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第9話 通り雨

更に1週間が過ぎたこの日、王道達は邪族退治を行わず次の町へ向かう準備を始めていた。渇濡馬を中心にして片道半日で行ける場所では邪族が全く現れなくなったからだ。俺達が周辺の邪族を倒していた事は既に住人達に周知されていて、殺された家族の仇を討ってくれた事への感謝の言葉を言ってくる者やこれからの旅の無事を祈ってくれる者も居た。また・・・中にはこんな人も居る。


「あんな可愛い娘さんに手を出したりなんかしちゃ駄目よ、気が向いたら何時でも来て頂戴。今まで以上にもっと凄い事してあげるから」


俺がお世話になっていた、連れ込み宿のお姉さんである。華憐達に見つかると後が怖いので、裏路地に隠れながら別れの挨拶をした。


「多分、また通りがかる事も有る筈なのでその際はお願いします」


華憐達に手を出す勇気は持ってないが、こんな時だけ上手に話せてしまうのは何故だろう?


「ふふっ冗談に決まってるでしょ。男と女なんて何時気持ちが離れてしまうか分からないのだから、そうなる前にあなたから身も心も離れられない様にするのも1つの手よ」


そう言って俺の頬に軽くキスすると、少しだけ寂しげな表情を浮かべながらお姉さんは店に戻っていった。




その後市場を巡り、干し肉やドライフルーツなどの保存食を買い込むとリュックに入れて準備は完了した。昼食を食べ終えたらすぐに出発する事も出来たが、出発は翌日にして折角だから気分転換に午後は自由時間として過ごす事となった。


「ねえ王道、午後の自由時間私と一緒に町の中を歩かない?」


「きみ兄ちゃん、市場で可愛い小物売ってる露天が有ったから行かない?」


「王道さん、他にも買い忘れていない物が無いか見て回ろうと思うのですが重い物だと運べないので一緒に来て頂けませんか?」


「キンロー、いえ王道さん。良い感じの服を売っている店が在ったのですが、似合うか不安だから実際に着てみるので見た感想を聞かせてもらえませんか?」


昼食を食べ終えると、早速4人が王道の周りに集まる。最早見慣れた光景となりつつあったが、今日は少しだけ変化が有った。


「あの、王道さん!日課のジョギングをするのに制服姿やチャイナドレスだと目立つんで、何か代わりになる服を一緒に探してくれませんか?」


美雷が少しだけ照れ笑いを浮かべながら、話しかけてきた。


「何だ、美雷。毎日そんな格好でジョギングしていたのか?」


「うん、だから日が昇る前の薄暗い時に走る様にしてた」


「女の子が明るくない時に1人で出歩くのは感心しないな、午後はその買い物に付き合う事にするから支度してきてくれ」


「本当っ!?わ~い、ありがと」


本当に嬉しそうな顔をして美雷は部屋に戻っていった。


「そんな訳だから、午後は一緒に行けない。次に向かおうとしている磐咲の街は上磐咲・下磐咲という2つの町が隣接して出来ているらしい。最初の2日位は拠点になる宿の確保や市場の確認で街から出ないと思うから、半日ずつ相手するから順番でも仲良く決めておけよ」


残念そうな顔をしていた華憐達4人だったが、王道が言った途端にお互いに睨み合いながら順番を決めるジャンケンを始める。冷静沈着な姿から変わりすぎだぞ、奈央・・・・。




「王道さん、お待たせ!」


宿の外で待っていた王道に手を振りながら、美雷がやってきた。


「そんなに待ってないから気にするな、そういえばこの前まで俺の事をおじさんと呼んでいたのにいつの間にか名前で呼んでくれる様になったんだな」


美雷は少しだけ頬を赤くしながら


「そっ、それは華憐達が毎日名前で呼んでいるから私も何時までもおじさんじゃいけないと思うようになったから」


「ふ~ん、そうなんだ」


実際の所、美雷は王道の事を無意識の内におじさんから名前を呼ぶ様になっていたのだが聞かれるまでそれに気付かず慌ててそれっぽい理由を付けていた。


「それじゃあ、まずはこの衣服屋から見てみるか」


「うんっ!」


それから何件か店を回ったが、上に着る白い半袖のシャツはすぐに見つかったが下に履くショートパンツが中々見つからなかった。女性が脚を露出する文化がまだ根付いてないらしい。そう考えると、華憐達の制服やミニのチャイナ姿はこちらの世界の人の目にどう映っているのか気になり始めた。


「次、行くか」


「・・・そうだね」


美雷も徐々に諦め気味になり、表通りから裏通りに入りやや寂れた路地を進んでいると1件の服屋を見つけた。


「こんな所にも服屋があったんだ」


「やめとけ、やめとけ。そこの店は奇抜な服しか売っちゃいないぞ、表通りに行けばもっと良い店がある」


通りすがりのおっちゃんに忠告されたが、その店は既に行っている。


「残念だけど、その店にはもう既に行ったんだ。わざわざ教えてくれたのに済まないな」


「王道さん、折角だし中を覗いてみない?」


「そうだな、こっちの人が奇抜と言うんだから元の世界では当たり前の服が並んでいるかもしれないしな」


カランカラン♪ ドアに取り付けられたベルを鳴らしながら店の中に入る。一見すると、確かに実用的とは言い難い服が所狭しと並んでおり入ったのは失敗に思えた。


「いらっしゃい、何をお探しかしら?」


店の奥からみどり先生と同い年位の女性が姿を見せた、どうやらこの店の主らしい。


「あの、この店でショートパンツの様な物はありますか?」


「ショートパンツ?何それ」


他の店でも言われた同じセリフを主は言ってきた、しかし今回は美雷も諦めない。


「私の隣に居る男性の履いているズボンをもっとこの辺りまで短くした女性用のズボンで動きやすい様に柔らかい素材で出来ているの」


身振り手振りでどれ位の短さなのか美雷が説明していると、店の主の顔が一変した。


「ちょっと、そんな服誰が考え付いたの!?私が試行錯誤してきた物なんて子供だましじゃない、試しに作ってみたいからサイズを測らせてくれないかしら?」


「えっ!?今すぐ作ってくれるんですか?」


「もちろん、久々に燃えてきたわ。上手く完成すれば、この店の看板商品間違い無しよ」


美雷が店の奥に連れて行かれると、王道はそれから1時間ほど店の中で1人待たされる事となった。


「王道さん、お待たせ」


「お~やっと来たか、美・・雷?」


奥から戻ってきた美雷の格好が制服から変わっていた、先程買った白い半袖のシャツに薄い水色の短めのスカートを履いている。しかし、これだと美雷が言っていたショートパンツと違う気がするのだが・・・。


「ず~っと走り続けるなら、さっきこの子が言っていたデザインでも良いかもしれないけど歩いたり走ったりどちらでも可愛らしく見える服装にしてみたのよ」


店の主が満足そうに言う。


「さあ、この人にも実際に店の中を走って見せてあげなさい」


「は、はい!」


美雷は俺の前を横切る様に走り出した、短いスカートが翻ると中からショートパンツの様のものが顔を出した。


「これって、もしかしてスカパン?」


「あら、これってスカパンと言うの?じゃあ、その名前で売らせてもらうわね」


短いスカートの内側にショートパンツを縫い合わせた形の試作品ではあるが、スカパンと呼んで差し支えないだろう。


「そうだ、美雷に合わせて作ってもらったんだから代金を払わないと。幾らですか?」


「新しい商品を作る良いキッカケになったんだから、御代は要らないわよ。それに代金なら・・・そうね、その子の今の笑顔で十分だわ」


「どうも有難うございました!」


美雷が元気良く主にお礼を言いながら店を後にする、隣で喜ぶ美雷を見ていて俺も何だか嬉しくなってきた。


「良かったな美雷、服が見つかって」


「うん、そうだ王道さん!これから町の外の広い場所で少し走ってみたいんだけど良いかな?」


「良いけど、雲行きが怪しくなってきたから雨が降り出す前に帰るからな」


「わかった!」


だが広い場所に出て美雷が走り始めた時、ポツポツと雨粒が落ちてくると瞬く間に夕立みたいな強い雨に変わってしまった。


「美雷、そこの小屋に入るぞ!」


「・・・うん」


近くの林に行く木こりか猟師が使っていたと思われる小屋の中は無人で静まり返っていた。囲炉裏の様なものが有ったので王道は何とか火を起こした。


「美雷、火を起こしたからこっちに来い」


「うん」


全身が濡れて身体が冷やされたのか、美雷は震えていた。濡れた白いシャツからは中の下着も薄っすらと透けて見える。


「すまん美雷、先にそっちからしておくべきだった。すぐに乾かしてやるからな」


分解を使った王道は美雷の起伏の乏しい身体を目の当たりにするが、今はそれどころでは無かった。雨で濡れた身体は乾かせたが、王道も美雷も冷えた身体がそのままだったからだ。


「こうなったら仕方ないか」


小屋の隅に置かれていた毛布を見つけると、美雷と一緒に包まる様にしてお互いの身体を温める事にした。


「王道さん、あったかい」


「このままじっとしていれば、その内に雨も止むからそうしたら町に戻ろう」


「うん、そうする」


「すまなかったな美雷、俺がもう少し早く雨が降るのに気付いていたら濡れずに済んだのに」


「王道さんは悪くないよ、はしゃいで町の外に出た私の所為」


言いながら、美雷はウトウトし始めた。


「今日は走ったりしたから疲れているんだろ、雨が止んだら起こしてやるから少し寝てな」


「わかった、王道さんありがと」


静かに寝息を立てる美雷の横でじっとしていた王道だったが、しばらくすると王道も眠気に襲われ美雷に寄りかかる様にして寝てしまう。その日、雨が止んでも2人が起きる気配は無かった。





チュンチュン・・・スズメの鳴き声で王道は目を覚ました。どうやら、うっかり寝てしまいそのまま翌朝になってしまった様だ。薄暗い小屋の中で目を凝らすと正面で仁王立ちしている4人の人影に気付いた。


「王道~私達を散々心配させておいて、良いご身分ね」


「華憐っ!?」


一瞬で目が覚めると王道は毛布を勢い良く外した、美雷もその振動でようやく目を覚ますとボンヤリとした目で王道を見つめた。


「王道さん・・・」


「あっ美雷起きたか、おはよ・・むぐっ!?」



言い終わる前に美雷が王道の唇を塞いでいた。


「「「「なっ!?」」」」


「えへへ、王道さん大好き~♪」


そのまま美雷が2度寝に入ると、王道は昨日から何が有ったのか華憐達4人に囲まれ正座で説明する羽目になった。


「俺が悪いんじゃない、昨日の通り雨が悪いんだ~!?」


王道の虚しい言い訳だけが小屋の中で響いていた。

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