3 遭遇したものは
薄暗い森の中を走るトラック。道は一応あるが、あまり整備されていなく凸凹になっている。トラックのフロントガラスに木の枝が当たる。幌にも擦れて、葉を千切り落としながら通過していった。
レオンとレフラ、運転手と横に3人並んでいて、真ん中にレフラが、ドア側にレオンが座っている。レオンは窓の縁に肘を置いて、退屈そうに森をずっと見ている。レフラは運転手とレオンに挟まれていて、ボンネットに手を置いて体を安定させている。時おり下から突き上げられてバランスを崩しそうになり、咄嗟にレオンの腕を掴んでバランスを保った。
「何をしている?」
「いいでしょ別に」
「腕を掴むな」
「そう、わかったわ」
腕を離し首に腕をかける。揺れの勢いで喉が絞められた。
「ぐっ………首を絞めるな!」
「ねぇ、首と腕どっちがいい?どっちも断ったら髪に掴まるけど」
「運転手、もう少しゆっくり走ってくれ」
「わかったっす」
「時間がないんだからダメよ!」
「………わかったっす」
「ねぇレオン、どっちがいい?」
「…腕でいい」
「りょーかい!」
「まだ森は抜けないのか」
「もうすぐっすよー」
森の奥から光が見えてきた。ようやく森を抜け、荒野に着いたトラック。
ところどころに草が生え、大小様々な岩の塊も散見できる。サバンナとでも言おうか、岩陰に獣が潜んでいてもおかしくない大地だった。そのまま走っていると、目の前に車が往来して出来た道が線を引いたように真っ直ぐ伸びていた。
「この道を左へ行けばハントストンっすけど、敢えて右へ迂回して向かいます」
「なるべくウィリアから離れたルートを通るのね」
「それもあるっすけど、ぐるっと回り道してタバリ方面から向かえば、タバリ村から来たっていう風に誤魔化すことも出来るっす」
「そこまでする必要があるのか?」
「念には念をっすね」
「絶対にバレないための策よね運転手さん?」
「そうっす」
「迂回するなら日数もかかるな」
「大丈夫っすよ。そのための1週間なんすから」
「猶予が1週間あるからと言っても、早いに越したことはない。ハックも早く戻ってくることを望んでいる」
「でもバレたら元も子もないわよ?」
「………それを見越しての1週間分の食料か」
トラックはハントストン油田に背を向け、道に沿ってポトロコ方面へ走る。たまに岩影から獣が見え隠れしている。
しばらく走り陽が頂点に差し掛かる頃、左へ伸びる枝道が見えてきた。このまま真っ直ぐ進めばポトロコに着く。
「見えてきたっす。ここを左に曲がるっす」
「曲がればタバリ、直進すればポトロコか」
「ポトロコって、今も人いるの?」
「一応いますよ。風が強くて住みづらいっすけど、魚が獲れるんすよ」
「へぇー、なんで風が強いの?」
「理由は分からないっす。海の方へずっと風が吹いていくんで、簡単に沖へ流されて戻って来られなくなるんすよ」
「風の通り道になっているんだろ。なぜそんなところに住もうと思ったのか理解に苦しむ」
「そんなの………魚が獲れるからじゃない?」
「いかにも単純な考えだな」
「ぐるっと迂回しちゃったもんね。なんとか挽回してよ」
「わかってるっすよー」
運転手は左折してエンジンをふかす。土煙を立てながらタバリ方面へ向かう一行。
今のところは順調そのものだった。
ふと、運転手が前方に何かを見つける。近づいていくと、それが何なのかが分かった。
「人の足っす!誰かが倒れてるっす!」
運転手は減速する。
「何をしている。そのまま通過しろ!あれはもう死んでいるぞ」
レオンの声を無視し、運転手は少し離れたところで停車した。
「お前!こんなところで止まって獣や盗賊が来たらどうするんだ!?」
「あの人を放っておけないっす。様子を見てきてほしいっす」
レオンは頭を抱えると、仕方がないとばかりに様子を見に行った。
もし生きているのなら助けることになるが、座席はもう空いていない。幌の中で辛抱してもらうしかないかと思っていたが、その心配はすぐになくなった。
そこには、太ももまでしかない右足が転がっていたのだ。何かに食い破られたように切り口がボロボロになっている。触ってみるとまだ暖かく、襲われてまだそれほど経っていない。
「もしかしたらまだ近くにいるかもしれない」
レオンは辺りを見回すが、怪しい存在は確認できない。岩陰に隠れている可能性がある。運転手に先へ進むよう合図をした。トラックは徐行しながら道を進んでいく。
レフラはトラックのキャビンの上に登って周囲を見渡した。岩が点在する荒野の景色を見渡す。レオンの後方に動く影を見た。
「レオン!後ろ!!」
レフラの声に、レオンは咄嗟に振り向いた。サッと岩陰に隠れる何かを見た。レフラの位置では岩が死角になってよく見えない。だが、どの岩に隠れているのかはわかった。剣を構えて岩に近づく。
まだ動いてくる様子はない。剣が岩に当たる距離まで近づいた時、レオンから見て左側から何かが飛び出した。ライオン大くらいの大きさのある黒いドーベルマンみたいなブラックウルフが飛び出してきた。目は鋭く獲物を睨み、爪や牙は獲物を捕らえるためにむき出しにしている。
ジャンプしてレオンに喰らいつこうとする。レオンは瞬時にブラックウルフがいた岩へ、横に転がるようにかわす。レフラが加勢するためにトラックから飛び降りてトンファーを構えた。レオンとレフラがブラックウルフを挟む形になった。レフラが着地した音に反応したブラックウルフの隙を、レオンは見逃さなかった。今だ!と、跳躍して攻撃する…ハズだった。
プアアァァーーーーーーーー!!!プアアァァーーーーーーーー!!!
ブラックウルフがレフラに反応したその時、運転手がトラックのクラクションを鳴らした。今度はレオンがその音に驚いて立ち止まり、ブラックウルフは逃げ出した。
「くそ!」
仕留め損ね逃げていったブラックウルフを見届け、レオンとレフラはトラックに乗り込んだ。再び発進する。
「いやぁー、追い払えてよかったっすねー」
「ホントね!もう、どうなる事かと思ったわ」
安堵する2人をよそに、レオンは考え込んでいた。
「どうしたのレオン?」
「あの場所には死体しかなかった。おかしいと思わないか?」
「どういう事?」
「普通ならトラックで荒野を移動するはずだが、見当たらない」
「徒歩で移動してたとかっすか?」
「まさか!時間がかかるし獣に襲われるしでメリットは何もない」
「じゃあなんで死体があったんすか?」
「………たぶん盗賊に襲われたんだ。トラックから投げ出され盗まれて、荒野をさまよっていたところをブラックウルフに襲われた………というのが自然だろう」
「じゃあ、近くに盗賊がいたって事?」
「死体になる前にどのくらいの距離を歩いてきたかは知らないが、もしそれほど歩いていなかったのなら近くにいたのかもな」
「マジっすか………盗賊には会いたくないっす」
「すでにトラックに乗って移動してしまった………とも考えられる」
「とにかく先を急ぐっす」
運転手はアクセルを踏んでトラックを加速させた。レオンとレフラは、先ほどの件もあり周りを警戒している。
日が傾いて暮れてきた頃、緩やかな左カーブの道を走っていると、直進方向と右方向の2つに別れる道が見えてきた。目的地のハントストンへはこのまま直進すればいい。
「ハントストンまではまだかかるのか?」
「まだまだあるっす」
「このまま行けば盗賊と獣のいる中で野宿ね」
「右に行けばタバリの村っす。こっちは夜までには着くっすよ」
「よし、タバリに寄ろう。日にちにはまだ余裕があるからな」
「了解っす」
一行は野宿を避け、タバリに泊まることにした。
【登場人物】
レフラ
22歳/165cm/女/トンファーの武器を持つ。
気が強くて面倒見がいい