世界は神が作ったのではないのですか?
翌日、さっそく訓練をすることになったのだが、グレイシー様に連れて来られたのは「研究室」とプレートの掲げられた部屋だった。
訓練の言い出しっぺであるセレナ様とディアス様もご一緒である。
オズウィン様とジェイレン様は魔獣狩りにいった。
その後、月の市の後の報告会だそうだ。
辺境伯とその跡継ぎともなると、やはり多忙らしい。
そして訓練、という名目で連れてこられたのだが、何故かメアリお姉様とアイザック様もいる。全員が動きやすいパンツスタイルだ。
「お姉様たちも訓練するんですか?」
「アレクサンダー家にお世話になるにあたって働くと聞いたわ。その前に魔法を診せるようにおっしゃられたのよ」
メアリお姉様は空を飛ぶしかできないのに? と疑問符を浮かべる。アイザック様に関してはどういった仕事に使うのだろう、と考え込んでしまう。
私がうんうん唸っている間に、グレイシー様が「ウィロー研究室」と書かれた部屋の扉を開いた。
「ウィロー、いるかしら?」
グレイシー様が先に部屋に入ると、壁には大量の蔵書が壁一面に並んでいた。
反対側は引き出しだ。そこからほんの少し紙がはみ出ているところを見ると書類が詰められているらしい。
「あら、こっちじゃなかったかしら?」
グレイシー様は部屋から出て隣の「実験室」と書かれた扉に手をかけた。
「実験室」のプレートの下には「ただいま実験中」という看板がぶら下がっている。
部屋の壁には何に使うかわからない、変わった形のガラスの器や金属の棒が並んでいる。
さらに奥を見れば動物の皮や毛、爪や角、鱗など様々なものが詰められた瓶が所狭しと並べられていた。
広いその部屋の中央に、白衣の人物はいた。
彼女は何やら葉っぱを入れたガラス容器を火にかけて、管を伝わせて気化したものを精製しているらしい。
「ウィロー、入るわよ」
グレイシー様の声と、今更のノックに彼女は反応する。
まん丸の眼鏡に前髪を持ち上げて額を丸出しにしたその人は、ウィローと呼ばれていた。
モナ様ほどではないが背は低く、なんとなく栗鼠を彷彿させる。
私たちに気付き、にか、と笑う様子は、私よりおそらく一回りは年上であるはずなのに幼さを感じさせた。
「あら~? グレイシー様。セレナ様にディアス様と知らない顔がたくさん」
ウィローと呼ばれた人物は、私たちを見渡してぐにぃん、と体を横に曲げて見せた。
この行動だけでなんとなく変人臭を感じ取ったのは仕方ないと思う。
「ウィロー、こちらニューベリー男爵の御息女とその婚約者。こちらがキャロルさん、メアリさんとアイザックさんよ。皆、彼女はウィロー博士。私のお抱え研究者」
グレイシー様の紹介に合わせ、私たちは頭を下げる。
ウィロー博士は手をぽん、と合わせ声を上げた。
「ああー! 噂のオズウィン様の婚約者さんですね! グレイシー様ってばさっそく婚約者さん連れ回して嫁いびりですか~?」
辺境伯夫人への態度に、私はまたぎょっとする。
昨日から辺境の身分制度に対する意識の希薄さを感じているけれど心臓に悪い……
「違うわよ。それに嫁いびりならお姉さんやその婚約者まで連れてこないし、教会の重役の目のないところでやるわ」
グレイシー様もウィロー博士の言葉や態度を気にしていないのか慣れているのか、軽く否定する。人目がないところだったらするんだろうか、嫁いびり……と一瞬不安がよぎったのは内緒だ。
「あら、では何をしに?」
「魔法に関する講義と適した武器の選定をしてもらうために」
「そうでしたかー。では皆さんお席についてくださいな」
ウィロー博士が壁のレバーをガッチャン、と降ろすと上から大きな黒板が降りてきた。どういう仕掛けだ、とあんぐりしていると、ウィロー博士は黒板を見やすい位置に椅子を並べてくれる。ディアス様には大きな椅子がだされた。サイズ的にジェイレン様用のイスと思われる。
「それでは今から魔法に関する講義を行います。解説はわたくし、ウィローでございます」
メアリお姉様とセレナ様が拍手をし、それに釣られて他の人たちも拍手をした。
けれど私は拍手をしながら首をかしげていた。だって王都の魔法学園で魔法に関して一般人より学んでいるのにいまさら? と思ったからだ。
「おっほん。ではまず魔法とは何か、わかりますか?」
ウィロー博士はとても基本的なことを尋ねてきた。私は挙手をして、王都の魔法学園で習ったことを思い出しながら口にした。
「神が与えたもうた奇跡、ですよね?」




