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めでたしめでたし、とはいかないようです……?

メアリお姉様は元・イザベラ様に抱きつきワンワンと泣いている。化粧を崩し、声を上げて泣くメアリお姉様なんて、見たことがなかった。

国王陛下は穏やかな表情となり、アイリーン様を下がらせる。

「さて、お主には新たな名を与えよう。そうさな……アイザックとしよう」

元・イザベラ様――アイザック様は深々と国王陛下に頭を下げる。メアリお姉様も同様に、頭を下げた。

国王陛下は目を細め、二人を優しく見つめる。

「メアリ・ニューベリー。これは余の提案なのだが、このアイザックを夫とする気はあるか?」

――はぁっ?! 何で?!

国王陛下の言葉に私は心の中で叫んだ。

メアリお姉様は目を輝かせ、アイザック様は驚きで目を見開いていた。

「もちろんです国王陛下!」

ちょぉ! お姉様絶対そう答えると思ったけど!! 我が家を巻き込むのはやーめーてーッ!!

おそらく青ざめているであろう私の顔を国王陛下はチラリと横目で伺い、指を立てる。

「ただし正式な結婚を認めるには条件がある。アイザックが余の認める功を立てたとき結婚を許す。それをお主が犯した罪の償いとしよう」

「は、はい! 必ずや国王陛下に報いる功を立てさせていただきます!」

「二人が結婚をした暁にはアイザックをニューベリー家へ迎え入れるが良い。その際には相応しき爵位を与えよう」


破格の恩情にメアリお姉様とアイザック様は涙を流して抱き合っている。劇のラストのような感動的な空気が二人の周りには漂っていた。部分的に切り取れば素晴らしき感動物語だろう。

私はと言うと目の前で繰り広げられるめちゃくちゃな見世物に顔はぐにゃぐにゃに歪ませる。どういう表情をしていいかわからない。

当人たちにとっては輝く美談。メアリお姉様とアイザック様は国王陛下に対し大層恩義を感じてこれから先尽くすはずだ。

それは決して悪いことではないのだが、上手いことしてやられているようにしか思えない。

「そしてキャロル・ニューベリー」

「ひゃいっ!」

突然国王陛下に名前を呼ばれ、私は垂直に飛び上がる。陛下は微笑ましいものを見るように、顎を撫でた。

「此度の大捕物、お主の活躍はよく聞いておる。お主には褒美を与えたい」

「あ、ありがとうございます!」

私はドレスの裾を摘まみ、お辞儀をする。

褒美と言われ、喜びよりも恐れ多い気持ちの方が私は強かった。そして国王陛下の言葉でひっくり返りそうになった。

「そうであるな……お主にペッパーデーの領地を与え、領主としての地位を与えようと思うのだが、どうだ?」

――え、えええええ?! 犯人確保した程度で褒美としては釣り合わなすぎでは?!

陛下はニコニコしながら私を見ている。ペッパーデー領を私にと言われても、オズウィン様と婚約している。このままだと私は辺境へ嫁ぐ可能性の高い。そんな私に領地を、と言われてもペッパーデー領は辺境とは飛び地だし、色々不都合が多くなかろうか? ニューベリーとは領地が隣り合ってはいるけども。


考え悩んでいたときメアリお姉様とアイザック様を横目で見て、はたと気付く。おそらく国王陛下の求める答えはこれではないかと。

「恐れながら申し上げます国王陛下」

「申してみよ」

「はい。ペッパーデー領をニューベリー領に統合をしていただきたく存じ上げます」

「ほう、自らの領地としなくて良いのか?」

陛下の反応に驚きや予想外は感じられない。これで間違っていないようだ。

私は更に続ける。

「わたくしは現在、オズウィン様の婚約者でございます。何事も問題なければ将来的には辺境へと嫁ぐこととなるでしょう」

「で、あるな」

「そうなりますと辺境とは飛び地になってしまうペッパーデー領を運営するのは難しくなると思われます」

国王陛下はうんうんと肯きながら私の言葉を待った。よし、多分これで正しい。

「ですので、私個人ではなく我が家への褒賞としてペッパーデー領をお与えください」

「なるほど、あいわかった。そういたそう」


陛下は了承し、大きく肯いた。その様子に私は胸をなで下ろす。

――良かった、これで正解だ。

陛下はメアリお姉様とアイザック様が結ばれるようにしてくださった。これは二人への思いやり。その一方で陛下の思惑があった。

ペッパーデー子爵とナイジェル様を排してペッパーデー領領主をすげ替えること。自分に恩を感じ信奉者となったメアリお姉様とアイザック様を据えること――

陛下も上手いことやるものだ。メアリお姉様もアイザック様もすっかり「陛下ありがとうございます」と目を輝かせていた。

思惑通りにいったためか、陛下は満足そうにしている。


そしてこれで終わったと思ったとほっとしたのもつかの間、陛下は再びお声をかけてきた。

「そうなるとキャロル・ニューベリー。お主には別の褒美を与えねばならぬな」

流石に褒賞が過ぎると思っていると、陛下に便乗するようにアイリーン様も声をかけてきた。

「そうね。貴女は可愛い甥っ子の婚約者だもの。活躍に見合った相応しいものを与えないと」

ほほほ、と上品に笑うがアイリーン様の筋肉は膨らみが戻っていない。あの姿のままだと正直脅されているような気分になる。


眉間をきゅっと寄せて考え込む。

私自身は魔獣を倒しただけだし、ナイジェル様を倒したのはオズウィン様だし……そんな褒賞を賜っていいことなんだろうか?

視線を感じてそちらを見ると、ジェイレン様もオズウィン様もにこやかに私を見ている。なんだろう、この圧……囲おうとしてきてる……? 私がアレクサンダー家に嫁ぐよう囲い込もうとしているのだろうけれど……


そこまで考えてハタ、と気付いた。

私が辺境に嫁げば必然的にニューベリーを継ぐのはメアリお姉様になる。

メアリお姉様はもうアイザック様以外と結婚する気はない。

しかも二人が結婚するには陛下が納得する功績を上げないといけない。

功が認められなければ二人は結婚できない。

ニューベリー家に跡継ぎができない。

「……お姉様をさっさと結婚させないとニューベリー、潰れちゃう……?」


え、えええ……ニューベリーの存続、ちょっぴり危機……?

ハッピーエンドには少し足らないのです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これが伝説のタイトル回収回……!
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