大変お恥ずかしいことです……
「せいやあああっ!!」
古木女が向かってくる私に気付き、蔦を鞭のようにしならせて攻撃してくる。
回避はしたがドレスの裾が引っかけられて破かれてしまった。しかし私は止まらず、その蔦を二振りの剣と化した刈り込み鋏でなぎ払う。同時に私の魔法を展開した。
私の魔法は熱を操る。
自在に操れるほど技術は無く、直接触れるか何かを介することで繋がるかしないと魔法は届かない。地面を介すると足場を悪くすることに繋がりかねないので、武器や矢にワイヤーを取り付けることで私は魔獣を狩っていた。しかも相手は植物系の魔獣――私は蔦を斬り払い、同時に熱を奪って凍り付かせていく。
古木女は悲鳴のような鳴き声を上げながら暴れ続けた。
魔物とはいえ、所詮植物。
肉薄した私がその胸に鋏を突き立てて熱を奪えばたちまち凍り付く。そしてそのまま地面に叩きつけ、その体を砕いた。
討伐が完了し、辺りが静まりかえる。
唐突な対・魔獣戦が終わり、緊張を解くと周囲のご令嬢方からの視線が痛いほど刺さっていることに気付いた。
――し、しまった……
冷や汗をかきながら私はその場に硬直する。ドレスは破れ、脚はむき出しで巨大な刃物を両手に握っている。
しかも直前まで魔物相手に戦闘をしていた……国王陛下と王妃様のいらっしゃる、王族の庭で、とっさとはいえ殺生を行ってしまった。なんてこった……
私は内心冷や汗をだらだらと流しながらその場に立ち尽くす。
「キャロル・ニューベリー!」
よく通る太い声。
私のことを呼んだのはなんと国王陛下だった。白い獅子のような国王陛下が、数歩歩けば手の届く距離にいた。
「はっ、はいっ!」
私は慌てて背後に鋏を突き立てて、破けたドレスの裾をつまんでカーテシーをする。
やらかしたことに心臓をバクバクと鳴らしながら、国王陛下の言葉を待った。
「よくやった。この場において、余はそなたに感謝を示そう」
「あっ、ありがたき幸せにございます!」
「破れたドレスの代わりを後ほど用意させよう。怪我がないか典医に見せるが良い」
「恐悦至極に存知あげます!」
緊張のあまり妙な言葉遣いになってしまったけれど許して欲しい。
まさか男爵令嬢ごときが国王陛下からお言葉を賜れるなどと思わなかったからだ。
そしてそのまま昼の部のパーティーは終わり、私はお城の一角で手当を受けることになった。
私はあちらこちらの令嬢と給仕・衛兵から視線を集め、そそくさと引っ込んだので、そのあと何があったかは知らない。
◇◇◇
そして騒ぎが落ち着き、無事城内での夜会が開かれることとなる。
昼間の魔獣討伐の騒ぎがあったせいで、あちこちから飛んでくる視線が痛い。魔獣を倒しただけでなく、貴族の末端もいいところの男爵家の小娘が国王陛下にお声がけしていただいたことも悪かった。
無駄に目立ってしまったことの辛いこと……悲しいかなあちこちでひそひそとあまり良くない方向で噂されているようだった。
メアリお姉様はそんな私の側にいたくなかったのか、他人の振りでどこかへ行ってしまった。薄情な姉である。
これではとてもじゃないが婚約者捜しなど出来るはずがない。私は肩を落としながら、会場の隅で壁の花になっていた。
しばらくすると会場が色めき立つ。
心底落ち込んでいた私はその様子に顔を上げるでもなく、頭の中を無にしていた。
「キャロル・ニューベリー嬢」
突然声をかけられ、顔を上げる。
そこには精悍な顔つきの若獅子と表していい青年が立っていた。
彼には見覚えがあった。
確かアレクサンダー辺境伯のご子息、オズウィン様だ。学園で見かけたことこそあるものの、関わった記憶の一切無い人物だった。
特徴的な赤毛にブルーグリーンの瞳の威丈夫はさっと手を差し伸べる。
「私と踊ってはくれないだろうか?」
きょとん、としている私に対し、オズウィン様は笑みを浮かべながら返事を待っている。
「あ、ありがとうございます」
私はオズウィン様の手を取り、音楽に合わせて踊る。幸い、見られる程度には踊れるので、恥はかかないだろう――別方向でかいてはいるが。
この時点で私の頭の中は踊ることよりオズウィン様より、今後の進退についてが頭の中を巡っていた。
「(昼間やらかしてしまった私に対するオズウィン様の気遣いに泣きそうになる……ああなんとお優しい方だろう。普通貴族のご子息なんて令嬢が魔獣退治なんてやれば引くだろうに。ああでも多分私の結婚計画今日で台無しになったなぁ。お父様になんて説明しよう……)」
この時オズウィン様が何か熱心に話しかけていたけれどだいぶ上の空で、右から左。
控えめに「はい」と相槌を打つだけの人形のようになっていた。
「ニューベリー嬢」
「はいっ?!」
思考が飛んでいたタイミングでオズウィン様に名前を呼ばれる。辺境まで飛んでいた意識が王城に戻ってきて、体がびくりと跳ね上がりそうになった。
そんな私をオズウィン様が楽しげに見つめてくる。
「どうか私の婚約者になってもらえないだろうか?」
「……へ?」
「貴女のように躊躇いなく魔獣を屠れる女性を、私は求めていたんだ」
オズウィン様の言葉を、私の脳は即座に理解することが出来ずにいた。
彼は何を言っているのだろう?
この後、私は今回のパーティーがオズウィン様の花嫁捜しが目的であることを聞かされることになるのだが……どこからか飛んでくるメアリお姉様の殺気立った視線にそれどころではない状態だった。




