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結婚とは家同士の繋がりですから。

アレクサンダー家の紋章の入った馬車は、それはもう乗り心地は最高だった。それなりにお金があるニューベリー家の馬車もなかなかにいいものなのだが段違いである。

私は硬直したまま、オズウィン様の正面に座らされて、王都の別荘に送られていた。

ニコニコしているオズウィン様を真正面から見てしまう。こうしてみるといわゆる美形とは異なるのだけれど顔は整っているし、笑顔が可愛い風だ。


視線はなるべく喉や顎の辺りを見ていたが、不意に視線がかち合ってしまう。オズウィン様は照れたように目を伏せて頬をかいてはにかみ笑いを浮かべた。

……意外と純情なのか? 純情戦闘民族なのか?

「その、ニューベリー嬢。お父上に婚約の打診を送らせてもらうので、よろしく頼みたい」

「あ、はい」

「そうか!」

拒否など出来ないので了承の言葉を言うと、オズウィン様は実に嬉しそうな満面の笑みを浮かべる。

うーん、なんだか憎めない。

今のところオズウィン様自体、少々ずれているところこそあるけれど、お人柄は良いようだった。


家柄、文句なし。

王家からの信頼、国防の面においては最も厚い。

本人、高身長筋肉質健康的。それでいて表情が可愛らしい。戦闘民族特有の思考のずれはあるものの人柄はよさげ。

後家族関係が良好であれば最高では?

これだけ素晴らしい条件が揃っているのにそれでも婚約者が見つからない辺境のマイナスポイント……

まあ、学園でも武闘派令嬢ってほぼいないものね……

フッ、と慈愛の眼差しでオズウィン様を見ると、また彼は照れたようだった。

本当に純情な方である。



「っと、着いたな」

そうこうしているうちに我が家の別荘にたどり着いた。

明かりが灯っている。

よかった。

馬車の扉を開けられ、降りようとするとオズウィン様が先に降りて手を取ってくださった。

「気をつけて降りてくれ」

「ありがとうございます」

ダンスの時も思ったが、彼の大きな手は鍛えられていることがよくわかる。そして今はとても熱かった。

「オズウィン様、わざわざ送っていただき誠にありがとうございました」

頭を深々と下げて、私は別荘に戻ろうとオズウィン様に背を向けた。しかし何故かオズウィン様は着いてくる。

「あの、オズウィン様……?」

「せっかくだからご両親に挨拶だけ先にさせていただこうと思ってな」

お父様もお母様も、オズウィン様を見たら白目を剥くかもしれない。

あー、両親が高速振動する奴ぅー……


馬車の気配に気付いたのか、付き添いで来てくれていたマリーが玄関を開けて飛び出してきた。

「マリー、ただいま」

マリーは私の隣にいたオズウィン様を見、その後馬車に描かれたアレクサンダー家の紋章を見て八割増しで慌て始めた。

「お嬢様!?」

「マリー、お父様とお母様を呼んできてもらえる?」

「はいぃっ!」

ウサギが駆けるようにマリーは別荘の中に戻っていく。私はオズウィン様を応接室に招こうとすると、彼は笑顔でそれを辞退する。

「もう時間も遅いから本当に挨拶だけさせてくれ。早く休みたいだろう?」

そう気遣ってくれたので玄関ホールで両親を待った。


その後、高速振動する両親が声を裏返しながら現れた。それはもう見ていて哀れなくらいの様子で……

オズウィン様はその様子を気にしていないようで、快活な笑みを浮かべてお父様と握手をしていた。

「正式な申し込みは後日させていただきたいと思っています。王都にはいつまで滞在していらっしゃいますか?」

「みみみみ、三日ほど滞在予定です! 必要とあらば明日領地に戻ることもいたしますし滞在を延ばすこともいたします!!」

振動のせいでじわじわと移動するお父様とお母様が肩をぶつけ、その様子を私は生ぬるい目で見ていた。

まあ、辺境伯ご子息が突然現れて「貴殿の娘に婚約の申し込みをする」なんて宣言されたらそりゃ震え上がりますよね。

木っ端貴族だからね……


ふと、視線が刺さったような気がして顔を上げる。階段の上から隠れるようにメアリお姉様がこちらを見ていた。口をへの字に曲げて私を睨み付けていることに私が気付くと、お姉様はぱっと姿を隠してしまった。

ああ、お姉様と明日顔を合わせるのが憂鬱でならない……


「それでは滞在中に我が家から改めて伺わせてもらいます。夜分遅くに申し訳ありませんでした、ニューベリー男爵」

「い、いいえ! お気になさらず!」

お母様も首振り人形のようにガクガクと頭を上下させる。あまり振りすぎてもげてしまいそうな勢いだ。

「それではまた改めて。おやすみ、キャロル嬢」

オズウィン様が私に頭を下げる。そのあまりにも様になっている様子に私は緊張感から心臓が跳ねた。

圧倒的上位貴族に頭を下げられて心臓が縮み上がらない木っ端貴族なんていないと思う。


「お、おやすみなさいませ、オズウィン様。次にお会いできる日を楽しみにしております……」

ドレスの裾を摘まみ頭を下げて顔を上げると、まるで向日葵が今ここで開花したのかと思うほどの笑みを、オズウィン様が浮かべていた。

「ああ、それではまた! 楽しみにしている!」

そのまま颯爽と去って行ったオズウィン様。玄関の扉が閉まった途端、お母様は腰を抜かして座り込み、お父様は私の肩を掴んできた。もちろんまだ振動しながら。

「キャキャキャ、キャロルゥ!! 一体全体どういうことなんだ?! 説明をしてくれ!!!」


そりゃそういう反応になるよね、お父様。格上すぎる相手、しかも辺境の守護者アレクサンダー家からの申し出なんて……どう考えても圧倒的に上位だから我が家と対等な関係になんてなれそうにないものね……

お父様とお母様のノミの心臓がプチっといきそうな相手であることが、オズウィン様のどうしようもない唯一の欠点かもしれない。


私は遠い目で今日の出来事を振り返る。

オズウィン様、気遣ってくださったのに申し訳ありません。

今日はまだしばらく休めそうにありません……

突然の幸福って、場合によっては怖くなりますよね。自分に受け止める器があるのか、その幸せを非難されないかとか考える。

格差がありすぎるとそこに入ってやっていけるか考えてしまうのに、それがない姉はやっぱりぶっ飛んでる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 家族も戦闘民族っぽいから魔獣狩りできないと話合わなくてきつそう
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