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すんなりはいかない気がします。

ニューベリー邸にたどり着き、馬のアンカーから飛び降りる。タイミング良く、野菜籠を抱えていたマリーがいた。

「マリー! アンカーをお願い!」

「えっ? お、お嬢様?!」

「籠の中のにんじんでも食べさせておいて! あと水も!」

「ジェットにも頼む!」

「オズウィン様?!」

驚きのあまり野菜籠を取り落としそうになったマリーにそう言うと、アンカーたちは顔を寄せてにんじんを要求した。

背後で「ひぃい~!」と悲鳴を上げるマリーを背に、私たちは屋敷に早足で駆け込む。


「何事だ?!」

「おっ、オズウィン様がなぜ?!」

「お邪魔します! 火急の事態でして!」

「お父様お母様! メアリお姉様は?!」

「部屋にいるけども……」

「ありがとう!」

お父様とお母様に説明する時間も惜しい。メアリお姉様の在室だけ確認して部屋に向かって走った。そして目的の部屋のドアを拳槌で叩く。

「お姉様! メアリお姉様!」

急かすノックと私の張り上げた声にすぐに、部屋の主はすぐにドアを開けた。

「なぁに? 品がないわよキャロ……」

オズウィン様がいることに気付いたメアリお姉様はハッとして頭を下げた。私はお姉様ごと押し込むように部屋に入る。オズウィン様もそれに続いた。

「失礼しますお姉様!」

「急な訪問申し訳ない」

「いえ、一体どういった御用向きでしょうか?」

メアリお姉様の疑問に、私はすぐに食って掛かるように肩を掴んで尋ねた。

「イザベラ様からの手紙を貸してください!」

きょとんとしているメアリお姉様に、私は更に詰め寄る。今は一秒だって惜しかった。

「イザベラ・ペッパーデー様です! 遠くに嫁ぐとかいう手紙が来ていたでしょう?!」

私の剣幕に気圧されたのか、メアリお姉様は目を見開いて腰が引けている。そんなメアリお姉様にオズウィン様はいつもの声音で尋ねる。

「イザベラ・ペッパーデーにある容疑が掛けられている。彼女を探すために彼女の私物か使っていた物が必要なんだ。借り受けられるか?」

メアリお姉様は親友の「容疑」という言葉に顔を青くした。ショックを受けているのだろう。

コクコクと首を縦に振り、綺麗な木彫りの箱から手紙を取り出してくれた。手紙の一枚を受け取ると、オズウィン様は探索羅針のガラス部分に手紙を入れる。すると手紙は鳥のような形に変化し、くちばし部分をコツコツとガラス球にぶつけ、方向を示しだした。

「鳥の形……ということはイザベラ・ペッパーデーまでの距離は少し遠い。急ごう、キャロル嬢」

「はい!」


再び屋敷の外に駆けてゆくと、マリーの手からにんじんを貪るアンカーとジェットの姿があった。マリーはと言うと腕を伸ばし、へっぴり腰で彼らににんじんを与えていた。

足下にバケツもある。

ちゃんと水もやっていてくれたらしい。

「お、おじょうさまぁあぁ」

「ありがとうマリー!」

「助かった! ありがとうマリーさん!」

私たちが跨がった時、マリーの握ったにんじんから口を離した二頭がいななく。

私たちは腹を踵で蹴り、門を飛び出した。

「探索羅針は西の街道方面を示している! 馬車で移動しているならまだ宿場町には着いていないはずだ!」

「急ぎましょう! アンカー! 全力で走って!」

「行くぞジェット!」

オズウィン様は腰を浮かせ、馬体に鞭を入れる。前傾姿勢になったオズウィン様を背に、ジェットはすさまじい速さで駆けていった。

私も腰を浮かせ、アンカーに鞭を打つ。ドカカッと蹄が地面を抉る音を立てながら、私たちは探索羅針の示す方向へと向かうのだった。



王都を出て二時間弱。

私たちはひたすら馬を走らせ続けた。途中、徒の旅人や商人の馬車を追い越し、それでも休み無く走り続ける。

日が沈む前に捕らえたい。その気持ちでひたすら走り続けた。

先程まで動きの少なかった探索羅針の手紙の鳥がガラス球の中で激しく翼を動かした。

「いた!」

オズウィン様が声を上げ、前方を見やればペッパーデーの紋章付きの馬車が目視できた。途端、私の中で怒りがこみ上げる。

王城で行われたパーティーで魔獣を解き放ち、あげく私に暗示と催眠をかけたイザベラ様。私にオズウィン様から不興を買わせるために、私の心の内を暴いた。そしてメアリお姉様を辺境に嫁がせようと画策した張本人――!

絶対に捕まえる! ついでに横っ面ひっぱたく!

私はそう思いながら、眉間に力を入れて再びアンカーに鞭を入れた。


「その馬車! 止まれ! 止まれェッ!! 私は辺境伯ジェイレン・アレクサンダーが子、オズウィン・アレクサンダーである! 辺境伯代理権限によりその馬車の制止を命じるッ!」


オズウィン様が先んじて馬車に追いつき、探索羅針の鎖に飾られたアレクサンダー家の紋章を掲げる。御者は慌てながら馬を止め、馬車は停止した。

「何事だ!」

「ナイジェル様……!」

御者が馬車の中からの声に青ざめる。酷く怯えた表情に、私は思わず顔をしかめた。

オズウィン様は馬車の先を遮るように立ちはだかる。その堂々たる姿はジェイレン様によく似ていた。若かりし頃のジェイレン様はきっと今のオズウィン様のようだったのだろうと思える。

その佇まいは凜々しく勇ましい。

「辺境伯代理、オズウィン・アレクサンダーである。ペッパーデー子爵家の馬車と見受ける。相違ないか!」

私は馬車の後方で停止し、腰に帯びたボトルに手を伸ばした。

念のためである。


「……ッ!」

オズウィン様の大音声に、息を呑む気配を感じた。馬車の中にはふたつ気配がある。

馬車の扉が開き、中からイザベラ様によく似た、しかし神経質さを持ち合わせた黒髪の青年が現れた。

このとき私は違和感を覚える。先日、メアリお姉様がイザベラ様と出かけたときに迎えに来たのはこの人だったか? 三階からチラリと見ただけだったが、こんな雰囲気の人物だったろうか?

疑問符を浮かべつつも、私は馬車から降りてきた青年から視線を外さなかった。

やっとバトルシーン書けそうで嬉しいなぁ。

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