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宿屋
「あったわ」
黒猫の視線の先にはベッドの看板。
さすが小さな村。宿屋はすぐに見つかった。
二階建てのシンプルなつくりだ。
「あ、俺金持ってないぞ」
「本当だ、私も」
「心配しないで」
「「え?」」
「あなた達は大丈夫だから」
「「へ?」」
「とりあえず入るわよ」
「あ、待てって」
黒猫は器用にドアに飛びかかりドアノブを回す。
カランコロンッ
黒猫が開けたドアの上部にはベルが取り付けられていて、喫茶店でよく聞くような心地よい音が響いた。
「あ、いらっしゃいま、ぶひいいいい!?!?」
「ひいいい!」
「きゃあ!」
いきなり叫ばれてびびった。
つい俺も大声を出してしまった。
「美月ごめん」
「もー空大が耳元で叫ぶからびっくりした」
「だよな、ごめん」
ちらっと受付の方を見ると後退りしたのか壁に手をつきこちらをびっくり顔で見るぶたの獣人が立っていた。
なになになんだよ、どういうことだ?
「どうしたんだろうね」
「な」
この状況を説明してほしくて黒猫を見る。
ぶたの獣人を捉えるその碧眼が一瞬潤んだように見えた。
寂しそうな顔だと、ふと思った。