第2話 神の器を持つ乙女達
『緊急事態で急いでいたので、どうやらあなたも一緒に召喚に巻き込んでしまったみたいですね』
そう金髪の美女は俺と華憐に近付きながらあっけらかんと説明してくれた。危害を加えてこないだろうと判断した俺はずっと庇っていた華憐を静かに離すと彼女は顔だけじゃなく耳まで真っ赤になっていた。
「何だ顔を真っ赤にして?どうやら君達は異世界に召喚されてしまったみたいだぞ。俺はそれに巻き込まれただけみたいだがな」
「ちょっと、それどういう事?」
『それは他の皆様が目を覚ましてから我々の口から説明させて頂きます』
他の5人の人達も一斉に顔を覆っていたヴェールを外す、5人は赤髪・青髪・黄髪・緑髪・黒髪でそれぞれショート・セミロング・ボブ・ツインテール・ハーフアップの髪型の金髪女性と同様の美女だった。
目の前に6人も美女が現れたので、王道が見惚れていると華憐が急にムッとして手の甲をつねってきた。
「痛たたたっ!何をするんだ急に」
「鼻の下を伸ばしているからよ」
華憐の急な態度の変化を不思議に思ったが、この時になって王道はまだ華憐に自己紹介をしていない事に気が付いた。
「そうだ、みどり先生が下の名前を言っていたから君の名が華憐だって分かってるけど苗字とか聞いていなかったな。俺の方から自己紹介させて貰うけど天符玲 王道って名前だ、知り合い達からはよくテンプレ・王道ってからかわれたりするけどね」
「テンプレ・王道?」
どうやら意味が分からないらしい、お嬢様だから仕方ないか。
「テンプレってのはテンプレートの略。テンプレ・王道ってのはラノベ、いやライトノベルのファンタジー系等でよくある展開やお約束を意味しているんだ。全くモテない中年男が異世界に召喚された途端に若い女性から一目惚れされたりとかね」
「ひ、一目惚れですって!?」
華憐が動揺している、何か変だぞ?
「まあ、後は複数の女性から言い寄られてハーレム状態になるって奴かな?モテない男にとっては正に理想の展開だろうけど」
「あ、あなたもそうなるのを望んでいるの?」
「悲しいけれど、この歳になっても彼女が出来ない男のそんなささやかな願望を抱く事位は大目に見て欲しい」
「そうなんだ・・・・付き合っている女性や奥さんは居ないのね」
少しだけ喜んでいる様な表情を浮かべる華憐、やっぱり何か変だ。
「それじゃあ、今度は私の方から自己紹介させて頂きますね。私の名前は焔 華憐、焔商事社長である焔 炎蔵の娘です」
「えっあの焔商事の社長令嬢なの華憐は!?」
「そうよ、驚いた?」
勝ち誇った顔で言う華憐だが、何も言い返す事が出来ない。焔商事は国内の企業業績の上位TOP10には入らないものの、その堅実な経営と非正規雇用を積極的に本採用する姿勢が高く評価され最近では新卒や中途採用を問わず入りたい企業TOP3の常連となっていた。
「その私の最初のキスを奪ったのだから、元の世界に戻ったら覚悟しておきなさい」
「どんな覚悟をしておけば良いのでしょうか?」
「そうね、私の傍から逃げ出す事が無い様に常時見張らせて貰う所から始めさせて頂くわ」
あれ、それって俺が華憐と付き合うのとほとんど同じにならないかな?
「それだと、俺がお前を彼女にするのと同じになるが良いのか?」
「うるさいうるさいうるさい!私が決めたんだから、あなたはそれに黙って従えば良いのよ!?」
これは俗に言うツンデレの亜種なのだろうか?ファーストキスを奪われたからその男を好きになってしまった・・・そんなお約束が自分の身に降りかかるとは、考えていた理想とちょっと違う。
それから傍を離れようとしない華憐と押し問答をしながら待つ事1時間、みどり先生を始めとする5人がようやく目を覚ましたので今回の経緯の説明が始まった。
『私は6柱神のリーダーであり光の神のライアと申します』
『私は闇の神 ダータ』
『私は炎の神 フレイ』
『私は水の神 アクア』
『私は風の神 エアル』
『私は雷の神 エレク』
なるほど、カラフルな髪の色はそれぞれの属性をあらわしていたのか。
『これまでこちらの世界は我ら6柱神が見守る中、健やかに平和な日々を過ごしてまいりました。ところが数年前、別の世界よりやってきた邪神イーヴィルを名乗る者が現れた事で事態は一変します』
『彼の者は自身の居た世界より邪悪な生き物達を呼び寄せて、この世界に解き放ちました。その結果、この世界の住人はその邪悪な生き物・・・我らは邪族と呼んでいますがそれらに次々と襲われ命を奪われたりどこかへ攫われているのです』
ライアの顔に悔しさが滲んでいた、本心であればすぐにでも地上に降りて討伐したいのだがそれが出来ない理由も続けて説明してくれた。
『無論我らも黙って見ているつもりはありません、この世界で生きている者全てをこれまでずっと見守ってきていたのですから。しかし、そこで我らがこの世界を収める時にお互いに結んだ誓約が首を絞めたのです』
『我らはこの世界を創造する際に誓約を結びました。【不用意に降臨しこの世界の住人に姿を晒さない事、降臨せざる得ない事態が起きた際は代わりの者に各々の力を委ねて託そう】と』
「つまり、邪神とやらが連れてきた邪族を追い払いたいが降臨出来ないので代わりの者に頼むしか無いと。それでその代わりの者に相応しかったのが俺を除いた華憐達6人だったという訳か?」
『はい、その通りです』
『本来であれば、6人を召喚するのは最後の見学予定地の皇居周辺になる予定でした。しかし、我らの動きに気付いたイーヴィルが先に6人を始末しようと遠隔魔法で爆殺を図ろうとしたので予定を変更して秋葉原で召喚する事になったのです』
(そこで偶然通り掛かった俺が巻き込まれてしまったのか・・・)
ライアが流れ出る涙を拭いながら懇願した。
『お願いです、我らに代わりこの世界を害を振り撒く邪族の手からお救い下さい。成功の暁には我らに出来る事でしたら何でも致しますので』
「そう、それでしたら1つお願いがあります」
華憐が右手を挙げてライアに願いを伝えようとする、そして挙げた右手で俺を指差すとこの場の誰もが考え付かない願いを言い出しやがった!
「元の世界に戻る際に、そこの男に私と交際するのに誰からも文句が出ないだけの地位と財力を与えてやってください」
「なっ急に何を言い出すんだお前は!?」
「もしかして、華憐さんと王道さんは以前からお付き合いされていたのですか?」
みどり先生が驚いた顔で2人を交互に見る。
「誤解です、俺は彼女とさっき会ったばかりですよ!?」
「あら、私の初めてを奪っておきながらその態度は悲し過ぎますわ」
「は・・・初めてって!?王道さん不潔です!!」
顔を真っ赤にしながら怒り出したみどり先生と、その横で怯えた目で俺を見る華憐以外の女子高生達。更にはライア達まで目を逸らしやがった。
「ちょっと待て、ライア!お前らも俺が華憐と肉体関係なんて結んでいないのは知っている筈だろうが!?さっき偶然華憐が倒れ込んできた時にキスしてしまったんだ。そして、それが華憐のファーストキスだっただけだ」
「それはそれで・・・男性とお付き合いした事の無い私には羨ましい限りです」
みどり先生まで変な事を言い出し華憐はそんなみどり先生に対してドヤ顔を向けているし、最早これはハーレムというよりも女難に近いかもしれない・・・。