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まおーさまとユキのボレロ  作者: 石川五左衛門
第一部 過去編
3/9

2 出発

 フリースの村では、魔族からの提案に戸惑っていた。


 「おい、これって…今までの差別を無くすチャンスじゃないか?」

 「バカ言え!今さらそんな事でハイそうですかと納得できるかぁ!」

 「奴らのことだ、絶対に何かを企んでいるはずだ」

 「おいハック、あんたはどう思う?」


 ハックはしばらく考える。確かにこれはまたとないチャンスだ。しかし、ほいそれと対話の場に行くのも危険すぎる。


 (対話だけで終わるとは思えない。これに乗じて、絶対何かを仕掛けてくるハズだ。ならば………)


 「対話の席には行く。ただ、それをうまく利用して積年の恨みを晴らす。絶対に悟られるな。向こうにはいつも通り弱い人間の姿を見せるんだ」


 ハックは対話の場を利用して、魔族に一矢報いることを決断した。その場にいる全員が動揺した。みんな魔族の強さを知っているからだ。しかし、いつまでもこのままでは、何も進まない。このチャンスをハックは逃したくはなかった。


 「大丈夫だ。今日まであらゆる対策を取ってきた。奴らは奢りきって隙だらけになっているはずだ。必ず上手くいく!注意すべきは魔法だが、数で押し切るんだ。10人がかりで1人を狙えばいい!1人倒せば20対1だ!」

 「…そうだな。俺たちはそのためにここにいるんだ」

 「やってやる、やってやるぞ!」


 魔族には多大な恩がある。けれどもそれを上回る以上に、人間は人としての尊厳を奪われ、虐げられ、それを許せないでいた。溜まりに溜まった恨み辛みが、もうとっくに引き返せないところまで達していた。


 「ハックさん、レオンさんが来ましたが…」

 「わかった。すまない、ちょっと席外すわ」


 レオンの来訪を確認したハックは、一旦退席する。レオンと合流すると、空いている部屋に移動した。


 「レオン、来てくれて助かるよ。実は頼みたい事があってな…」

 「何かあったのか?」

 「ハントストン油田から石油を調達したいんだが、途中に盗賊がいるらしくてな、運ぶには危険すぎるんだ。悪いが護衛してやってくれないか?」


 厄介な集団『盗賊』。目的のためなら平気で非人道的な手段で略奪・強奪を行う。主に荒野を徘徊しており、地の利を活かして襲っている。複数のグループで行動しているようで、正確な人数は分かっていない。


 「護衛だけならいいが、面倒な事はやらないからな」

 「さすが!頼りになるなぁレオン殿っ!」


 レオンの背中をバシバシ叩くハック。いくら盗賊とはいえ複数人いるため、それ相応の人数が必要になる。仮に襲われるにしても、戦力になる者を同行させれば生還率は高くなる。ハックはレオンの強さを十分に理解しているからこそ、盗賊からの護衛を任せたのだ。


 「1人じゃ大変だろうから、もう1人と協力してくれ」

 「悪いが、オレは1人の方がやりやすいんだ」

 「そう、私がいたら邪魔だっていうのね?」


 1人の女性が部屋に入ってきた。黒髪のショートヘアをしており、チューブトップの衣服にショートパンツの露出が多めの服を着ている。ドアのところで腕を組んで、仁王立ちしていた。


 「レオンと組んでもらうレフラだ。仲良くしてくれよ」

 「ハック。悪いが他のやつに頼んでくれ」

 「あらいいの?あなた1人だったら、難しい事も自分でやるハメになるかもよ?そ・れ・に、親友の頼み事断っちゃうんだー」

 「お前、盗賊を相手に戦えるのか?」

 「ご心配なく。私だってそれなりに強いわよー。もし何かあっても、これで玉をカチ割ってあげるわ」


 そう言って、腰から下げている愛用の武器のトンファーを見せて構えた。


 「なっ。お前好みの美女だろ?」

 「美女かどうかはどうでもいいが、肝は座ってそうだ。足でまといになるなよ」

 「そっちこそね」

 「よし!話がまとまったところで作戦会議だ。とは言っても特別難しい事じゃない。ここからハントストンへトラックで向かう。着いたら、石油が入っているドラム缶を積み、持ち帰る」

 「どれくらいかかるんだ?」

 「直接行けば往復1日半ってとこか、石油を積めたり諸々あわせると、最短で3日といったところだ」

 「食料は私が用意しておくわ。重たいのを積むのはよろしくねっ」

 「わかった。それと、せめて何か羽織れ」

 「あら、この服あなたには刺激が強すぎたかしら?」

 「目立ち過ぎだ。男が寄ってきて要らん争いを招きかねない。自分の身は自分で守れ」

 「そんなの言われなくても分かってるわよ。でもマントとかはダサいから却下ね」


 レオンの忠告を拒否するレフラ。そこにハックがコーヒーを3人分入れてきた。レオンとレフラに渡す。


 「そういやほれ、コーヒーだ。レオン殿はこいつが大好きだからな、ご機嫌取りに使ってくれ」

 「そうなの!?覚えておくわ」

 「ハック、余計なことを言うな」


■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪


 翌朝、1台のトラックにレフラが荷物を持ってやって来た。レオンは先に来ていて、レフラが来るのを待っていた。


 「あら、レオン朝早いのね」

 「特別早くはないが、荷物はこれで全部でいいんだな?」

 「ええ。これだけあれば1週間は持つわ」

 「多すぎだろ。3日分で十分なはずだ」

 「備えあれば憂いなしよ。さ、積んでちょうだい」


 3日を予定しているが、レフラは延びる事も考え多目に用意していた。レオンはレフラが用意した荷物をトラックの荷台に積んでいく。

 上には幌が被せられていて、アーチ状の丸パイプで支えられている。パイプは両サイドのあおりに直接固定されていて、両サイドのあおりは下ろすことが出来ない。このため、後ろから荷物の積み下ろしを行う事になる。天井は170cmほどと高めに作られているが、レオンは少し屈まないと頭がぶつかってしまうため、荷物の搬入には一苦労だ。


 「奥にある木箱は何だ?」

 「あーこれは幌とか工具や道具とか、なんかバラけそうなのを仕舞うためのものっすよ」


 運転手が説明した。荷台の横幅と同じ長さで、高さはあおりと揃えてある。奥行きは高さより少し長めだ。上部が蓋になっていて、2つに分かれている。中は何の仕切りのない空間1つで、スコップや車輪止め、竹ホウキやぬかるみから脱出するための板などが入っていた。


 「よぉよぉ御二方、準備オーケーかな?」


 ハックが様子を見にやって来た。


 「こっちはいつでも出れるぞ、ハック」

 「よし、ではさっそく行ってくれ。遅くても6日後までには戻ってきてくれよ」

 「なぜだ?」

 「その翌日は魔族との対話の日なんだ。同時に、決行の日でもある」

 「もし間に合わなかったらどうするんだ?」

 「そこはレオン殿が間に合わせてくれるさ。そうだろ?」

 「その『殿』はやめてくれ」

 「レオン信頼されてるわね」

 「さあ行くぞ!モタモタしている暇はないんだ」

 「照れてるな」

 「照れてるわね」


 レオンとレフラは、石油輸送トラックに同乗してハントストン油田へ出発した。

【登場人物】


ハック

29歳/172cm/男

打倒魔族を旗印に結成した解放軍の代表。1児の父親。

仲間思い故に、今まで傷つけてきた魔族への恨みは人一倍大きい。

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