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まおーさまとユキのボレロ  作者: 石川五左衛門
第一部 過去編
9/9

8 アーニー

 翌朝、レフラが目を覚ますとレオンはまだ寝ていた。相方の寝顔観察をそこそこに、部屋の扉へ向かった。床との隙間に差し込まれた手紙に気がついて確認する。


 差出人にアーニーの名前があった。

 昨日の約束の後、結果に関わらず扉の下に手紙を差し込んでもらえるよう伝えていたのだ。中を見ると待ち合わせの場所と時間が書かれていた。


 それしか書かれていなかった――――


 「見つかっているといいわね………」


 頼まれる運転手にとっては、自分に関係の無い仕事を請け負っても、報酬金を積まれる以外はめぼしいメリットはない。むしろ厄介ごとを引き受けられると警戒して断られる可能性もある。

 が、アーニーのあの自信のある目を見せられると、もしかしたら本当に見つけてくれるかもしれないと期待を寄せていた。そして今こうして手紙を受け取っている。

 彼女を信じて待ち合わせの場所に向かうしかなかった。


 時刻はそろそろ昼近くを回る頃。レオンとレフラは指定された場所に来ていた。そこは飲食店や酒場のあるところだった。

 20分ほど早めに到着してアーニーを待つ。お昼時もあって通りには多くの人が行き交っていた。

 ツンツンとレフラの肩をつつく感触がして振り向くと、見知らぬ女性がそこにいた。クリーム色の少しよれたチュニックを着ており、大きめな眼鏡をかけている。髪は三つ編みしていた。頬にそばかすが見える。こちらを見ているわけでもなく、自分たちと同じように行き交う人たちを眺めていた。


 「どうした?」

 「え?……あ、何でもないよ」


 気のせいかと不審がるレフラ。そろそろ約束した時間になる頃だったが、一向に姿が見えない。また肩にツンツンとつつく感触があった。再び振り向くと先ほどの女性が、さっきと変わらない状態でたたずんでいた。おもむろにタバコを取り出すと、火をつけて吸いだした。やや不機嫌そうな表情に変わった。

 もしやと疑った。


 「あのー、」


 おそるおそる声をかけてみる。人見知りというわけではなかったが、人違いなら見ず知らずの相手に迷惑をかけることになる。けれども隣の女性に何か違和感を覚えた。

 そう、髪が金髪なのだ。そして喫煙をする人。眼鏡はかけているが、目元も何となく見覚えがある。これだけで決めつける訳にはいかないのだが、見知っている人の中で、彼女しか思い浮かばなかった。


 「もしかして、アーニーさんですか?」


 聞かれた女性はタバコを吸ってフーーーと煙を吐くと、レフラの方をチラッと見た。


 「そうよ。やっと気づいたのね。さ、行きましょ」


 夜の店で見た時とのギャップの大きさに驚く。確かに目元や髪の色は同じだが、この容姿からアーニーを連想させるのは全く出来なかった。


 「レオン、アーニーさんが来たわ」

 「どこに?」

 「この人よ」


 隣で黙っている女性を指さした。「まさか!?」と驚くレオン。昨日見た彼女とは明らかにかけ離れた容姿に、自分の目を疑っていた。アーニーはそそくさと近くの店に入っていった。振り向いて手招きする。

 3人はアーニーが入っていった店で昼食を取っていた。彼女は相当お腹が空いていたのか、何度もおかわりする。あっという間に10人分を平らげてしまった。


 「ちょっと、食べ過ぎよ?」

 「そう?じゃあ、あと1つで終わりにするわ」


 信じられない大食漢だが、特別太っている訳ではない。いったいその体のどこに収まっているのか――――。レオンとレフラはとっくに食べ終わっていた。

 11皿目をキレイにして、食後に頼んだ紅茶を飲んだ。一息ついたアーニーは真剣な目つきに変わり話を切り出す。


 「さて、お腹も膨れたことだし本題に入りましょうか。まず結論から言うと、引き受けてくれる人はいたわ」

 「そうか!」

 「よかった!ありがとうアーニーさん!」


 朗報だった。半ば諦めていただけに、協力してくれる人がいると聞けて希望が見えてきた。紅茶を飲み終えると、「でもね…」と前置きをしてバッグからタバコを取り出した。

 テーブルにあったマッチで火をつけ吸った。ぷはぁーっと煙を吐く。


 「まだ直接話していないのよ」

 「――――どういうこと?」

 「これから話をしに行くんだけど、あなたにちょっと協力してほしいのよね」


 そう言ってレオンを指さした。何が何だか訳が分からなくなっている。協力すると言っておいて協力しろというのはどういうことなのか。


 「なぜオレなんだ?」

 「実は、その話をする相手が私の彼氏でね、トラックの運転手なのよ」

 「彼氏!?いたんだ!意外ね」

 「っ……失礼ね!あなたこそ、そんな“なり”でよく彼氏に文句言われないわね。いかにも男を誘うような服装をよく平気で許しているわよ」


 アーニーはレフラの露出高めな服装を指摘した。確かにチューブトップとショートパンツ姿は露出が高いと言われても仕方が無い。スナックでのアーニーも色っぽかったが、レフラほど露出はなく、むしろ『大人の女性』というのを醸し出していた。


 「オレは何か羽織れと言ったんだが、言うことを聞かなくてな――――。というより、オレはこいつの彼氏ではない」

 「そうなの?あまりにも仲良さそうだからてっきり………。というか、鈍感すぎじゃない?」

 「それはいいからっ!で、レオンにどんな協力をさせるの?」


 レフラは慌てて遮り話を戻す。


 「これから彼氏に頼みに行くんだけど、…………その、依頼者がいた方が話が早いと思うのよ。それだけ」

 「なるほど。そういうことなら協力しよう」

 「それなら私も行くわ」

 「え、あなたも行くの?………まぁ、いいけど」


 レフラの同行に若干動揺しつつも了承したアーニー。話がまとまったところで会計をし、店を出る。彼女の彼氏がいる家へ向かった。

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