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はじめまして辺境。こんにちは魔境。

お久しぶりです。この度新章をスタートさせていただきます!

魔境からドラコアウレア王国を守護する辺境。王国を魔境から守る三枚の壁のうち、現在最前線の第三の壁にたどり着いたのはニューベリー領を出て三日目のことだった。

現在アレクサンダー家の居城となっている第三の壁の要塞内を、オズウィン様と私は並んで歩いていた。

隣を歩くオズウィン様は申し訳なさそうに頭をかいている。私も恐縮してしまっていた。

「まさか全員転移酔いをするとはなぁ」

「いやもう本当に申し訳ありません……」

辺境の最も古く国の内側の第一の壁から、魔境開拓の最前線の第三の壁まで転移陣を使って移動した。

馬車を使っても本来であればもっと時間のかかる移動になるのだが、転移陣同士が繋がっているところであれば移動は一瞬にある。しかし転移魔法は王家の制限がかけられている使用が厳しく取り締まられている魔法のひとつなのである。そのため王国の多くの人間は上下水道とトイレ以外で転移魔法を使用しない。

自身の肉体を移動させるのはごく一部の人間で、瞬間的な移動に慣れていない。

私も含め、我が家の使用人達も転移魔法での移動は初めてだった。そのため念のために酔い止めを飲んで初めての転移魔法に挑んだのだが……

「酔い止めを飲んでも駄目だったかぁ……」

我が家の使用人達は転移直後、胃の中身を吐き出してしまったり、ひっくり返って倒れてしまったり……今現在全員寝込んでしまっている。

つい先程までアレクサンダー家の使用人達に協力して貰い、救護室のベッドへ寝かせたり首元を冷やしたりとてんやわんやだったのだ。

「キャロル嬢もメアリ殿も転移酔いしなかったのはよかった」

メアリお姉様は自身の魔法が「空を飛ぶ」というものであるためか、転移時の無重力感と落下感に慣れていたようで問題なかった。

「おかげで転移酔いを起こしたアイザック様につきっきりですが」

しかしアイザック様は駄目だった。

嘔吐こそしなかったが、顔を真っ青にして壁にもたれかかる姿は、繊細な女性に見えた。現在彼は髪を短く切り、男性物の服を着て首に魔法封じの枷をつけている。それでも以前の女性としての仕草や言葉遣いはそのまま残っているため、いちいち仕草が女性的なのだ。

メアリお姉様はそんな自分の婚約者(仮)に付き添い、救護室でかいがいしく彼の世話をしている。連れてきた使用人達も全員が動けないので、メアリお姉様は世話を、私がニューベリー家の代表として挨拶しに赴くところである。

それはもちろん辺境伯であるジェイレン様と辺境伯夫人のグレイシー様である。

辺境伯ジェイレン・アレクサンダー様は言わずもがな、辺境の守護者筆頭。巨大な熊に変身をする魔法を使う戦士である。

そして辺境伯夫人であるグレイシー・アレクサンダー様。彼女は雷獣竜という雷を操る巨大な魔獣を単騎にて討伐したという女傑である。

ジェイレン様はすでに王都でお会いし、豪快でありながら優しいお方であることは知っている。しかしグレイシー様に関しては噂しか知らない。

雷魔法の使い手であるとか、魔獣討伐の際ついた顔の傷をあえて残しているとか、雷を落として地震を起こすとか……


「うぅ……緊張する……」

「大丈夫だよキャロル嬢。父上とはもう何度も会っているし、母上も君に会えることを楽しみにしているから」

「楽しみにされているというのはそれはそれで緊張しますよ?!」

腹部を両手で握り、よじれる感覚を緩和しようとする私にオズウィン様は笑顔を見せる。それでも私は緊張で呼吸が浅くなっていた。

オズウィン様は少し考えるような仕草をして、私の手を取る。

「キャロル嬢、少し外の空気を吸ってから行こうか」

オズウィン様はそのまま私の手を引き、居城から出た。そして壁内部にある階段を上って行った。

無骨さを感じる石造りの長い長い階段を登り、扉を開く

「さ、着いたぞ」

そこは屋上だった。

「わぁ……」

眼下にはどこまでも魔境が広がっていた。魔境はあまりにも雄大で、魔獣が跋扈するというのに不気味さや恐怖は一切感じない。どこまでも清々しく力強い自然と大地――思わず感嘆がもれた。

時々魔獣のものと思われる鳴き声とドォン……と響く衝撃音か地鳴りが風に乗って小さく聞こえる。

私の目はきっと好奇心で輝いていただろう。

「どうかな、魔境の眺めは?」

オズウィン様の言葉に我に返った。

魔境の雄大さに心奪われていたらしい私は、繋いだままのオズウィン様の手を握り返す。

「どんなに言葉や比喩を使っても、この雄大さを表現するのは無粋な気がします……ここはあまりにも広くて豊かです」

国教であるコルフォンス教が前身である宗教よりも自然信仰を取り込んでいることがよくわかる。

ごく当然に魔境に対する畏怖と敬虔な感情が生じても何ら不思議ではない。

オズウィン様は嬉しそうに目を細める。

「辺境へようこそ」

私はこうして辺境の最前線、魔境の開拓前線に迎え入れられたのだった。

本日より三話連続投稿させていただきます!

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