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まさか、死んでしまうとは……

オズウィン様に襲いかかる幻惑女。反射的に駆け出す私。しかし慣れない踵の細い靴にバランスを崩して倒れてしまう。

攻撃しようにも迫る幻惑女には届かない。

「オズウィン様!」

叫ぶ私の声と同時にオズウィン様は幻惑女の攻撃をかわす。それと同時に首を掴んだ。

「誤ったな」

幻惑女の首を起点に、オズウィン様の魔法が発動する。次の瞬間、幻惑女の体が砕け散り、その頭部だけが残された。


静まりかえる謁見の間――

王妃殿下は国王陛下を守るよう臨戦態勢をとり体が筋肉で膨張し、ジェイレン様は熊に変身しかけて顔と体が変形している。

婚約者の御令嬢たちも身構えているし、メアリお姉様はイザベラ様を庇うように飛びついていた。

エドワード様は兵たちに守られ、ナイジェル様だけが身を守るように床に這いつくばって丸まっている。


オズウィン様は幻惑女の頭を床に置き、表情を変えずに国王陛下たちに膝をついた。あまりにも見事で無駄のない手際――

オズウィン様は幻惑女を残し、私の元に来ると手を差し伸べてくれた。転んでしまったことが恥ずかしく、うつむいたまま掴んだ私の耳は熱い。


ジェイレン様が咳払いをし、謁見の間の沈黙が解かれた。

「イザベラ・ペッパーデーに魔獣が取り憑いていたのはご覧の通り」

「であるな」

国王陛下は手を挙げ、警戒を解くよう命じた。そして身をかがめるナイジェル様に対し、厳しい声をかける。

「すでにペッパーデー子爵とその妻の調べは済んでおり、数々の罪はすでに調べ上げられていた。罪を認め悔い改めるか、動機が領民を守るためであったなら減刑の余地があった」

国王陛下の言葉にハッと顔を上げたナイジェル様の顔は絶望に青ざめている。保身に走ったナイジェル様に恩情は与えられない。


「お主の両親は人身売買も魔獣降ろしも我が身かわいさに息子の独断だと昨日の審議で申しておった」

実の親にも見捨てられたナイジェル様の顔は怒りと絶望の混じり合った顔になる。床に爪を立て彼の言葉はうめき声に混ざって何を言っているかはわからなかった。

「ペッパーデーは爵位の剥奪、取り潰しとする。ナイジェル・ペッパーデーを連れて行け」

国王陛下の言葉に、ナイジェル様は連行される。生気は失われ、口から魂が抜けているような有様だ。


一方イザベラ様は残されている。一体どういうことだろう? メアリお姉様はイザベラ様を支えて国王陛下を見ていた。

「ジェイレン、魔獣が取り憑かれている人間はどうなる?」

国王陛下の急な問いかけに私は訳がわからなくなった。この場面でわざわざ尋ねることだろうか?

メアリお姉様もイザベラ様もついて行けていないのか、不思議そうな顔をしながら疑問符頭上に浮かべていた。


ジェイレン様は慇懃に答える。

「魔獣が取り憑いた人間は正常な精神や判断能力を失います。精神的な病を患っている状態に等しいのです」

「ふむ、つまり責任能力が失われるということか」

二人のやりとりに私はハッとする。

――もしかしてイザベラ様は減刑がされる?

緊張感を持ちながら、様子を見守る。

イザベラ様は自分の罪はきちんと告白したし、魔獣を取り憑かせられていた。今まで性別を偽っていたと言うことは出生届も正しくない。そしてナイジェル様の様子から虐待行為を家族からずっと受けていたのだろう。

それが情状酌量の余地あり、とされるのかもしれない。


「しかし今回のこと、一切の罰を与えぬ訳にはいかぬ」

「……はい。謹んで罰を受けさせていただきます」

イザベラ様は平伏しながら沙汰を待つ。

「うむ、良い覚悟だ。アイリーン」

「はい、陛下」

王妃殿下――アイリーン様がイザベラ様のもとへ歩み寄る。その手には短剣を手にして。

まあ、指の一本切られるか、耳を削がれるかするのかもしれない。でもまさかこの場で……? 思わずウッと顔が歪んでしまう。

メアリお姉様はその短剣に目を見開き、決意した顔でアイリーン様の前に立ちはだかった。

「王妃様! どうか! どうかイザベラをお許しください!」

「おどきなさいメアリ・ニューベリー」

「いいえどきません! イザベラのためにならわたくしは命も惜しくありません!」

お、お姉様ああああっ?!

やめて! お願いだからやめて!! 今メアリお姉様の頭の中で自分が「愛する者を身を挺して庇うヒロイン」になっているかもしれないけど! 余計なことをしてメアリお姉様まで罰せられたらどうするの?! そしてニューベリーの家が巻き込まれるようなことはやめてえぇぇ!!

私は声を出さずに悲鳴を上げていた。

「メアリ……」

なんでイザベラ様も女神でも見るような目でお姉様を見ているんですか?!

二人の悲劇――遠目から見ると喜劇――を見ながら口を挟むか私は悩みに悩んでいた。

メアリお姉様もイザベラ様も、どうにかなる方法はないのか?


アイリーン様がふっと笑い、メアリお姉様を押しのけて兵に抑えさせる。そして自らはイザベラ様の髪を掴み立たせたのだ。

「うっ……」

「王妃様! どうかおやめください!」

メアリお姉様、お願いだからこれ以上国王陛下と王妃殿下の行いに口を出さないで、とハラハラしながら成り行きを見守る。

「『イザベラ・ペッパーデー』にはこの場で死んでもらいます」

「そんな……!」

ええ?! あの流れで減刑じゃないの?!

あれだけ罪を軽くしてもらえそうな流れだったのに、上げて落とすのは流石に悪趣味では?!


アイリーン様が短剣を構え、横薙ぎに振るう。思わず目をつぶり、耳にメアリお姉様の悲鳴が突き刺さった。


恐る恐る目を開けると、長い髪の束を握るアイリーン様と、髪をざんばらに切られてへたり込むイザベラ様がいた。

「これにて『イザベラ・ペッパーデー』は死んだ。そなたには新たな名と生を与えよう」

「え……?」

メアリお姉様は涙を流しながら元・イザベラ様に抱きついている。

そ、そう言うことかぁ……! 思わず肩の力が抜けてしまう。

エドワード様が婚約者の御令嬢方をつれて来たのも、ジェイレン様に魔獣を取り憑かされた人間について尋ねたことも、全部このためだったのか。


精神的圧力が消え、私の中の緊張の糸はブツブツと切れていった。そして謁見の間にいるというのに長い溜息を吐いてしまう。


こうして今回の事件は終わりを迎えるのだった。


魔獣は即殺。これが辺境ピーポー。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでいて、これから幸せになってほしい、罪の意識は残るかもだけど、ほんとに幸せに、お姉ちゃんがついてるから大丈夫なのかな。
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