第4話 ようやく始まった旅と初めて使う鑑定と変換
3人が疲れ果てたので、ようやく同士討ちも収まった。その後3人はライア達の前で正座させられ、王道からお説教される事となる。
「かあ坊、いや門音。お前は人を平気で傷付ける様な女の子じゃなかった筈だ、さっきまでの殺気に満ちた顔を見て俺悲しくなったぞ」
「はい・・・」
「それから華憐。 『消し炭になりなさい!』や『身体の芯まで火を通してあげる』には流石の俺もドン引きしたぞ、お嬢様なのにそんな言葉を使うと折角の美人も台無しだ」
「うん、ごめんなさい」
俯きながら反省を口にする華憐だったが、すぐに俺の言った言葉に反応して顔をあげた。
「ねえ、今私のこと美人って言ったわよね。本当にそう思ってるの!?」
「あ、ああ当然だろ。だからかあ坊やみどり先生と同士討ちなんて真似はするんじゃないぞ」
「うん、分かった!」
ひまわりの様な笑顔を浮かべて奈央達の許に戻る華憐、すると今度は門音が不服そうな顔で王道を見つめていた。
「門音、お前もあの頃とは比べ物にならない位可愛くなっているんだぞ。俺がすぐに気付けない程にな、元の世界に帰る為にもみんなで仲良く協力していくんだ。そうしたら、また頭を撫でてやってもいいぞ」
「本当っ!?じゃあ、元の世界に戻るまでは協力する」
(あれ、何かニュアンスが違う様に思えたのは気のせいか?)
そうして最後に王道は20歳を過ぎて正座させられている、みどり先生に近付いた。
「みどり先生、どうしてあなたを最後にしたのか分かりますか?」
「いえ、どうして正座させられているのかさっきまで何をしていたのか分からなくて。私、何かしていましたか?」
おいおい、前後の記憶を失うって我を忘れるにしても度が過ぎるだろ。
「あなたはさっきまで門音と華憐の命を奪おうとして3人で同士討ちしてたんですよ、1時間近くも」
「ええっ!?そうだったんですか!」
「こういうのは時々起きていたのですか?」
「高校の頃まではそんなでも無かったのですが、総体の時に1度だけ緊張の余り記憶を失った事はありました」
過去にも似たような事件を起こしたのか・・・一体その時は何をしたんだ?
それから彼女が口にした総体の時の出来事を聞いて、俺はゾッとした。最初に弓で攻撃されていたら門音や華憐も無事では済まなかったと容易に想像出来たからだ。
高校生の頃、みどり先生は弓道部に所属していて団体戦で全国大会上位に入れるほどの強豪だったらしい。その時は天候の関係で日程が押していて1つの会場で男子の部と合同で行う事になったそうだ。間近で初めて見る同年代の男性に極度に緊張したみどり先生だったが、声を掛けて貰える様に頑張ろうとしていた矢先に他校の女子生徒がキャアキャアはしゃぎながら男子生徒に纏わりつくのを見た瞬間から記憶が一時途切れてしまった。
我に返ると会場内はシーンと静まり返り、さっきまではしゃいでいた女子生徒は失禁し男子生徒も腰を抜かせて座り込んでいた。そして・・・彼らの視線の先には継ぎ矢で繋がる4本の矢が有った。その後、聞く話によるとみどり先生は女子生徒に対し
「折角、殿方の前で良い所を見せようとしているのに邪魔を続けるのならその額を的で継ぎ矢しても構いませんのよ。これ位の距離なら狙った場所に当てられますから」
みどり先生はその場で棄権し、会場を出て行った。そして2度と大会に出る事は無かったのだと言う。
「ちなみに弓道は続けられているのですか?」
「はい、大会には出ませんが同じ轍を踏まない様に精神修養として部活動を終えた後に1人で弓道場を使わせてもらっております」
「腕前はいかほどで?」
「去年、弓道錬士五段を授与されました」
「・・・・・」
とんでもない弓の腕前だという事が素人の俺でも理解出来た、これからはプッツンされない様に気を付けよう。
みどり先生を立たせると門音や華憐達の待つ場所まで戻る、呆然としていたライア達も立ち直りいよいよ旅立ちの時を迎えようとしていた。
「ところでさ、ライア。門音やみどり先生に学校の制服やスーツ姿で戦わせるつもりなのか?」
『そう言われてみればそうですね、今後戦うのでしたら動き易い格好が良いでしょう』
そう言うと、ライアは6人にブレスレットを渡した。
「これは?」
『それは我らが着ているローブと同じ素材で作った戦闘服です、軽さと丈夫さはもちろんですが耐熱や耐寒にも優れているので着たままでも生活出来ます』
「それじゃあ、早速着替えてみますか!」
『戦闘服になる際は『変身!』と叫んでくださいね』
「叫ばないと駄目なの?」
『古よりの決まり事ですから♪』
渋々、華憐達は横に並ぶと恥ずかしそうにしながら着替える為の言葉を叫んだ。
「「「「「「変身!」」」」」」
それから着替え終えるまでの間の出来事を俺は彼女達に説明する事が出来なかった、言ってしまえば彼女達は多分表を歩けなくなるからだ。
「・・・なあ、ライア。着替える度にこれが繰り返されるのか?」
『はい♪あなたも目の保養が出来て内心嬉しいのではないですか?』
「・・・・・」
目の前で繰り広げられた光景は以下の様なものだ。
1、目を瞑ると服が透ける様に全裸になっていく
2、肌は見えないが身体のラインは丸見え状態
3、その場でポーズを取りながら回りだすと戦闘服が装着される
4、最後に6人が別々の決めポーズをして変身完了
変身を終えて目を開けた彼女達はその格好を見て仰天した。
「きゃああああ!!これが私達の戦闘服なの!?」
「こんな格好で、きみ兄ちゃんの前で戦うの!?」
「でも、これ軽くて動き易いから私は好きだな。結構走りやすいよ」
「よく見ると、各自で色や刺繍の柄が違うのですね」
「奈央さんは冷静ですね、私もこの様な薄着で舞う事が無かったので緊張しそうです」
「良かった、私だけはロングで。この歳でミニだったら恥ずかしくて表を歩けなかったわ」
(その前にもっと恥ずかしい姿を晒しているので手遅れです)
彼女達が着替えた戦闘服とは何とチャイナドレスだったのだ。華憐達5人はミニでみどり先生だけロングとなっている、そして華憐は紅い布地・奈央は蒼い布地・門音は黒の布地・美雷が黄色の布地・薫は白の布地・みどり先生が薄緑色の布地でそれぞれに金の刺繍が施されていた。
「俺には何も無いの?」
『爆散しても構わなければ作りますが?』
「いえ、結構です」
準備が整った俺達7人はライアの作り出した魔方陣の上に移動して、いよいよ邪族討伐の旅に出発する事となった。
『王道、これらをあなたに追加で渡しておきます』
ライアから手渡された物、それは古びた地図と何かの皮で出来た財布にハイキング用みたいなリュックだった。
『その地図はこの世界で迷子とならない為に大まかな道案内やダンジョンに入った際のマッピングの機能も付いております。また財布の方は様々な地域や国を行く事になるのでその場所の通貨に合わせて両替をしてくれます。最後にリュックですが、7人が十分入れる大きさのテントが収められていますがそれ以外にも色々な物を収納出来ますので役立ててください』
「収められるって、どれ位の大きさまで入れられるの?」
『収める気なら半島くらいの大きさの物も入れられます、ただし取り出す事は出来ないかもしれませんが』
「入れるのは簡単なんだ?」
『リュックを開いて対象に向けるだけで大丈夫ですから簡単です』
これは便利な物を頂いた、このリュックだけでも持ち帰りたい気もするがそれは贅沢な願いかもしれないな。
『それではこれより地上に転送します、邪神の力は強大です。決して油断されませんように』
魔方陣が白く輝くとライア達の姿も眩しい光の中に消えてゆく、そこで俺はもう1つだけ大事な事を聞くのを思い出した!
「ライア!このリュックは生き物も入れられるのか!?」
『・・・可・・の・・
ライアの言葉を最後まで聞く事が出来ないまま、俺達は転送され意識を失った。
7人が目を覚ますとそこは小川近くの草原の上だった。
「どうやら無事に転送は成功したみたいだが、みんな大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですわ」
「うん、大丈夫だよきみ兄ちゃん」
他の4人も問題無かったので、まずは先程貰ったばかりの地図を開いて現在地を調べてみる事にした。
「え~と何々、ここら辺は硬洲って地域で小さい村や集落が幾つも存在しているみたいだ」
「硬洲ですか?」
「それから俺達が今居る国は櫂って名前だ、そして近くに轟って村が有るようだぞ」
「では、まずはその轟の村を目指すべきですね」
轟の村を目指して歩き出した7人、地図を見ている王道を先頭にして進んでいると目の前に突如水色のモンスターが姿を現した。見た目はスライムそっくりなのだが、肝心の名前が分からない。
「とりあえず試しに鑑定してみる事にするか」
(鑑定)
心の中で念じてみると、目の前にいるモンスターの情報が出てきた。
鑑定結果
邪族 スライム
獲物を体内に取り込み溶かして食べる生き物、この邪族はある方法を用いれば食べる事も出来ます。
「ねえ、どうだった王道。何か分かった?」
「ああ、やっぱりこのモンスターの名前はスライムで邪族だった。あと・・・何らかの方法を使えば食べられるって」
「嫌、嫌よ、こんな気持ち悪いのなんて食べられる訳無いじゃない!?」
パニックになりかけた華憐だったが、門音が前に出るとアッサリとスライムを大鎌で横薙ぎに切り払った。
「こんなのを相手にするだけ時間の無駄。先を急ごうよ、きみ兄ちゃん」
「あ、ああ」
だが、水や食料も無い状態で無闇に動くのは正直得策じゃない。食べられる方法が有るのなら先にそれを見つけておくだけでも役立つ事も有ると考えた王道は再びスライムの死骸を鑑定してみた。
鑑定結果
アイテム スライムの死骸
スライムの死骸、放置しておくと悪臭を放つ。まだ死んで間もないので食料に変換可能
(そのままにしておくと悪臭を放つのか、それは嫌だな。でもちょっと待てよ、食料に変換可能って事は変換を使えば食料に出来るのか?)
先程使った鑑定の様にまずは心の中で念じてみる。
(変換)
シーン、何も起きない。変換はこの方法では使えないみたいだ。今度は声に出して言ってみた。
「変換」
ブーン!スライムの死骸にノイズの様な物が走ると俺や華憐達にも見えるウィンドウが現れた。
[このアイテムは以下の物に変換可能です。]
1、スライムinゼリー マスカット味5個
2、スライムinゼリー ソーダ味5個
3、スライムinゼリー エナジードリンク味5個
[どれに変換しますか?]
「・・・・・・・・」
「王道、あんたまずは毒見でどれか食べてみなさいよ」
「俺が毒見役かよ!?」
「あんたは戦闘出来ないんだから、それ位やってくれてもいいでしょ」
「分かったよ、やればいいんだろやれば」
どの味にしようか悩んだ結果1番下のエナジードリンク味を選んでみた、するとボンッと白い煙に包まれるとスライムの死骸が無くなり代わりに地面にコンビニでよく見かけるゼリー飲料みたいな物が落ちていた。
「どれどれ、味の方はっと?」
封を切って口を付けて飲むと確かにエナジードリンク風味のゼリーだった。少しだけナタデココが混ざった様な食感がするのはスライムが入っている所為かもしれないが・・・。
「これ、十分いけるよ。ナタデココみたいな食感も混ざっているし」
「本当!?私にも味見させて!」
華憐が俺の手から奪うとそのまま口に付けて吸い始めた、そして数秒して口を離すと
「確かにこれなら十分美味しいわ。毒見してくれて、どうもありがと」
2人はその時になって、間接キスをしている事に気付いてお互いに赤面してしまう。30過ぎたおっさんの俺が顔を赤くするのは流石に恥ずかしい。
「華憐だけズルイ、私もそれで味見する!」
今度は門音が華憐から奪うと、残りを全部吸い尽くす勢いで飲み始めたがコツンと門音の後頭部に何か尖った物が当たるとそれはみどり先生が押し当てた矢の先端だった。
「門音さん、少し位は私にも残しておきなさい。頭の中がスースーしたくなければね♪」
「・・・・・はい」
精神修養が全くと言っていいほど出来ていないと思えた、よく弓道錬士になれたなこの人。残りの4個も皆で分けて栄養補給を終えて先を急ぐと、今度はスライムが4体現れた。
「夕食の間接キスの為に死になさい、あなた達!」
「今度はきみ兄ちゃんに口移しするんだから!」
「わ、私は口移しして頂きたいです!!」
怖い事を言いながらスライムを倒し始める3人、遠目で生温かく見ていた王道の背中を美雷が指先でつついてきた。
「どうした、美雷?」
「あのね、今度はマスカット味も変換して貰えないかな?」
「何だ、マスカット好きなのか?」
「マスカットだけじゃないよ、葡萄はほとんど大好き」
「分かった分かった、それじゃあ美雷の為に2体分はマスカット味に変換しておくよ」
「本当、おじさん!約束だよ!?」
大喜びしながらスライムを倒しに参加する美雷、ゼリー飲料の原料の扱いになってしまったスライムには可哀想だがこれで食料の問題は解決する事となった。