0 序
初めて小説を投稿します。拙文ではありますが、広い心で読んでいただければ幸いです。
そのむかし、広大な荒野の一角にある森の中に、ウィリアと呼ばれる村があった。人々は森の恵みに感謝し、慎ましい生活を営んでいた。
だがある時から、産まれたばかりの赤ん坊が産声を上げながら死んでしまうという奇妙な事件が発生した。犠牲となった子は増える一方だが原因は全く分からず、人々は正体不明の病として為す術もなく月日だけが過ぎていった。
やがて、瀕死の状態から奇跡的に生還する赤ん坊が現れ、親や村人たちは歓喜に沸いた。その子たちは全員健康に育っていったが、なぜか不思議な力を獲得していた。
水を汲まずして農地に水を与え、冬の時期には火を起こして寒波を凌ぎ、大地を操って開墾と石材生成を、風を起こして動力を生み出していった。
大きく分けて、『水』『火』『地』『風』に関して自在に生み出し、操る力が備わっていた。
「すごい!何もないところから水が出てきた!これで作物が枯れなくて済むぞ!」
「これだけたくさんの石材があれば、大きな建物がいくつも作れる!」
「極寒の寒さが来ても、火を起こしてくれるから寒くない!」
これが人々の生活を大いに助け、細々としていた村を脅威のスピードで発展させ、規模を拡大させていった。人々はこの不思議な力を『魔法』と呼び、魔法を使える人たちを『魔族』と呼んだ。
この便利過ぎる魔法に、全ての人たちは依存していった。魔族は頼られる度にその力を発揮し、生活のあらゆる面を支え、世代を重ねて人口比率を増やしていった。
「魔法があれば、われわれ人間の生活は安泰だ!」
「どんな災害が起きても、魔族が助けてくれる!」
「オレ、魔族のためなら何だってできるぞ!」
「人間より魔族の人と結婚したいわ!」
「魔族のする事、言う事に従っていれば、全てが上手くいくんだ!」
「魔法バンザイ!魔族バンザイ!!」
それから10年も経つ頃には木造の粗末な建物は姿を消し、石造りのより頑丈な建物がほとんどを占めた。人々の生活はとても豊かになったのだ。
しかし人間はいつしか魔族への感謝の気持ちを無くし、やってもらって当たり前と思ってしまう者が増えていった。
『魔族が人間のために働くのは、立場が低いから』
そう勘違いする輩が増えていく中、魔族は次第に生活の中枢に溶け込み、気がつけば魔族のための社会構造へと変貌していた。けれども幾ら魔族とは言え、精神的には人間と変わらない。もちろん相手を下に見る感情を持ち合わせている者もいた。
「人間ってさ、オレらがいなきゃ何にもできないよな」
「良い生活と引き換えに、自己管理能力を手放すとは愚かすぎる」
「だからこそ気に入らないやつは、魔法で懲らしめてやればいいのよ。そろそろ主従関係を分からせても良いんじゃない?」
「劣化人のクセに、よくのうのうと生きていられるもんだ!」
特別な力があるのをいい事に、魔法を使えない人間を自分たちより劣っている『劣化人』と蔑称する者たちが現れ、気にくわない人間を魔法でいたぶる者が増えていった。
一部の魔族による差別的・弾圧的な行動は、連鎖反応のように広がっていき、善良な人間に対しても狼藉を働くようになった。この現状を重く見た人間は、ようやく事態の深刻さに気づき始めた。
「今日もまた言いがかりをつけられ襲われた人がいた」
「私も、前を横切っただけで火を放たれて火傷を負ったわ」
「何も悪いことしていないのに………」
「以前は何事もなかったのに、突然凶暴化したよな……」
「魔族全員が悪いとは言えないが、いくら何でも酷すぎる。しかし逆らったら………」
人間側にも一応代表がおり、それを支える役人もいる。だが彼らも魔法なしでは生活がままならない程にまで頼り、弱りきってしまっていて、事実上お飾り状態になってしまっている。例え代表が動いたとしても、何も変わることもなく、泣き寝入りを余儀なくされていた。
「くそ!いつの間にか何もかも全てを握られてしまった」
「仕方がないさ。魔族がいるからこそ、こうやって平和に暮らせるんだ………。それが当たり前だと勘違いしてあぐらをかいてきたツケが、今になって返ってきたのか」
「こんな言いなりになっているのが平和だって言えるのか?傷ついて首根っこを捕まれているのに、何も出来ないのが平和なのか!?」
自分たちの不甲斐なさを、誰も彼もが嘆いた。
嘆いて、ひたすら嘆いて、もうどうしようもないと諦めの雰囲気が漂っていた。
嘆きが沈黙に変わり、そして変化が訪れた。
「人間たちの自由を取り戻そう!そのために、魔法に負けない力を作ろう!もちろん見つからないように!」
「そうだ!魔法に頼らない世の中を作ろう!!」
被害者たちを中心とした一部の人間が立ち上がった。
魔族への反乱組織を秘密裏に結成し、ウィリアから見えない離れた位置に新たな村を作って、魔族に対抗するための力を少しずつ、着々と蓄えていっていた。
それから更に月日が経ち、人間側に1人の代表が誕生した。
時はカルツォ歴300年。この人物をきっかけに、人間と魔族の運命が大きく動くことになる。