翌日、いきなり親公認でデートに行くことになってしまったのだった。


たくさん感想をいただいておりますが、こんなに感想評価いただいたことなかったのでどうしていいやら何と返していいやら、ありがたい悩みを抱えております。


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[一言] 確かに身内でもないと家業に理解が得られそうにない立地ですものねえ。 つもりお受けも武闘派と…
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