『コンテ』
「『コンテ』を全部読めばわかるんだけど、とんでもなく長いから噛み砕いて話すわね」
「おう」
「うん」
◇
遠い遠い昔のこと。
獣人と獣族が大きな争いを起こしたの。
◇
「はい! 先生!」
「なによ」
「獣人とか獣族ってなんですか?」
「あ〜この世界の生き物の種類ね」
「ほう」
「この世界の生物はその2種類に分けられるの」
「そうなんだぁ!」
「獣人っていうのは、この宿の受付とか美月を狙ってる追っ手みたいな感じ」
「へ〜!」
「あ! 追っ手の正体ってブルドックの獣人だったんだよ」
「そうなんだ、ちらっとしか見えなかった。どういう感じなの?」
「んーあの獣人は、ブルドックの顔に、腕には白い毛が生えてた。んで、わん! って言ってたよ。あと去り際にはドスのきいた声で『覚えとけよ』ってしゃべってたな〜」
「そう、それが獣人の特徴。全身毛が生えてたりして、動物が二足歩行して進化した感じ。しゃべることもできる」
「獣族は?」
「簡単に言えばしゃべる動物」
「ほう」
「私も獣族に分類されるわ。猫なら猫、鳥なら鳥。人間界の生き物と一緒。違うところは、しゃべれるってこと」
「しゃべれる動物が獣族。しゃべれて二足歩行に進化した動物が獣人ってこと?」
「さすが美月! その通り!」
うきゃーと2人が抱き合う。
「せんせー続きお願いしまーす」
「ちょっとぐらい待ちなさいよ」
「はいはい」
「みゃお〜」
美月に抱っこされて満足そうな銀猫。
「じゃあ、続きね」
◇
元々の争いの火種は、獣族が野蛮な行為をして獣人の領地を侵したことと言い伝えられているわ。
大きな争いだったからお互いに凄まじい数の尊い犠牲を払った。
争いは思わぬ形で終結した。
もうどれくらい時が過ぎたのか誰にもわからないくらい遠い昔のことだけれど、獣人は今でも獣族をよく思ってない。もちろん全員が全員ってわけじゃないんだろうけど。獣族をよく思わない獣人は多い。
◇
「だからここの受付も、私に対してあーゆー態度だったってわけ」
「なんか、悔しい」
美月が口を開く。
「え?」
「だって、ずっと昔のことなんだよね、今はもう関係ないのに」
「そうね。数も獣人の方が多いし。優位な方がわざわざ見下してる相手に手を差し伸べたりしないのよ。自分の優位が揺らぐようなこと、みんなしないわ」
「そ、か」
「うん」
「獣族はそれでいいのかよ。反乱起こしたりさ。まぁ、それは物騒かもしれないけど、抗議はしたっていいじゃん。そんな扱い受け入れるの、悲しくないか」
「獣族は獣族同士で過ごしていれば、普段はそんなこと考えることもないしね。こうやって獣人と会うとあーそうだったなって思うだけで」
「そう、なのか」
「それに世界はうまいことできてて、獣族の中でもさらに迫害を受けるものがいる」
「「え」」
「誰もそこまで堕ちたくないから、変な争いは起こさないのよ」
「その迫害受けてる獣ぞ」
「ねえ、話が脱線してる!」
銀猫が急に大きな声を出すので俺はたじろぐ。
「あ、えっと」
「私たちがなんで救世主の末裔って呼ばれるかの説明、だっけ」
「そう! さすが美月〜」
ごろごろと喉を鳴らし美月の胸に頭を擦り付ける銀猫。
おい、そこ代われ。
俺の目線に気づいたのか、銀猫は勝ち誇ったような顔でこちらを見た。そしてまた美月のぬくもりを堪能する。
美月も嬉しそうに銀猫を撫でている。
俺に見せつけてくるのはムカつくけど、二人で幸せそうにしてるのを見るのは実は嫌いじゃない。
「ふう」
満足したのか銀猫が話を再開する。
「さっき『争いは思わぬ形で終結した』って言ったでしょ」
「ああ」
「うん」
「争いを終結させたのが、人間って言われてるのよ」
「「ええ!?」」
◇
どういう経緯でこの地に来たのかわからないけど、魔法が使えるその神のような存在は自分のことを別世界から来た人間だって言ったそうなの。
壁画なんかにその姿が描かれている。
◇
「その人間が魔法の力を使って争いを終結させたってことか」
「そう。あんたたちが救世主の末裔って呼ばれたのは人間だから。私も初めて人間を見たときは本当に驚いた。言い伝え通りの姿だったから」
「そうだったんだ」
「うん。はるか昔、この地で命をかけて争いを終結させた人間は救世主と讃えられ、途方もない年月が経った今でも大切に祀られている。獣族のほんの一部しか立ち入らない場所に安置されているそうよ」
「獣人が管理してるんじゃないんだ。さっきまでの流れ的には少し意外」
「この世界の王様は獣人なんだけどね、当時の王キノ・マンムールが獣人と獣族がこれから仲良くしていけるようにって、獣族側に救世主を祀ることを決めたと伝わっているわ」
「そっか、王様も考えてくれてたんだな」
「うん。この王が初代を助けてくれて」
「初代?」
「あ、ううん。なんでもない。人間が亡くなったあとはそのキノ・マンムール王が国をまとめることに尽力し、今もその子孫が国を治めているの。
そこまで話して銀猫はポンっと両手を合わせた。
「はい! ここまで! たくさん話したら疲れちゃった。ふわあ。まだ夜なのよ。あんたのせいで変な時間に目が覚めた! ほら、もう一回寝直すわよ」
「頭パンパンで眠れねーよ」
「想像力を回復するためにも寝なさい。いつ追っ手が来るかわからないんだから。美月を守ってね」
「ん? ああ、もちろん」
「はいはい、あんたたち一緒に寝たいんでしょー! はい! 私一人で寝るからいったいった」
「はあ!? そりゃ寝たいけど、心の準備ってもんが」
「ソラナ! 冗談やめてよ」
「冗談じゃないわ。空大の寝顔見ながら、美月泣いてたんだから。無事でよかったって。あんたも恋人なら美月のこと安心させてやりなさいよ」
「それは嬉しいけど、なんか言ってることめちゃくちゃだぞお前」
「あーーわかった! 私がおじゃまだってことか」
「はあ!? だから、そんなこと一言も言ってない」
「朝まで外に出てるから、心配しなくていいよ」
「ソラナ?」
「追いかけてくるような根性なしとはこれ以上一緒に行動していられないから。ちゃんと決めなさいよ」
「だから、お前何言ってるんだよ、一人で先走ってんじゃねーよ」
「ばいばい」
バタンッ
そうして銀猫は本当に部屋から出て行ってしまった。




