5 侵入
夜が更け、おぼろ月が僅かに照らすも闇が荒野を支配している中で、レフラはレオンの肩に乗ってハントストンを囲む壁から頭を出し、村の中の様子を伺う。
ハントストン油田は日中こそ石油掘削で賑やかだが、夜ともなれば薄暗く静まりかえっていた。とはいえ辺りが真っ暗ではなく、幾つかの街灯が機械の一部や通路を照らしていた。その光を頼りにするように3人の警備兵が巡回している。
肩に小銃を掛けているのが見える。
その他の部分は光源が無く闇だけが広がっていたが、なんとなく建物っぽい物がかろうじてうかがえる。レフラの覗くそばにも幾つかあり、掘削機は一番遠いところにあった。ここならば侵入するにしても、一番気づかれにくそうだ。
「いいわ。この辺りなら大丈夫そうよ」
「警備はどうだ?」
「もう少ししたら誰もいなくなるわ」
「よし、レフラはトラックに乗ってスタンバイしてろ」
「オッケー!」
レフラはレオンから降りるとトラックに乗り込んだ。エンジンをかけていつでも発進できるように準備をする。レオンは壁を前にして剣を構えた。少し時間を置いて次の瞬間、壁の一番下を剣撃で地面に沿って横に斬り、次に縦に2カ所斬った。
切り取られた部分が若干内側にずれる。その境目めがけて勢いつけてジャンプし、一歩二歩駆け上がりてっぺんを掴んだ。体重をかけて切り出した部分を手前に引いた。少しずつ倒れてきて、ズシン!!と切り出した壁が倒れた。
それを合図にトラックはライトを消した状態で通過していく。中に入ったのを確認したレオンも内側に入り、あらかじめ切り取って用意しておいた幌を壁に貼ってハリボテのように塞いだ。
作業を終えるとすぐさまトラックに乗り込んだ。
「これならすぐに気づかれないだろう。色も同じにしてあるから多分大丈夫だ」
「さすがレオン!よく思いついたわねっ」
「お前の『秘密の入口』がヒントになった。それより早く建物の影に隠れるんだ」
「わかってるわよ」
レフラは近くにあった建物の影にトラックを隠した。バレていないか様子を伺うレオン。
さすがに壁が倒れた音が大きかったのか、警備兵に気づかれてしまったようだ。灯りの動きが分散していく。どうやらそれぞれ分かれて巡回を始めたようだ。
となると1つ問題が出てきた。
「まずいな。もし壁伝いに見回っているとしたら、あの壁に気づかれてしまう」
「レオンどうする?」
「下手に動くとオレたちの存在を教えることになるな………」
何か策は無いかと考えていると、遠くの方から灯りがこちらに向かってきていた。
このままでは見つかってしまう。
レオンとレフラはとっさに身を屈めて隠れた。横まできて照らされて、そのまま通過していった。そおっと窓から外を覗くと、既に見えないところまで離れて行っていた。
「なんとか見つからずに済んだな」
「ねぇ、壁はどうするの?」
「奴らはオレたちよりも内側を歩いていた。つまり壁沿いに歩いているわけじゃ無い。あれならおそらく大丈夫だ」
「だといいけど………」
本当に大丈夫という根拠は無かった。彼らの警備のいい加減さに期待するしかなかった。
やがて警備兵は再びいなくなった。どうやら幌の壁に気づかれるようなことはなかったようだ。
「警備兵と言ってもチェックは甘いんだな。おかげで助かったが」
「さすがに壁が幌になっているなんて夢にも思わないでしょうね」
「とりあえず、暗いうちに中の状況を確認するんだ。なるべく闇に紛れて行動しよう」
「わかったわ」
2人は身を低くして油田域内を探索する。
掘削機が2台あり、どちらも止まっている。おそらく朝になれば再び動かすのだろう。
そして工場のような建物が視界に入ってきた。レフラに指で合図すると、工場の壁に背中を当て、窓をこっそり覗いて中の様子を探るが暗くてよく見えない。それでもかろうじてドラム缶のような物は見つけた。
「おそらくここに石油がドラム缶に詰められて保管されているはずだ。多分、明日出荷する用の石油だろう」
「あれいくついるの?」
「そうだな。10本は欲しいところかな」
10本というと、荷台がいいとこ一杯になるくらいの量だ。
だがここでまた1つ問題が起きてくる。運転手を欠いた状態でどうやって確保するのか。
トラックだけ投げ捨てられていた事を推察すると、運転手は車を下ろされどこかに幽閉されているか、もしくは既に殺されてしまっているかのどちらかだった。
「石油を積むにはあの運転手が要るだろう。オレたちだけではかえって怪しまれるかもしれないからな。外の荒野を見て回った限りはいなかったから、おそらくこの村の中にいるだろう」
「手分けして探した方が良さそうかもしれないわね」
「さすがにこの時間帯でうろついても仕方が無いだろう。明るくなってから探す方が無難だ。それまで待機していた方がいいかもしれない」
「それしかなさそうね」
レオンとレフラは、トラックの荷台の幌の中で夜が明けるのを待った。