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グレイシー様とモナ様は、やはり親子です。

緩やかに波打つ夕焼けのような髪。強い意志を感じる青い眼差し。鍛え上げられた肉体。そして医療系の魔法で消すことも可能であるのにわざわざ残されている顔の大きな傷――この方は……!

私が反応するよりもはやく、ヴィヴィ達が一斉に彼女に向かって胸元に拳を作った敬礼をした。

「お帰りなさいませグレイシー様!」


――やっぱり! 辺境伯夫人、グレイシー・アレクサンダー様だ!

私も背筋をただし、足先を揃えた。

「ごきげんよう、グレイシー様」

「ごきげんよう、セレナ様」

セレナ様だけは様子を変えず、リラックスした様子でグレイシー様に挨拶をする。

グレイシー様も気安げにセレナ様に挨拶を返した。

私はそんな二人の様子に緊張しきっていた。

だってグレイシー様の足運びを見ただけで、かなりの「達人」であることがわかってしまったから! しかも漲る覇気は圧倒的で、並の人間であれば気圧されてしまうのが想像に難くない。

グレイシー様の視線がこちらに向いた瞬間、私は体を跳ね上がらせてしまった。


――挨拶しなければ!

私は声を裏返らせながら、音をひり出した。

「あ、あの! 初めましてキャロル・ニューベリーと申します!」

かっくん、と堅さが目に見えるカーテシーをしてしまったが、そんなものはどうでもいい。とにかく名乗らねば、という焦りから、色々すっ飛ばしてしまった。

しかしグレイシー様は私が名乗った瞬間、目をぱっと丸くして笑顔を作る。

「ああ! 初めまして。オズウィンの母のグレイシー・アレクサンダーよ」

セレナ様にしたように、気安げに声をかけてくださる。そして握手を、とでも言うように手を差し伸べてきたのだ。

私は見えないように裾で手を擦ってから、グレイシー様の手を握る。所々肉刺もある。そして手の甲側の中指の付け根あたりが指が硬くなっているように見えた。

――拳ダコ……?


グレイシー様はじっと私の顔を見つめてきていた。

なんだろう、顔に何かついているかな、と反射的に左手で頬を指先で擦る。

握手をしたのはほんの数秒。しかし先程までのあれこれがすっ飛ぶくらいの衝撃だった。心臓がバクバクいっている。


こっそり深呼吸をしていると、グレイシー様がヴィヴィ達の方を見て首を傾けた。

「それで? 少し騒がしかったみたいだけど何があったのかしら?」

グレイシー様の言葉で、先程までの騒動が思い出される。

私が行動するよりも先に、ヴィヴィ達が声を上げたのだ。

「グレイシー様! 本当にこの方がオズウィン様の婚約者で良いのですか?!」


ヴィヴィの発言にギョッとする。

「(貴族の家同士が決めた結婚に口出すとかどういう神経してるの?! ホれたハれたで結婚決める平民と訳が違うんだから! というか辺境伯夫人によくもまぁそんな口聞けるね?!)」

下級貴族である私に対する発言だけならまだ聞かなかったことにすることも可能だったかもしれない。しかしよりにもよって辺境伯夫人であるグレイシー様に異議申し立て?!


「あら、なんで?」

グレイシー様は特に動じるでもなく、ゆったりとヴィヴィに言葉を返す。

しかしヴィヴィはグレイシーの反応が悪くないと思ったらしく、更に言葉を続けた。

「こんな日頃から危機管理能力もなく、魔法も大して強くなさそうな相手と結婚なんて、オズウィン様が将来苦労なさいます!」

そこに他の女性兵士も便乗するように口々に言葉を発した。

「そうです! ディアス様だって聖女様をいつも守ってばかりで、ディアス様の本来の力を生かせていないに違いません!」


――きょ、教会の聖女様に対してまで好き勝手言って~……!

怒りと呆れと焦りで顔がぐにゃぐにゃになっているのを感じ、何か言ってやろうと言葉を組み立てる。


一方グレイシー様はヴィヴィ達の苦言――どう聞いても文句にしか聞こえないが――に耳を傾けている。

やいのやいのと喚くヴィヴィ達の話をすべて聞いてから、グレイシーは答えた。

「それで、貴女たちは二人がオズウィンとディアスの相手として相応しくないといいたいの?」

あれこれヴィヴィ達が喚いていたが要するにそういうことだ。

さも正しいかのように言葉を並べても、先程まで私やセレナ様に投げかけていた内容からそれ以外がない。


「お二人のように強いお方にはグレイシー様のようにお強い方が並び立つべきだと思うのです!」

――頭辺境だらけだな! 結婚は家や政治的判断の上で決まるものなの! そんなこともわからないのか?!

もう腹が立って仕方ない。

国王陛下と王妃殿下の笑顔の圧を思い出し、私はヴィヴィ達に一言言ってやろうと口を開こうとする。


「それはつまり彼女たちが強ければ納得できると?」


それよりも先にグレイシー様が疑問を投げかける。

ヴィヴィ達もその言葉に大きく肯いた。

「そうです!」

うんうん、と肯くヴィヴィ達。

私は嫌な予感にチラリとグレイシー様を見る。すると決闘をしたときのオズウィン様を思わせる、獣じみた恐ろしい笑みを浮かべていたのだ。

私は先程までヴィヴィ達に感じていた怒りや呆れといった感情が吹っ飛び、ギョッと目を見開く。

グレイシー様は指をパチン、と鳴らして「いいことを思いついた」とでも言わんばかりの表情になった。


「なら手合わせしましょうか? そうしたら納得できるのではなくて?」

――また手合わせ?!

頭によぎる、笑顔のモナ様。

再び提案された辺境式親睦方法――頭辺境……!


書店で『魔獣狩りの令嬢』を見かけるたび嬉しくて仕方ありません。

ありがたやーありがたやー。

電子書籍の方だと作中に出てきた「金的攻撃が法律で禁止されている」理由がわかる特典SSが読めます。

TOブックス様のオンラインショップだと「昔、恥をかかされて刃傷沙汰を起こした女性貴族の話」の特典SSがつきます。

『魔獣狩りの令嬢』の世界観を深める内容となっておりますので、よろしければご覧になってください!


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