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12/23

102号室の夜

「んー?」

 俺たちが今日泊まる102号室を見つけた美月はたどたどしく鍵を開ける。

「あ! 開いた! えと」

「こっちにある。うっ」

 俺側に電気のスイッチを見つけ手を伸ばそうとしたけど、腕が持ち上がらなかった。

「空大は動かないで」

 美月はスイッチを押そうとこちら側に左腕を伸ばす。


「んーーーー」


 えっとですね、顔近いっす美月さん。

 これはーー胸、当たってますよね。

 今日は雨とか汗とかで結構ぐちゃぐちゃになったはずなのになんでいい匂いするんすか……!


「っと」

 パチン


 電球がチカチカと点滅したあと少し薄暗い電気がついた。美月の体勢が元に戻る。

「ぷは」

「ん?」

「あー、ううん」

 息、吸うだけ吸って吐くの忘れてた。

 なんかすっげードキドキする。

 美月にバレるぞ。冷静に、冷静に。


「んしょ」

 美月は俺の体を支えながらゆっくりとベッドに座らせてくれた。添えられた手の当たる背中があったかい。

「ここまで大変だったよな、ありがとう」

「ううん。空大に比べたら」

 俺たちは同じベッドに座っている。

「美月」

 ああ、冷静に。

 なんて無理だよな。

 俺は左手で美月の右手を握るとそのままベッドに押し倒す。

「あ、空大っ」



 あー気持ちよくてふわふわする。

「あっ、空大、ダメだよ。まだ、ん」

「美月ーー!!」


 ガバッ


「ん?」

 部屋が暗い。

 周りを見渡すと美月と銀猫が別のベッドに寝ている。


「ゆ、め……?」


 うおお! やっちまった!! なんたる失態!!

 銀猫がいるとはいえ初めて美月とホテルでお泊まりだったのに!!

 やりたいこといっぱいあったんだああーー!

 先シャワー浴びてこいよって言いたかった!

 今夜は眠らせないぜとか言いたかった!!


 うがあああ!

 俺のバカヤロー!!


 はぁ、はぁ、いや待て。

 美月が寝てる今こそチャンスなのでは?


 寝込みをおそ……いや、ダメだ。こういうのは同意が肝心。

 途中で起きた美月に怒られるに決まってる。


「キ、キスだけなら……」


 美月が寝ているベッドに腰掛ける。

 こっち向かないかなと淡い期待を込めて髪の毛を撫でる。

「ん」

 美月はこちら側に寝返りをうった。

 露わになった唇にドキッとする。


 眠っている美月は、月明かりなのか降り注ぐ星の明かりなのか窓から漏れる聖なる光に照らされて清らかな音色が聞こえてきそうなほど綺麗だ。


「美月」

 キスキスキスキス……心の中で唱えながら顔を近づける。


 ……ちゅっ


 があああ! ひよった!

 デコちゅうとかガキか!!

 寝ている美月があまりにかわいくて、唇にキスなんかしたら暴走する気しかしなかった。

 うわあああ! 俺はバカだ!

 このチャンスを無駄にするなんてえええ!


 パチン


「うるさい」


 ドシッ


 電気がついた。銀猫がつけたんだろう。

 俺は銀猫に背中をキックされて前のめりで倒れる。


 むにっ


 顔面に柔らかい感触。この感触は美月のむ

「キャーーーー!」

 バチンッ

「へぶし」


 反射で叩いたかのような美月のビンタをもろにくらう。

 起き抜けの美月が胸を腕でガードしながらちょっと涙目で俺を睨む。

「ち、ちが、これは銀猫が! あれ?」

 あいついつのまにかひらりとベッドに戻ってやがる。

「もーー! 空大のばかぁ!」

 ポカポカと俺を叩く美月。

 うん。いいんだ、これはこれでかわいいから。


「は〜あ。説明するのやめよっかな」

 俺の顔の緩みを見たのか銀猫がつぶやく。

「それは困る。教えてくれ」

「えー」

「ソラナ、お願い」

「説明するわ」

 お前だって美月のかわいい顔に弱いじゃねーか。

 銀猫と目が合う。

「なによ」

「なんでも〜」


「じゃあまずこれを見て」

 黒猫は尻尾を器用に使いサイドテーブルから一冊の本を取り出した。

 美月が眼鏡をかける。

「これは『コンテ』と呼ばれている、この世界の成り立ちを示した本なの」

 あ〜わかるわかる。

 本置いてあるホテルあったりするよな。

 俺は黒猫から『コンテ』を受け取る。

「読めない」

「読めるはずよ」

「なんで?」

「あんたは私の魔法の力がなくなったあとも、何の問題もなく私と会話できてるじゃない」

「あ、たしかに変だ」

 銀猫とは最初っからしゃべれてたから俺たちの言葉が通じるもんだと思い込んでた。

「会話が通じるのが当たり前だと思い込んで、気づかないうちに想像力を使ってたのよ」

「あ! わかった! 吹替!」

「そう」

「ってことは、字幕!」

 俺がそう叫ぶと、本に見慣れた文字が並びだした。

「おおー! 読めるようになった!! ほら!」

 美月にも本を見せる。

「すごーい!」

「眠って体を休めたから、想像力も回復したわね」

「はい」

 俺は手を挙げる。

「なによ」

「聞きたいことが色々ありすぎるんですけど」

「全部一気に説明したらわけわかんなくなるわよ」

「たしかに」

「まずはあんたたちがなぜ救世主の末裔と呼ばれるか、からでいいかしら」

 俺と美月は顔を見合わせ、もう一度銀猫に向き直り答える。

「「うん」」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 空大、よくぞ踏みとどまった! 同意なしでしてたら涙目ぽかぽかじゃ済まなかったでしょうし。 日和ったんじゃない、思い遣ったんだ、と言ってあげたいですね。 [気になる点] いよいよ明らかになる…
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