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キャロルはクソデカナイフを手に入れた!

イザベラ様に「不安よね?」と言われる度に胸の中に妙なものが芽生える感覚にされていた。

不安の種が芽生え、イザベラ様が見つめささやくほどそれが育っていくような、そんな感覚――

イザベラ様に与えられたあの感覚は魔法だったのではないだろうか?

「キャロル嬢?」

私が洗脳・暗示にイザベラ様を結び付けて考え込んでいると、オズウィン様が声を掛けてくる。はっとして背筋を正すと、エドワード様は首を傾けてこちらを見ていた。

「何か心当たりでもあるのかな?」

見透かすようなエドワード様の言葉に、先ほどまでの考えを口にしようと思った――


「……いえ、確証もなく口にするのははばかられますので」

が、私はイザベラ様のことを口にはしなかった。不用意に疑念を持ちだして、メアリお姉様の友人を罪人のようにしたくはなかった。

せめてイザベラ様が私に魔法を掛けたという証拠でも無い限り、私が余計なことはすべきでないと思うのである。

「そう? それじゃあ、また進展があったら連絡するから」

エドワード様に手土産の茶菓子を持たされ帰ることになった。

なんというか、こう……振り回された感覚が強かった。城を出るまではしっかりせねば、と気合いを入れて部屋を出ようとすると、エドワード様が思い出したように呼び止めてきた。

「ニューベリー嬢。さっきの映像、君のお守りになるなら持っていて良いよ」

なんとも余裕のある言葉である。

あの程度で自分の勝ちは揺るがないと思っているのだろう。

私はブローチを外し、エドワード様の前に置く。

「中の情報を削除した後、お返しください。こちら借り物ですので」

それならこちらもこの程度の情報などに縋るものか。挑発するようにエドワード様を見てから部屋を辞した。


「キャロル嬢、家まで送ろう」

「ありがとうございます」

オズウィン様は手土産を私の手から取り、エスコートをしてくれる。

お互い無言で城の中を進んでいたが、途中、オズウィン様が足を止める。

どうしたのだろう? 数歩進んでしまったため、オズウィン様を振り返った。

「……キャロル嬢、本当に申し訳なかった」

オズウィン様が腰を直角に曲げて頭を下げる。一瞬、ぎょっと目を見開いてしまう。

「お、オズウィン様?」

「魔獣肉もモナとの手合わせも、俺の非常識を押しつけてしまった」

頭を上げないオズウィン様に慌ててしまう。

ジェイレン様に保証こそ貰ったが、まだ「下級貴族にそんなことしなくても……」という気持ちがでてしまう。

エドワード様と違って、素直な態度を取られるとキツく言い返す気も失せる。

私は頬をかきながら「気にしておりませんから」としか返せなかった。


またアレクサンダー家の馬車に乗せられ、別邸まで送ってもらうことになった。

城から出るタイミングで、オズウィン様がお付きの人から何かを受け取っている。ホルダーに収められたたナイフだった。

かなり大ぶりなナイフをオズウィン様は手慣れた様子で腰に隠すように装着する。辺境の人々は基本的に常にナイフを携帯しているのがよくわかる手際の良さだった。

そのとき私ははっとする。

馬車に乗り込む前に、オズウィン様に向かって私は申し出た。


「……あの、オズウィン様。もしよろしければそのナイフの採寸をさせていただけないでしょうか?」

オズウィン様がきょとん、とした表情をしていたので慌てて付け加える。

「あの、お手紙書かせていただいたのですが、ナイフケースを贈らせていただきたくて……! 普段お使いになっているナイフのサイズを伺いたくて……!」

あっ、でも採寸する道具もない――

そもそも今日会えると思わなかったのだから当然なのだけれど……あわあわ、と身振り手振りで話す私に、オズウィン様は微笑ましいものを見る目を向けてくれる。

そして腰に手を回し、ホルダーごとナイフを外して私の手に乗せてきた。

私の前腕ほどの長さと幅のあるナイフはずっしりとしていて、中型の動物程度なら一振りでその息の根を止められそうなほど貫禄がある。

この重さを易々と操るであろうオズウィン様を想像し、彼の強さを察した。


「俺が一番使っている剣鉈だ。これをキャロル嬢に預けよう」

「えっ、よ、良いのですか?」

まさか借りられると思わず、私は慌てた。

よほど使い込まれているらしく、握りの部分は変色している。刃を視ずとも、オズウィン様愛用の武器なのだとわかった。

「ああ、婚約者殿が俺にプレゼントを、と言ってくれているんだ。どうか預かってくれ」

なんだか信頼されたような気がして、妙に嬉しかった。武器は戦地で背中を預けられる者か実力を認めた相手にしか預けないというも人間も少なくない。

婚約して間もない私に預けてくれたことに対し、深く頭を下げた。

「このナイフに相応しい鞘を作らせていただきます」

次はオズウィン様が目を瞬かせていた。


「キャロル嬢が作るのか?」

「はい。革で作らせていただきます」

意外、だっただろうか。

刺繍や手芸をする御令嬢は少なくないが、それを革で行う人はあまりいない。

ものによっては分厚いし、縫いにくいし。

それに革に刺繍をするのは遊牧民が多い。

私はよく狩りをする。その度狩人に聞いて教わってきたので、皮を剥ぐことも加工することもできる。お父様やお母様、メアリお姉様や学園時代の友人にも、自ら狩った動物の革で色々作った。

特に花のブローチは友人にも好評で、会う度に彼女たちの帽子や胸元を飾っている。

自信があるので任せてほしい。

そんな私の熱が表情からオズウィン様に伝わったらしく、彼は目を細めて微笑んだ。


「それは楽しみだ。まさか一番最初にもらえる贈り物が手作りとは」

オズウィン様の「手作り」という言葉に急に恥ずかしくなる。学園時代、平民出身の生徒たちが調理の授業で作った手製の菓子を好いた相手に渡しているところを見たことがあった。

木っ端ではあるものの、貴族である私は料理は――狩りで仕留めた獲物を焼くくらいはしていたが――しない。そのため彼らがするような手作りのものを相手に贈る、という甘酸っぱい行為に私は縁が無かった。

今回手作りするものは菓子ではない。しかし菓子と違って一瞬で消えないものだ。


「はい、お任せください」


私はナイフをぎゅっと握り、オズウィン様を見つめた。


ちょっぴりオズキャの仲が進展しました。

明日も投稿予定です。

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