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お姉さまは夢見がち。

短編『男爵令嬢は姉にさっさと結婚してほしい。』に評価、ポイント、いいね、ブックマーク、感想をしてくださった皆様、おかげさまで2022年8月28日の総合日刊ランキング3位になりました。

続きを、と感想をいただきとても嬉しく思い、連載を書くことにいたしました。

冒頭三話までは短編とほぼ同じです。


「私、王子様と結婚する!」



この台詞が少女の言葉であるならば、とても微笑ましかろう。しかし残念なことに、この言葉を吐いたのは私の姉、メアリ・ニューベリー。年は二十歳である。


ふたつ上の姉は王都の魔法学園に黄金世代とか言われる王族、公爵家などが大層多い年に入学した。なんとクラスメイトに王太子殿下や公爵子息、宰相閣下のご子息、将軍閣下のご子息までいたらしい。

そんな中で勘違いしたのか、昔からの夢だった「王子様と結婚」に現実味が帯びたと思ったらしい。

幸い、メアリが彼らに取っていた行動はギリギリ常識の範囲内のことであったためお咎めなどなく無事卒業。しかし卒業式の時に別のご令嬢方が一悶着あったらしい。おかげで各有力ご子息たちは皆婚約が解消されてしまったのだとか。



そのあたり、私は全くと言っていいくらい興味がなかったので、詳しい話は聞いていない。そもそもそういったご子息たちとご縁を得ることなどまず無理だと私は思っていたからだ。

何故って、我が家の爵位は男爵だから!

四回転半した思考を持っていなくてはそんな夢物語、十五の時にはなくしているというもの。しかも人が必ずひとつは宿すという魔法と言う名の奇跡――姉はこれが「空を飛ぶ」! そんな希少性もあったものじゃない上に兵士に求められるような魔法では王族や上位の爵位の方々と縁づくなど無理なことだと何故わからない!?


姉の見た目は悪くはないが、飛び抜けて美しいわけでもない。やわらかそうなほぼ茶髪のキャラメルブロンド。ワインボトルのような深い緑の目。スタイルに関しては平凡。が、自己肯定感だけは斜め六十九度にすっ飛ぶ勢いで高かった。そのせいか姉は断固として拒否をする。目を覚まして豪商か子爵家辺りと婚約して欲しいのに……

私は姉の先を越すわけにも行かないため、婚約者を得られずに学園卒業を迎えてしまった。私の見た目が華やかであれば声をかけてくださる人のひとりくらいいたかもしれない。しかし私は赤みのあるブラウンの髪に明るいグリーンの目でつり目――少しばかり気が強そうに見える顔つきの上趣味が狩りでは縁もつかぬというもの。



それもこれも姉様に遠慮してしまった私のせい――その苛立ちを発散するため馬を駆り、狩りに赴くのだった。



◇◇◇




「お嬢様! またおひとりで魔獣狩りに行かれたのですか?!」

目が飛び出そうな勢いで驚くのはメイドのマリーだった。

驚くのも仕方ない。なぜなら馬の上には立派な鹿の魔獣の死体が布でぐるぐる巻きになって乗っていたからだ。

もちろん血抜き済みである。


うちの小さな領地は魔境と呼ばれる魔獣たちが住まう地との防波堤である辺境に一部隣接している。辺境伯たちのおかげでニューベリーの領地が魔獣に襲われることはないものの、俗に言う「はぐれ」と言われる魔獣が偶に紛れ込む。めったにないものの、それなりに脅威だ。目撃情報からある程度訓練した者であれば狩れるレベルの鱗鹿だったため、お父様に許可を得て仕留めてきた。


魔獣の放置は魔獣を引き寄せるので、処理のために持ち帰る。しかも今回は角が大きく立派な鱗鹿だったので素材としてかなり有用に使えるだろう。

魔獣から取れる素材は辺境以外ではかなり高価になる。良い収入になるので加工もしてもらうために持ち帰るのだ。


氷室に入れていたと思われるくらいひんやりした鱗鹿を降ろしながらマリーを見やる。

「そういえばマリー。とても慌てていたようだけど、どうかしたの?」

私の言葉にはっとしたマリーが身振り手振り大慌てでしゃべり出した。

「そうです! お嬢様旦那様からお呼びです!! とても重要なことらしくて!! お急ぎください!」

「え、ええ? 着替えなくていいのかな?」

「とりあえず急ぎましょう! 旦那様も奥様も王都の使者がいらしたせいで細かく振動しながら移動しているんです!」 

マリーの今までの七割増しくらいの慌てっぷりに、流石に不安になる。しかも細かく振動しながらって、そんなに震えるような事態が起きているのか? と思った。

まさか爵位剥奪とかではないよなぁ、と慌ただしく父の書斎へ向かったのだった。




マリーが先んじ、早歩きで進む。

私は令嬢らしからぬ大股歩きで彼女について行った。

父の書斎へ赴き、扉をノックすれば「入りなさい」と父の声が扉越しに聞こえた。気のせいか揺れの酷い馬車に乗ったときより震えている。

「遅くなりまして申し訳ありません」

「あらぁ、おそかったじゃないキャロル。また狩り? そんなじゃ嫁のもらい手が着かないわよぉ」

「メアリお姉様……」


ああいやだ。こうやって顔を合わせるとこの手の話を必ずされるから。

メアリ姉様は家では手芸か、友人とお茶会ばかりやっているので顔を合わせたくなければ狩りに行くのが一番いい。

次点は部屋にこもって本を読んでいることと弓矢の練習。どちらもメアリ姉様が近寄らないからだ。

メアリお姉様に対してうんざりした顔を隠す気はない。

それよりもデスクに肘をつきながら小刻みに震えるお父様の方が気になった。


「お父様、一体何があったのですか?」

お父様は震えるまま、口を開く。

気のせいか顔色もあまり良くない気がする。

「……国王陛下から王都で行われる王家と公爵家合同のパーティーに出席するよう、手紙が届いた」

「あら! それは大変光栄なことではなくて? 是非わたしをおつれくださいな!」

メアリ姉様はさも当然のように声を上げる。興味がないとはいえ、私の意見を一切聞かない辺りメアリ姉様の図々しさが垣間見える。


「王家と公爵家合同なんて……きっと第二王子のエドワード様とケリー公爵のご子息ニコラ様の花嫁捜しに違いないわ! だって未だにご結婚なさっていらっしゃらないという話だもの!」

きゃあきゃあと頬をピンクに染め、喜ぶメアリ姉様。お父様はそんなこと一言も言っていないのにどこからそんな情報を読み取ったと言うのか。

なんというお花畑か……

するとお父様がちらりと私の方も見る。

「『メアリ・ニューベリーおよびキャロル・ニューベリー男爵ご令嬢』と書かれている」

なぜに?!

私は思わず目を見開いた。


「ま、待ってくださいお父様。私もですか?」

お父様が首を縦に振り肯定する。

……お姉様の視線が痛かった。

やめてくださいお姉様。私は王子様にも公爵家ご子息様にも興味ありませんから……


「予定は来月。ドレスの準備をしなさい」

「新しいドレスを用意しなくっちゃ! アクセサリーも!」

メアリお姉様はお辞儀もそこそこに、いつもとは比べものにならない速さで部屋を飛びだしていった。

残された私は、お父様の方を見る。

「……お父様、お母様は?」

「……震え上がって寝込んでしまった」

ああ、やっぱり……メアリお姉様が何かやらかさないか心配でならないのだろう。

思わず頭を抱えると、お父様は申し訳なさそうな顔で私を見てきた。

「キャロル、メアリのことは気にせず、お前も婚約者捜しをしていいんだぞ? うちは男爵だし、私はそこまで繋がりが欲しいわけではないし」

「……ありがとうございます、お父様。王都滞在中に挑戦してみます」


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