救世主の末裔
「ぶひ、ぶひっ、救世主様あーー!!!!」
「「え?」」
「の末裔の方ーーーー!!!!」
「はぁ?」
ぶたの獣人が興奮気味に叫ぶ。
俺と美月は顔を見合わせ首を傾げる。
救世主? 末裔? 何のことだ?
話が見えない俺は事情を知っていそうなこいつに話しかける。
「おい黒猫! どういう」
げしっ
け、蹴られた。
「なふで」
「……黒猫ぉ?」
ぶたの獣人が醸す空気が急にピリッとした。
言葉に出すのもやだって感じ。
なんだ?
「銀猫! でしょ?」
「銀猫? 言ったことな」
むぎゅっ
「あ〜」
しを踏まれている。わかった。わかりましたよ。銀猫って呼びますよ。
「銀猫」
「あっ! 銀猫ですか! やだな〜不吉な言い間違いやめてくださいよ〜」
なぜだか、ぶたの獣人の体の強張りがとれた。
銀猫は俺から足を退ける。
「ふー」
銀猫をチラッと見る。
やけに小さく見える背中に文句を言う気が失せた。
「えっと、今日ここに泊まらせてほしいんですけど」
「もちろん大歓迎です! 2名様でお部屋お取りします!」
「え、2人と1匹? なんですけど」
「ああ、そうですね。あなた様方のお供なら仕方ないですね」
「え」
存在を認めないみたいな言い方が引っかかる。
「救世主様の末裔であらせられるあなた様方がなぜ獣族をお連れで?」
「獣族?」
「ああ、失礼しました。お供の方に失礼な物言いでしたね。つい、ねえ?」
隠しきれていない下に見る言い方。
居心地の悪さについ反論したくなる。
「「あの!」」
「みゃ〜お」
やめとけとでも言うように銀猫が制した。
反論したい気持ちは美月も一緒だったようだ。
俺たちはもう一度顔を見合わせて首を傾げる。
「ぶひ! ささっ! お部屋の準備できておりますので」
「あ、えと、お金は後払いですか?」
「まさか! 救世主様の末裔の方からお金をいただくなど! あなた様方は我々にとって神様のようなお方! どうぞ何泊でもごゆっくりおくつろぎくださいませ」
ありがたいけど、それでいいのか?
俺は不安になり銀猫を見る。
銀猫は尻尾で丸を作っていた。
「お泊まりいただく102号室はこちらの廊下を進んだところにございます」
「……ありがとうございます」
美月が鍵を受け取る。
「いくよ空大、大丈夫?」
「ああ、ありがとう」
肩を貸してくれている美月は俺の歩幅に合わせて歩いてくれる。
廊下を進んだところで俺は銀猫に話しかける。
「どういうことか説明してくれ」
「部屋に着いたらね」
「あ、ここだ」
美月が102号室を見つけた。