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貴女は私の光。

ペッパーデー子爵家には子どもが二人いる。それは双子だった。

双子の運命は、二人が生まれて間もない頃に訪れた旅の占い師により決められた。

私と兄が生まれて数日経った日の夜だったらしい。

見るからにみすぼらしく、男女の区別も付かないほどの枯れて老いた占い師に両親は始めこそ眉をひそめたそうだ。しかし占い師が見せた、アミュレットを目にした途端、態度を一変させ占い師を大層もてなしたのだという。

そしてもてなしの礼に、ペッパーデーを占った。


「双子の先に生まれた方は家を継ぎ、後に生まれた方は家を滅ぼすだろう」


その言葉に驚愕した両親は、占い師の助言を元に兄・ナイジェルと私・イザベラを育てるようになった。


両親は私を養子に出すことも、命を奪うこともしなかった。そうしなかった理由は主にふたつ。

ひとつは世間体。

ペッパーデーの領地は繊維産業を主体に、服飾やジュエリーに力を入れている。甲斐あって先代の国王陛下から王室御用達の名誉を与えられた。そんな名誉を賜ったばかりで注目される時期に子どもが死んだり、養子に出すというのは控えたかったのだろう。

もうひとつは私の希少性。

魔法というのは基本的に一人にひとつしか与えられない奇跡だ。それを私はふたつ与えられていた。


暗示と認識の書き換え――これが私の魔法だった。癒やしの力を持つ訳でもなければ、魔獣を討つことができる火力も無い。

魔法の能力としては正直強力なものではなかった。

暗示は本人の心が抱えているものを増幅させたり強めることはできるけれども、全くないものはどうにもできない。

犬が苦手な人間を、犬を見ただけで気絶するようにはできても、猫に関心のない人間を猫中毒にすることはできないのだ。一を百にすることはできてもゼロを一にすることは無理なのだ。

そして認識の書き換え。

これは範囲が決まっている。私を中心にして六十から八十歩、高さは多分二階くらいまで。その範囲の生物の認識を変化させる。

その範囲の存在であれば人間であれ動物であれ、その視覚情報から始まり嗅覚味覚聴覚すべての感覚を改ざんできる。

私を認識できないないようにすれば私は透明人間になれるし、目の前に扉があってもそれを壁と認識させることができる。


珍しい魔法の複数持ちとはいえ、その力を家族は「卑しい」と嘆いた。まるで詐欺師のようだと。

ごく稀に父母に命じられ、暗示を行うことをしていた。他の領地から職人の引き抜きを行う際不和を作り出したり、競合相手になりそうな商売敵を自滅させたり……

そのたびに両親は言葉こそ褒めていたけれど、その目は蔑みの色しか無かったのをよく覚えている。

それに人買いに売れば高値になるはずの私は生きる財産としてペッパーデーの家に繋ぎ止められていた。

自分を誇りに思ったことも自慢したこともない。幸い兄ほどではないが一応の教育は施され、王都の魔法学園にも入学させてもらえた。

それでも父には「余計なことはせずいろ」と言われた。

加えて母には「人とは距離をとりなさい」と言われた。

更に兄には「必要最低限以外関わるな」と――そう繰り返し言われながらの入学だったが。


人とは距離をとり、教室でも目立たず、クラスメイトと積極的に関わらず、成績は可もなく不可もなく……そうやって影のように過ごしていた。

だがそんな私の学園生活で光が差し込んだ。

それがメアリ・ニューベリーとの出会いだった。


「あら、それ『有罪機構』?」

入学してから半月ほどした頃の放課後。

各クラブが新入生を獲得しようと熱心な勧誘をしている時分だった。

静かな図書館の隅で本を読んでいたときに声をかけられる。

「え、と……ニューベリー、さん?」

「ご機嫌よう、ペッパーデー様」

男爵家の令嬢、メアリ・ニューベリーは気さくに、しかしどこか嬉しそうに話しかけてきた。彼女とはクラスが同じだけでまだ挨拶くらいしかしたことがない。というか、大半のクラスメイトが挨拶か最低限のやりとりしかしたことがない。

メアリは深い緑の目をキラキラさせながら、私が読んでいた本を指さしていた。


「ペッパーデー様はお好きなんですか? 『有罪機構』」

何か期待するような眼差しを向けられて、私は少し戸惑った。『有罪機構』は正直なことをいうとあまり好きではない。主人公のアラキエルの「双子の片割れで家族に軽んじられた」という設定がまるで自分のようで嫌だった。それでも創作物の中に救いを求めてしまい、つい読んでしまっていた。

私がなんと答えてよいものかと考えあぐねていると、メアリはガーベラが咲いたような満面の笑みを浮かべて話しかけてきたのだ。


「私『有罪機構』大好きなんです! 特に主人公のアラキエルがお気に入りですの!」

「そう、なの」

そのままほぼ一方的にアラキエルを主軸に『有罪機構』について話し続けるメアリ。私はあっけにとられつつ、相槌を打つしかなかった。

メアリの嵐の雨を思わせる一方的で激しい会話から解放されたのは、司書教諭が閉館の見回りで回ってきたときだった。

「ペッパーデー様、今日は本当に楽しかったわ!」

図書館から追い出された後も、無邪気に笑うメアリ。正直どう接していいかわからなかった。

学園生活で波風を立てないために、当たり障りなく接するのが一番だとは思った。

「……そうね。それでは失礼いたしますわ」

「またお話ししましょうね!」

無難な返事をしたはずだった。

無邪気に手を振り去って行くメアリに呆然とする。

「……春の嵐のようなひと」


そう思わず呟くくらいのインパクト。

胸に残ったのはムズ痒くなるようなくすぐったさとやわらかな温かさ。

自分の唇に触れ、熱い溜息がもれたことに、その夜はベッドの中で落ち着けなかった。


そして宣言通り、翌日からメアリは私に話しかけてきた。始めは相槌ばかりだったのが、いつの間にか声を出して笑うようになっていた。

積み重ねというものは恐ろしく、いつも明るく笑顔のメアリと接触が増えるにつれ、強く惹かれていた。もうどうしようもないほどに。

彼女のために何かしてあげたい。強く熱くそう思うようになっていた。

そんな可憐なメアリの夢は「王子様と結婚がしたい」だった。


私は彼女の夢を叶えるために、初めてメアリのために魔法を使った。


次回もイザベラ回です。

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