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想像力


 ズザザッ


 今度は着地に成功した。

 森の中だろうか。

 俺はほっと胸をなでおろし、木に寄りかかる。

「その『マッチカット』ってなに?」

「ん?」

 尻尾をハテナの形にしながら黒猫が俺に聞く。

「あー、場面転換に使う編集テクニックの一つだよ」

 黒猫は首を傾ける。

「お前知ってるかわかんないけど美月ならわかるかな」

「へ?」

「バラエティとかで、それでは行ってみましょう!って言ったあとにジャンプして、着きましたねーって目的地に場面が切り替わるの見たことないか?」

「ある!」

「そういう繋ぎ方。前のシーンの終わりと次のシーンの始まりを『マッチ』させるからマッチカットって言うんだ」

「へー!」

「ふーん」

 美月はわかったみたいだけど、黒猫はピンときていない。

「まぁ、他に言葉が思いつかなくて叫んでるだけだからそんな気にしなくていいよ」

「ふーん。あんたらしいわ」

「? なぁ、俺からも聞いていいか?」

「なによ」

「俺、この映画を自由に作り替えることができるんだよな?」

「そうよ」

「それにしては出来ること地味じゃね? 今のところ逃げてるだけなんだけど」

「それがあんたの想像力の限界なんじゃない?」

「え」

「想像もできないのに世界を作り替えるのは無理よ」

「ほお」

「いくら自由に映画を作り替えられるって言ってもあんたの想像力がこの世界の流れを超えられなかったら世界の力に負けてどうしようもできないわ。つまり」

「つまり?」

 嫌な予感がする。俺はごくりと喉を鳴らす。

「あんた想像力ないのよ」


 グサッ


「お、おう」

 鋭い刃が俺の心に突き刺さる。

「だからかっこいい呪文の詠唱とかできないし」


 グサッ


「う」

「追っ手から逃げることしかできない」


 グサッ


「うう」

「それなのにこっち方面の想像力は豊かだこと。あんたがいやらしい妄想してるからいつまで経ってもあの子の服が濡れたまんま」


「「え」」

 黒猫がそう言った瞬間美月と目が合う。


「もーー!!」

 美月は恥ずかしそうに胸を隠しながら叫ぶ。

「空大のばかぁ!」

「ごめん美月! そんなつもりは」

「今すぐ直して!」

「はいただいまぁ!」

 俺は美月にポカスカ叩かれながら乾いた服を想像する。

 ただ、自由にできるっていたずら心も疼くよな。


 俺は想像しながら指の準備をする。

 んと、着替えならこの編集かな。


「カットイン」


 パチンッ


 美月の服がガラリと変わる。

 リブタートルネックのニットに膝上のタイトスカート。

「おお!」

 俺の理想!!胸が気になるって言って美月は着てくれないタートルネック!キュッとしたおしりとすらりとした足が堪能できるタイトスカート!

 違和感に気づいた美月が下を向き服を確認する。

「きゃあ!」

 気づかれた。

「空大ぁ!?」

「ごめんごめん!」

 最高だよこの力。


 パチンッ


 パチンッ


 パチンッ


 俺が指パッチンするたびに美月の衣装がチェンジする。チャイナもメイドもきわどいバニーガールもなんでもこい!ナースに水着にミニスカサンタまで!うおお!


 パチンッ


 パチンッ


 パチンッ


 美月は慌てて必死に手を使って体を隠す。衣装ももちろんかわいいんだけどさ、俺のツボは恥ずかしがってる顔なんだよな〜。


 げしっ


 デレデレしてたら黒猫にキックをお見舞いされた。

「ふあい。ずみばせん」


 パチンッ


 ようやく乾いた元の服の姿になった美月がじとーっとこちらを見る。

「ごめんってー」

「やだ。すっごく恥ずかしかった」

 美月がぷいっと顔を背けてあれこれ文句を言う。

「かわいかったよ」

 そう言って向けられた後頭部にキスすると、美月が黙った。

「美月」

 美月の顔をこちらに向け、俺は顔を近づける。


 げしっ


「いてっ」

 2発目のキックを黒猫から受ける。

「すぐキスしてんじゃないわよ! 本当に想像力ないわね! あんたたちのキスなんてこっちは見たくないのよ!」


 げしげしげしっ


「いててて」

「追っ手もいつ来るかわかんないんだからあんたは妄想以外の想像力鍛えなさい!」

 そうだった。

「はーい」

 俺は、はぁーーと長いため息をつく。

「想像力ない、か。そんなの自分が一番よくわかってるよ」

「なによ、凹んでんの?」

「まぁね」

 なんとなく黒猫から目線を外す。

「ふん。私はあんたに想像力がなかったおかげで助かったけどね」

 意外な言葉に俺が黒猫を見ると目が合った。

「感謝してんのよ」

 そう言うと今度は黒猫がふいっと後ろを向いた。

「あんたがちゃんとした想像力の持ち主なら私を2回も助けてない。想像力のないあんたも嫌いじゃないわ」

 鼻の奥がツンとする。

「そうか」

「そうよ」

「ありがとう」

「でもこの世界じゃそのままだとあなたたち死ぬわ」

「え?」

「言ったでしょ? 代償があるって」

「ああ」

「生き残るために想像力が必要なのよ」

「猫ちゃん、代償ってなあに?」

 そういえば美月はそのこと知らなかったな。というか俺もあるって聞いただけで内容を知らない。

「俺も知りたい。代償のこと」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私も知りたい。代償のこと。 と、つい言ってしまいたくなるような、とにかく続きが気になる面白い作品です! 凄い発想です。 一気に読んでしまいました。 頭の中に映像がどんどん浮かんでくる、楽…
[良い点] おはようございます(^^) ハルユキさんの作品は登場人物の掛け合いが面白いですね。 会話のテンポの良さとボケとツッコミ。 これからのストーリー展開が楽しみです(^o^)
2021/04/26 07:57 退会済み
管理
[良い点] 恋人を死の運命から救う、と言うシリアスになりがちな話なのに、空大の緊張感の無さと黒猫様の可愛さで微笑ましく読めます! 衣装よりそれを恥ずかしがる顔がツボとは、彼とは良い酒を酌み交わせそうで…
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