死亡フラグ
「ずっとこうしたかった」
俺と美月を抱きしめたままソラナが言う。
「幸せってすごいね。死にたかったのに、消えたかったのに、生きていたいって願えるんだね」
「うん」
「ああ」
そのとき突然パァーという音とともにソラナの体から輝く物体が現れ、彼女の頭上に浮いた。
俺はそれに見覚えがあった。
赤い旗のついたいい感じの棒。
「これってソラナが魔法を使ったとき尻尾で振ってた棒?」
上を見上げてソラナが言う。
「そう。今まで勝手に出てくることなんてなかったのに。魔法が使えなくなってからはどこにあるかわからなくなってた」
俺は呼ばれているような気がしてその棒を掴んだ。
ぽうっと文字が浮かび上がる
『死亡フラグ 不吉な黒猫』
「え」
俺はその文字に釘付けになる。
「なんて書いてあるの?」
俺は美月とソラナに文字が浮かび上がった棒を見せる。
「死亡…フラグ…」
「不吉な黒猫……ほらーー!! やっぱり私と一緒にいると不吉なんだーー! 死亡フラグまで出てきた!! これはもう物的証拠じゃん!! 言い逃れできないやつじゃん!! 怖っ! 今まで知らずに魔法のステッキだと思って振ってた!!」
「ソラナ落ち着いて!」
「これが落ち着いていられますか! せっかく生きたいって願ったのにこれだよ!! 美月と空大がいくらいいって言ってくれたってこんなはっきりキッパリ物的証拠があるんじゃ話が別だよ!! 二人を巻き込むなんて耐えられないよ!!」
「ソラナ、なんで死亡フラグなんて単語知ってんだ? それだけじゃなくて人間界の交通ルールとかも」
「それ今聞くこと!? こんな慌ただしいときに!? 昔から人間界の映画が何故かうちにあったの。ディスクで観れるやつ。それで色々覚えた。」
「魔法で取り寄せたのか?」
「わかんない。いつの間にかあった。もっと観たいと思って映画のディスクを取り寄せようと思ったけど、難しくて行けなかったんだよね。空大と美月に助けられたあの日、初めて人間界に行くことに成功したの」
「そっか」
「何が知りたかったの?」
「いや、死亡フラグってさ」
俺は何か確信めいたものをもって、死亡フラグの両端をそれぞれ掴む。
「立つと怖いけど」
右脚の腿をあげ、掴んだ棒を思いっきりそこ目掛けて打ちつけた。
「こうやって折ることもできる」
俺はいい感じの棒をくの字にへし折りソラナに見せた。
「みゃ、みゃ、みゃああああーー!?!?」
「死亡フラグは知ってても、折れるって知らなかった?」
「知らなかった……」
「俺もこんな風に物理的に折るものだとは知らなかった」
「なによーー! さも知ってました〜みたいな言い方して!! 空大も知らなかったんじゃん!!」
「はいはい、からかってごめん」
「まあまあ二人とも」
ピロリロリン♪
いい感じの棒からお祝いのような音が鳴る。
音が鳴り止むと赤い旗の部分に文字が浮かび上がった。
『おめでとう! クエスト達成!』
「おお! ……ん?」
『欲を救世主に捧げよ。三つの欲が揃いしとき救世主は復活し世界の真実を示すであろう』
「どういうことだこれ?」
俺が戸惑っていると掴んでいた死亡フラグが赤く光出した。
「う、くっ」
力を吸い取られたような感覚になり、死亡フラグを手から落とす。すると死亡フラグはぷかぷかと宙に浮き次の瞬間ヒュンとどこかへ飛んでいってしまった。
「空大! 大丈夫!?」
「美月」
さっき一瞬手の力が抜けたがもうグーパーできるくらい回復していた。
「なんだったんだろ」