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第8話 女性陣・男性陣の苦労とみどり先生の秘密

「王道、いいと言うまでこっちに近付かないでね!近付いたら焼くわよ」


「怖い事言わんでくれ華憐、そこまで俺だって馬鹿じゃないし何か対策考えないといけないのは分かってる」


「なら、今すぐ変換で代わりになる物を出しなさいよ!!」


「トイレを変換で出せる訳無いだろ!?」





異世界に召喚されてから、早1週間。渇濡馬を拠点に臼束 乃炉 渡使 長出に出没していた邪族はほぼ退治出来た。はじめの数日は俺の熱中症などが有り緊張感を持っていたのだが、徐々にこちらの世界に慣れてくるにつれ女性陣や男性陣にとって看過出来ない問題が次々と起こり始める。


まず始めに月に1度の女の子の日だ、華憐達も乙女のたしなみとして持ち歩いていたが何時終わるか分からない旅を見越して多めに用意している訳も無く手持ちがほとんど無かった。これに関しては布ナプキンなる物がこちらの世界にも有ったらしく、最悪は女性達が各自で手洗い等する事となりひとまず落ち着いた。


そして、次が冒頭で出てきたトイレの問題だ。だだっ広い草原や見晴らしの良い場所で用を足す事は女性陣に出来る訳も無くこの問題が発覚してから行動範囲がかなり狭くなってしまった。乃炉や渡使に行った時は帰りに轟で1泊する羽目になる等これからの行動計画にも支障が出るのは必至。本当に止むを得ない場合は、王道が離れた場所で奈央が最後に水魔法で洗い流し終えるまで待つのが暗黙のルールとなりつつある。しかし、これも同性に見られるという点ではかなり恥ずかしいそうで困ったものだ。


対して男性陣の・・・と言っても俺1人しか居ないのだが、それなりに苦労している。毎日女性の下着姿を見るのはもちろんだが、時折先日の奈央の様に身体の表面に付いた汗や汚れ等を分解して欲しいと頼まれてしまうと否が応でも裸を間近で見てしまう。幸せに思われるかもしれないが現実はそんなに甘くない、バレた瞬間に俺の人生は幕を閉じてしまうし顔には出さないがそっちの欲求は募るばかりだからだ。なので・・・申し訳無く思うけど夜になると情報収集してくると嘘を言って酒場に出向き


「おやっさん、空いているかい?」


「おお、旦那。ちょうど地下の1部屋が空いているよ」


「分かった、ありがとう」


そう言いながら、地下に降りていく。ここは表向きは酒場だが、地下に在る連れ込み宿が本当の姿だ。ここで数時間を過ごした後で戻る様になって、悶々と過ごす日々からは解放された。男としては情けないかもしれないが、華憐達に手を出したら何かが壊れてしまう。そんな気持ちがこんな場所に通う事になった主な要因だ。





こちらの世界に来てから、華憐・門音・みどり先生・奈央が俺に対する好意を見せている。元の世界に居た時には想像出来なかったがその気になればハーレムを作れるかもしれない。しかし1人だけどう考えても好意を向けてくる理由が分からない人が何故か居た、みどり先生だ。


男性に対する免疫が少なくて偶然一緒になった俺に好意を向けた・・・ってのはあまりにも強引過ぎるし、門音と同じで俺と以前どこかで面識が有ったってのも流石に考え過ぎだろう、考えれば考えるほどよく分からない不思議な女性に思えていた。



そんなみどり先生の謎が解き明かされたのは、それから2日後の事だった。渇濡馬を出発した俺達はまず臼束に向かってから轟で1泊し、翌日渇濡馬に戻る予定でいた。ほぼ退治出来た筈の場所に再び向かうのは、臼束のエリアをテリトリーにする邪族の生き残りが居た場合それを倒してある物を入手するのが目的だからだ。


臼束を根城にしていた邪族はハニービーという、1匹が17インチのモニター位の大きさのミツバチだった。元の世界のミツバチは人を襲う事はまず無いのだが、こちらの世界のハニービーは反対にミツを奪われない為に人を襲う。そのハニービーの死骸から体内に貯め込んだ極上の蜂蜜を変換で入手する事が出来た。


蜂蜜は長期間保存出来る糖分として重宝されており、しかもその蜂蜜を大量に持ち込んだので王道達はちょっとしたお金を手にした。そのお金が布ナプキン代や王道の夜の酒場代で消えてしまったので、味を占めた7人がもう1度調達出来ないかやって来たという訳である。


「王道、早くハニービーを見つけなさいよ」


「華憐、お前も周囲をよく探さないと見逃すぞ」


そんなやり取りをしていると、1匹のハニービーが王道達の前を通り過ぎて行った。どうやら運良く気付かれなかった様だ。


「王道、居た!!」


「し~っ!?静かにしろ、このまま後を付けるんだ」


「どうして?」


「アレが働き蜂なら、巣にきっと戻る筈だ。今回は巣ごと殲滅して巣に蓄えられている蜂蜜を根こそぎ手に入れよう」


ゴクッ!! 女性陣の喉が鳴る、実はこのハニービーの極上蜂蜜は鑑定の結果美容効果もバツグンで華憐達は毎日部屋でこっそり舐めていた。ハニービーの後をつけ始めてから10分後、臼束と渡使の境目付近で巨大なハニービーの巣に辿り着いた。どれ位蜂蜜を蓄えているのか気になるので鑑定してみる事にする。





鑑定結果


邪族建造物 ハニービーの巣


大勢の働き蜂と1匹のハニービークイーンが生活している、巨大な巣。中には25mプール1杯分の極上蜂蜜と次代のハニービークイーンとなるわずか1匹の蜂にしか与えられないプレミアムローヤルゼリーがドラム缶1つ分蓄えられている。





「25mプール1杯分の蜂蜜・・・」


「・・・プレミアムローヤルゼリー」


きっと誰かが見たら、今の王道達の目は邪族よりも邪な眼差しとなっていただろう。7人が勢い良く飛び出そうとしたその時、巣に戻ってきたハニービーの1匹が王道を背後から襲おうとした。


「キンローさん、伏せて!?」


みどり先生の声で王道はとっさにしゃがむ事で攻撃を避ける事が出来た、襲ってきたハニービーはすぐに華憐達の手で始末される。


(キンローさん、だって!?)


この時、王道はみどり先生に抱いていた謎が一気に解けた気がした。そして、みどり先生が持つ華憐達の知らないもう1つの別の名前も・・・。




鑑定結果


アイテム プレミアムローヤルゼリー


小さいスプーン1杯分舐めるだけで、1週間は滋養強壮・美肌効果・肉体強化・状態異常回復など効果が続く良い事だらけの途轍も無く希少な品。スプーン1杯分欲しさに金貨10枚払おうとする方も居るとか居ないとか・・・。




(スプーン1杯に金貨10枚出す人が本当に居るのなら、このドラム缶1つ分でどれ位の価値が有るんだ!?)


巣以外からも大量のハニービーの死骸から極上蜂蜜をお風呂10杯分、ハニービークイーンの死骸からは1升分のプレミアムローヤルゼリーを変換で手に入れる事に成功した。


大喜びしている華憐や薫を他所にみどり先生の顔には取り返しの付かない事を言ってしまった焦りが見えていた。そしてその日の晩、王道がみどり先生の部屋を訪ねようとする前に寝室の扉がノックされた。


「はい、どなたですか?」


「風間です、少しだけお時間よろしいでしょうか?」


「どうぞ、俺の方から伺おうと思っていたので丁度良かった」


みどり先生が悲痛な面持ちで部屋の中に入ってくると、王道の方から先に口を開いた。


「まさか、こんな所で会うとは思いませんでしたよ。エメラさん」


「!?」


「キンローの名前を使っているのはフリーファンタジーオンライン~自由の幻想~だけですし、しかも俺が秋葉原に行く事を知っているのはギルド独身貴族のメンバーだけですから・・・」


「やはり、気付かれていたのですね」


「実を言うと、気付いたのはエメラさんが『キンローさん』と言ってくれたからです。それが無ければ未だに分からなかったかもしれません」


フリーファンタジーオンライン~自由の幻想~とは、何もかも自由をコンセプトに作られたオンラインゲームで決まった職業は存在せず武器やスキルも自由に選べるので自分だけの【自由の幻想】を楽しめる様になっていた。


そして、ギルド独身貴族は王道がオタク仲間達と作ったギルドでその中の紅一点が仲間以外からの加入者のエメラだったのだ。


「王道さんが初めに自己紹介された時にすぐに分かりました、キンローさんだって。以前名前の由来が王道=キングロードを略したものだと言ってましたから」


「よくそんな昔の事を覚えていましたね、逆にみどり先生は何でエメラって名前を付けたんですか?」


「王道さんと似たようなもんですよ、緑色の宝石エメラルドを略しただけですから」


「なるほど。では、まさか・・・華憐達が課外授業で秋葉原を訪れたのは?」


「はい、私が日程とコースを変えて王道さんが来る時間帯を見計らって訪れる様にしました」


そこまでする理由がみどり先生には有ったのだろうか?それが気になってしまった。


「何でそこまでして、俺が秋葉原に行くタイミングに合わせたのですか?」


「王道さんと・・・いえ、キンローさんと同じ時間を同じ場所で過ごしたいと思ったからです」


「俺はエメラさんにそこまでさせる様な事をした覚えが無いんですが?」


「私にとってキンローさんは、初めて出会えたヒーローなんです」


「ヒーロー?」


みどり先生はゲームの中で初めて会った時の事を語りだした、高等部を卒業して大学まで進んだものの総体で起こした事件を引きずって新しい1歩を踏み出せずにいた。そんな時に偶然巡り会えたのがフリーファンタジーオンライン~自由の幻想~で、ここで新しい自分を見つけられるかもしれないと思い弓では無く人を癒すヒーラーとしてプレイし始める。


しかし男性と上手く話す事が出来ないなどパーティーに参加する事が出来ずに1人でゲーム内を過ごしていたある日の事、モンスターに追われていた所を偶然通りがかった王道達のパーティーに助けられその縁でギルド独身貴族に加入した。


「あの時、格上の相手だと承知の上で私とモンスターの間に割って入ってくれた瞬間私の中ではあなたがヒーローに見えたんです」


「そこまで格好良く入れた訳じゃなかったけどね、実際デスペナ貰ったし」


「それでも痛みを感じるあのゲームで助けに来てくれた事は本当に嬉しかった。だから、あなたのすぐ傍に居たいと思い無理を承知でギルドに加入させて頂いたんです」


「そうだったのか」


そのまま立ち去ろうとする王道達ギルド独身貴族のメンバー全員に加入させて貰える様に必死に頼み込んでいたのには、そんな理由が有ったとは思いもしなかった。


「それじゃあ、実際に会って幻滅されたんじゃないですか?熱中症になったり情けない所ばかり見せているから」


「そんな事は無いですよ、思った通り・・・いえ、それ以上に素敵な男性でした」


みどり先生はそう言いながら、王道に唇を重ね合わせる。


「なっ!?」


「私も華憐さん達に負けるつもりは有りません、現実でもゲームの中でもあなたの隣に居るのは私です」


恥ずかしそうに笑いながら、みどり先生は部屋を後にする。王道は物凄いベタな展開でみどり先生から惚れられていたと知り、しばらく放心状態となっていた。





翌日、朝食を食べていると奈央が王道に話しかけてきた。


「ねえ、王道さん。昨日、みどり先生が『キンローさん』と言っていたけどあれはどういう事ですか?」


「あれは、そのなんだ・・・」


王道が答えに迷っていると、みどり先生が近付いてきて


「奈央さん、それは王道さんと私エメラだけの秘密です♪」


と言いながら、後ろから王道に抱きついた。背中に感じる豊かな感触に思わず顔がにやけそうになったが正面に居る華憐・門音・奈央の顔を見た瞬間生きた心地がしなかった。


「王道!!みどり先生の言うエメラって何!?今すぐ全部白状なさい」


「きみ兄ちゃん、みどり先生と何時の間にそんな仲良くなったの!?」


「王道さん、やはり年が近い女性の方が好みなのですか!?」


4人に囲まれる王道を見て、薫が呆れた様に


「あんな人のどこが良いのでしょうね?美雷さん」


っと言うが、それを美雷は聞き流す様にしながら別の事を考えていた。


(何だろう?4人が王道さんのすぐ傍に居るのを見ると、何故だかイラっとする。それにこの締め付けられる様な胸の痛みは何?)


王道は気付かない間に、また1つフラグを立ててしまったようだ・・・。

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