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お花畑とひまりちゃん

企画の存在を知り、居ても立ってもいられず、チョコチョコ時間を見つけて、勢いに任せて書きました。悠久の昔書いたモノのリメイクでもあります。(†休止宣言†したのに……)

読みにくい点は多くあると思いますが、暖かい目で最後まで見てくださると幸いです。(まず敬体に慣れてないという……)

「ひとりで行ける?」

「行けるよ! だってもう、ひまり、1年生だもん!」

「ごめんね、一緒に行けなくて……」


 ひまりちゃんのお母さんは、体が弱いので、今日も病院に居ます。ひまりちゃんは、いつもなら年の離れたお姉ちゃんと一緒にお見舞いに行くのですが、今日はお姉ちゃんが忙しくて、ひとりで行かなければなりません。


「道、分かる?」

「わかるよ! だってお姉ちゃんに教えてもらったもん!」

「……迷わない? 大丈夫?」


 お母さんの居る病院は、森をひとつ通り抜けたところにあるのです。


「大丈夫! ひまり、行けるよ! 任せて!!」


 そう言うひまりちゃんに、お姉ちゃんは微笑みました。


「じゃあ、任せたよ。いってらっしゃい」

「うん! いってきまぁす」


 今、外は冬でした。白い粉雪が、ふわり、ふわりと舞っていました。雪のひとひらが落ちては、あったかいひまりちゃんのほっぺたに触れ、解けていきます。小さな指が真っ赤になって、息が真っ白になるほど寒くても、お母さんに会えることを思えば、心はあったかくなりました。


 白く染まった道に、茶色い落ち葉が交ざり始めました。脇の木々は、細くとんがった枝の上、夏の青々とした葉っぱの代わりに雪を乗せ、太陽の光を浴びてきらきら輝いていました。それらは、ひまりちゃんが歩けば歩くほど、増えていくのでした。


 森に着いたのです。


「えっと、右にいって、左にいって、また左にいって、今度は……」


 ひまりちゃんは、お姉ちゃんから教えてもらった道を口で唱えながら、指差し立ち止まりして歩いていました。


「……それでもう一回左……あれ? こんなとこ、あったっけ?」


 お姉ちゃんがいないと、見える景色がいつもと違って見えました。つい不安になって首をかしげます。


 そして――


「あれ、あれれ? いくつ道曲がったっけ?」


 道が分からなくなって、とうとう立ちすくんでしまいました。


「……どうしよう、どうしよう……お姉ちゃん、助けてよ……」


 そう言ってみても、お姉ちゃんに声が届くことはありません。ひまりちゃんは目に涙を浮かべながら、その場でぐるぐる回ってみたり、辺りを見渡してみたり。それでも、道はとうとう分かりませんでした。


 今、季節は冬でした。家を出たときには何ともないように思えた寒さも、いっそう鋭いように思われました。細くとんがった木の枝のように、冷たい風は肌を刺すようでした。積もる雪はますます増えて、照り返す白い光は目を射るようでした。涙も凍りそうな寒さの中で、ひまりちゃんの上着の上に、うっすらと雪が被さっていました。


 それでも、ひまりちゃんは諦めませんでした。早くお母さんに会いたくて、前へ前へと進んで行きました。しかし、道は何本も何本も分かれていって、細くなるばかり。いよいよ不安になって、泣きながら、それでも歩いて、歩き続けました。


 その時。


 突然、立ち並ぶ木々が姿を消しました。道が途切れ、開けたところに出たのです。森の終わりにたどり着いたのでしょうか?


 ☆


 ひまりちゃんがハッと顔を上げ、そして、さっきまで涙ぐんでいた目を、ぱあっと輝かせました。


 そこには――


「わぁっ、きれい!」


 見渡す限り、花、花、花。赤、青、黄色、紫に白。ひとつでも、同じ色などありません。色とりどりの、花、花、花。そう、ここは、色で溢れるお花畑。雨が上がった空の下、お空にかかる虹の橋、その色たちのめいめいを、細かく分けて絵の具にしても、このお花畑は描けません。


 さらさらさららと風が吹き、花と花びらお辞儀して、葉っぱと葉っぱは握手をします。脇をちょろちょろ流れるものは、森の向こうの雪解け水。濁りを知らず、透き通り、太陽浴びて、輝くさまは、金剛石より美しい。


 あちらこちらでちょうちょが舞って、バッタは楽しく跳ね回り、そこはさながら舞踏会。そこのワルツを照らすのは、優しく暖かな陽の光。


 命溢れる、お花畑。


 そこにだけ光が当たり、森の雪など知らないように、楽しい春に満ちていました。


「そうだ! お花、お母さんに持っていこうっと」


 ひまりちゃんは元気を取り戻して、きれいなお花を摘み始めました。色とりどりのお花を摘むうちに、手の中に小さなお花畑が出来ていました。花びらのひとつひとつが、不思議な暖かい光に包まれていました。


 と、そんな時。


 どさっ。


「痛いっ!」

「えっ、なに?!」


 どこかで、小さな叫び声が聞こえたのです。


 ひまりちゃんが、その声のした方へ歩いていって、見てみると……


「……ちっちゃい……お人形さん?」

「ん……あなた、誰?」

「喋った?!」


 そこには、小さな女の子が居ました。大きさは、ひまりちゃんの手のひらに乗っかるぐらい。金色のふわふわとした髪の毛をひとつにまとめています。色白で、青く輝く目をしています。そして、細くて真っ白な足に、紅く擦り傷がついていました。


「……怪我してるの?」

「え?」

「ばんそうこ、あるよ!」


 ひまりちゃんは鞄から素早く絆創膏と薬を出して、怪我の手当てをしてあげました。


「……ありがとう。優しいのね。……私はフローラ。この花畑に住む妖精よ。あなたは?」

「ひまり! フローラさん、妖精さんなの?!」

「えぇ、そうよ。……あんまり人に言わないでね」

「絶対言わない!」

「ありがとう。それで……あなたはなぜ、ここに居るの?」

「えっと、その……道に迷ってね、えっとね……」


 ひまりちゃんは、これまでにあったことを全部話しました。お母さんが入院していること、お姉ちゃんが忙しくてひとりでお見舞いに来たこと、道に迷って怖くて寒かったこと――


「……そう……大変だったのね……」

「ね、フローラさんは、何で怪我してたの?」

「あぁ、空飛ぶ練習してたら、失敗しちゃったのよ。風が吹いてね……」


 そう言いながら、フローラは辺りを見渡し――


「今は静かね。ひまりちゃんが治してくれたから、もう飛べるわ。ちょっと、ついてきて」


 と言って、背中の羽を広げ、空中に飛び立ちました。晴れ渡った空の色をした、蝶のような羽をはためかせ、ひまりちゃんの顔の周りをぐるりと回って見せました。


「すごい、飛んだ!」

「だって妖精だもの」


 フローラは、嬉しそうに笑って言いました。


 ひまりちゃんがフローラについていくと、お花畑はどこまでもどこまでも続いていました。どのお花も、不思議に光っています。ふと見れば、フローラも同じ光に包まれていました。


 歩けば歩くほど、お花も草木も生き生きとしていました。舞踏会は、いよいよ盛りなようでした。


「きれい……」

「さっき、お母さんに花束作っていたでしょう?」


 ひまりちゃんは、心をお花に奪われながら、静かにうなずきました。


「だったら、こっちの花が綺麗よ。いくらでも採っていいからね」

「ほんとに?!」

「もちろんよ!」


 ひまりちゃんの手の中にあった、小さなお花畑は、まだまだ鮮やかでした。そこにさらに仲間が加わっていくと、どんどんにぎやかに、美しくなっていくのでした。


 どれほど時間が経ったでしょうか。ひまりちゃんは、もう腕に一杯の花を抱えています。


「あっ! 四つ葉のクローバーだ!」

「あら、良かったじゃない。幸運の印よ」


 それを聞いたとき。


「はいっ! これフローラさんの分」


 ひまりちゃんは、クローバーをフローラに差し出しました。


「えっ、なぜ?」

「フローラさんが、お空上手く飛べるように!」

「いいのに、そんな……」

「……でも、でも……いいから……」


 ひまりちゃんは、更に手を突き出してきます。


「……わかったわ」


 フローラは、ひまりちゃんの差し出す手からクローバーを受け取り――


「ありがとう。次会う時には、もっと上手く飛べるようになるわね」

「うん! 約束だよ?」


 そうして、ふたりは微笑みあいました。

 ふと、フローラは何か思いついたような顔をしました。


「そうだ。助けてもらって、もらってばっかりじゃ気が済まないから……ひとつ、お守りをあげるわ」

「えっ、お守り?!」


 フローラが、ひまりちゃんに手を差し出しました。手の中には、つるりとした石のような物がありました。


 あの雪解け水の流れる小川のように、透き通ってきらきら輝いています。そして、このお花畑の花やフローラと同じ、不思議な暖かい光を放っているのでした。


「これも、幸せのお守りよ。大切に持ってて」

「そんな……こんなにお花くれたのに……いいの?」

「それはお母さんにあげるのでしょう? でも、これは、ひまりちゃん、あなたのものよ。絶対になくさないで。出会った証に、大切に持っていて。……お願い!」

「うん、わかった! フローラさん、ありがとう!」


 ひまりちゃんが、その石に手を触れた、その時。


 その水晶のような石は、突然鋭く金色に光りました。その光は、みるみる強くなり――やがて、真っ白な光が、お花畑も、フローラも、ひまりちゃんも、みんな飲み込んでいったのです。


 ひまりちゃんは、つい目をぎゅっと瞑ってしまいました。手に、あの宝石を握ったまま――


 ☆


「……あ、あれ?」


 次にひまりちゃんが目を開けると、そこにもうお花畑はありませんでした。あるのはただ、よく知っている道。ここからまっすぐ進んだ先には、お母さんが居る病院があります。もう、すぐそこに見えています。


 では、あのお花畑は夢だったのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。


 ひまりちゃんは、今も両手にたくさんのお花を抱えています。色とりどりに輝き、お花たちは今にも踊り出しそうです。


 そして何より、手にはあの石が握られています。それは、フローラからの、大切な贈り物。それは、この上なく透き通っているように見えますが、中を覗き込むと、あのお花畑の景色が映っているのです。見渡す限り、花、花、花。命輝く舞踏会。手のひらに収まるほどの石の中、どこまでも、どこまでも、見れば見るほどお花畑が広がっていました。


 今、道に雪が積もるほどの寒い冬でした。しかし、ひまりちゃんの周りだけは、暖かい春なのでした。


 病院に着きました。


「お母さん!」


 ひまりちゃんが病室に駆け込むと、お母さんはベッドの上で体を起こしました。


「ひまり! ひとりでよく来たね……!」

「うん! お母さん、これ、はいっ」


 お母さんはびっくりしました。花束が、あまりにも美しいから。お花はどれも、生き生きとした春の花。春の陽射しのように、暖かな光に満ちています。それは、ひまりちゃんからの、大切な贈り物。


「ありがとう……ほんとに綺麗ね」

「でしょ? これはねー、お花畑で、妖精さんがー……あっ」

「どうしたの?」

「ううん、何でもない」


 お母さんは、しばらく花束を見ていましたが、やがて、少し涙ぐんで――


「ありがとう。この花が、お家の庭にも咲くようになったら、きっとすっかり元気になってみせるからね」

「うん! 約束だよ、お母さん!」


 雪の降る外とはうってかわって、病室の中は、突然舞い込んだ春に満ち溢れていました。


 お守りの石の向こう側から、フローラがにっこりと微笑んで、抱き合うふたりを静かに眺めていたのでした。……

最後まで読んでくださりありがとうございます!!

童話の分量じゃないし、冗長だし、季節外れだし、センター直前にこんなの書いてしまってる人ですが……誰かひとりでも、ほっこりしてくださるなら大感激でございます!

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