癒し
「空大ぁ!」
その声に俺は目を開ける。
彼女は泣きながら駆け寄ってくる。
「ごめんね……ありがとう! うう、ありがとう」
「美月、無事でよかった。うっ」
「起き上がらないで」
「うう」
「ひどい怪我。どうしよう」
「ひ、ざ、まくら」
「え?」
「膝枕して」
「えっと」
不慣れな手つきで戸惑いながらも美月は俺の頭を持ち上げて自分の太ももの上に乗せてくれた。
「こう?」
「あ〜いい」
手を伸ばし、俺を覗き込む美月の目に溜まった涙を拭う。
「癒される」
目を閉じて堪能する。
「病院とか」
「もう少しこのまま」
俺は彼女の左手を握る。
「美月がいてくれて、幸せなんだ」
体は痛いはずなのに、幸福感に満たされていく。
美月が頭を撫でてくれている。
「気持ちいい」
風が木々を揺らし、葉が優しく触れ合う音が耳に届く。
時間が穏やかに流れる。
「ふーー」
俺は深呼吸をする。
新鮮な血液が脳に回る。
今なら、使えるかもしれない。
目を閉じたままイメージする。
「美月、お願いがあるんだけど」
俺は頭を撫でてくれていた美月の右手を掴む。
「なあに?」
「俺を一旦地面に寝かせて」
「わかった」
美月のあたたかい手に支えられ俺の頭は地面に接する。
パキッっと耳元で小枝の音がする。
「俺の体にこうやって手をかざしてくれないか?」
「こう?」
「そう。上から下に拭いて境目隠す感じ」
「境目隠す感じ?」
「うん」
「とりあえずやってみるね」
「頼む。いくよ?」
「うん」
「インビジブルカット」
俺がそう唱えると、体の傷が美月の手の動きに合わせてみるみるうちに治っていった。
「おお! 成功!!」
「空大すごい!」
「やるじゃん!」
「黒猫! よかった、無事で!」
「あんたもね」
「ソラナ! さっきはありがとう」
「私は何もしてないわ。それどころか……」
「よっと……うう」
俺は立ち上がろうとして目眩を起こし木に手をついて耐える。
「空大!」
「へへっ体の傷はなくなったけど、疲れまでは取れないみたい」
「ちょうどいいわ。宿屋で休憩しましょう。もうすぐ夜になる」
「宿屋ってどこにあるんだ?」
「今向こうの方見てきたの。この先に村があった。そこにあると思う」
「おお! 助かる!」
「空大、歩ける?」
「ありがと」
美月が肩を貸してくれる。
俺たちは宿屋を目指して歩き出した。
「なんか大事なこと忘れてる気がする」
「どうしたの?」
「うーん」
「置いてくわよ!」
「ソラナ待って!」
「待つわ」
「ぶはっ! お前本当美月に懐いてんのな」
「空大っ」
「何よ悪い」
「悪くねーよ。さっきも美月のこと守ってくれて、頼りにしてるぜ!」
「頼り、ね。とりあえず宿までは送り届けるから」
「おう! よろしく!」
「はぁ。ほら! 行くわよ!」