第12話 華憐達が望んだ物
宿に戻った王道は、早速華憐達に下磐咲の教会での出来事を話した。
「ライアが褒美をくれるですって!?」
「ああ、明日全員で来て欲しいそうだ」
「どんな褒美を貰えるのでしょうか?」
「それも明日行けば分かる筈だ。あと俺は迷惑掛けない様に室内風呂の方で済ませて寝るから、皆もゆっくり休んでくれ」
王道が広間を出て寝室に戻ると、華憐達は反省会を始めた。なお、薫は大切な調べ物があると言って参加していない。
「今回の美雷さんの件で、私達は王道も1人の男性であったと再認識させられました。軽はずみな行動はお互いの為になりません、もっと自分の心と身体を大切にした上で王道に私達の気持ちを受け入れて貰いましょう」
「だけど元の世界に戻っても、きみ兄ちゃんのお嫁さんになれるのは1人だけだよ?私達全員の気持ちを受け入れてもらうのは無理じゃないかな?」
「門音さん、大事な事を忘れていませんか?私達はこの世界の邪族を全て倒さない限り帰れません、つまりこの世界で一生を終える可能性も十分考えられます。渇濡馬周辺だけで数週間掛かったのですから、世界中の邪族を倒すまでに何十年掛かるか見当も付きません。ならばいっその事、王道さんとこちらの世界で共に暮らす道を考えても良いのではないでしょうか?」
奈央が大胆な発言を繰り出した、元の世界に戻ってしまうと王道を巡る争奪戦が決着が付くまで行われる事となる。しかし、こちらの世界でなら王道が皆に平等な接し方さえしてくれれば全員が幸せになれるのだ。奈央は既に王道とこの世界に骨を埋める覚悟を決めていた。
「でも、それだと私達は王道さんにハーレムを築いてもらう事になるんじゃないかな?私達だけなら耐えられるかもしれないけど、他にも女性達が増えても我慢出来る?」
「そうね、キンローいえ王道さんにハーレムを築いてもらうのは少し性急過ぎるかもしれないわね。けれど王道さんに他の女が近寄らない様に、何か対策を立てておくべきだと考えます」
対策として今回華憐達が出した答えは、磐咲を拠点にしている間この宿を自分達だけの貸切にしてしまう事だった。翌朝、華憐は王道に頼み再度金貨50枚を引き出して貰うとすぐに宿を丸ごと借り上げた。もし万が一、他の女性客と騒ぎを起こして犯罪者扱いされたら困ると皆で説得する形で王道を納得させた。
朝食を終えて、皆の支度を整えるのを待ってから王道は華憐達を連れ下磐咲の教会までやって来た。中に入ると、昨日と同じくシスターのミレイアと幻影姿のライアが王道達を出迎える。
「お待ちしておりました、皆様。この世界の住人を邪族の魔の手から解放してくれる救世主達を出迎える事が出来て大変光栄に思います」
『こんなにも早く渇濡馬周辺の邪族を倒しきるとは思っていませんでした、そこでほんの少しだけですが感謝の気持ちとして褒美を差し上げます。何か欲しい物は有りますか?』
ライアが優しく微笑みながら、華憐達に問い掛ける。すると、最初に華憐が口を開くとそこからは一斉に女性陣が怒涛の如く言葉を並べだした!
「トイレ!私は外で使える簡易トイレが欲しいです、しかも何時でも綺麗な状態が保たれているみたいな」
「それなら、私はその簡易トイレに音姫を備え付けて頂きたいです」
「じゃあ、私は減らずにずっと仄かに香る芳香剤!」
「私は何枚使っても無くならない、便座用の除菌シートをください」
「でしたら、簡易手洗いも欲しいので私の褒美はそれにしてください」
「誰も希望していないので、私は無限に使えるトイレットペーパーを選びます」
(全員、トイレをそこまで欲しかったのか!?」
女性陣の勢いに王道とライアは唖然とし、ミレイアは何を言っているのか分からずにいた。ライアは何とか華憐達の望みを1つに纏めると、こんな提案をした。
『それでは、こんなのを褒美として差し上げるのは如何でしょうか?あなた方の居た世界では女性用ハウス型仮設トイレという物が有りました、エアコン・ウォシュレット・音姫・全身鏡・ダストボックス・衣装掛け等が標準で備え付けられています。それに門音さんの希望した芳香剤と美雷さん希望の便座用の除菌シート、あとは薫さんが希望した無限に使えるトイレットペーパーを加えるというのはどうでしょう?』
女性陣全員の希望を全て取り入れた形の褒美を提案されたので、華憐達は満面の笑みを浮かべながらそれを貰う事となった。次いでライアは王道にも同様の質問をした。
「出来たら、俺も色違いで同じのが欲しい・・・」
こうして、女性陣の頭を悩ませていたトイレの問題が解決された。男性用女性用のそれぞれの簡易トイレをリュックに入れると、王道はふと感じた疑問を聞いてみる事にする。
「なあ、ライア。お前の姿を見てミレイアは全く驚いていないが、何か理由でも有るのか?」
『それは我々6柱神が、各々に祈りを捧げてくれる敬虔な信徒の前に定期的に幻影で現れ御礼を言っているのが原因です。降臨せずに幻影で御礼を言う位でしたら出来るので』
「もしかして幻影はお前の精神体みたいなものなのか?」
『言われてみると、それに近いかもしれないですね』
「なら、ライアがミレイアに憑依して感情を共有したりする事も可能だったりする?」
『・・・・・・・』
急にライアが静かになってしまった、どうしたのだろう?
「どうかしたのか、ライア?」
『人に憑依するのを今まで考えた事が有りませんでした』
「おいっ!?」
『もしかすると、降臨とは違う形で神の力を使える様になるかもしれません。ミレイア、試しにあなたの身体に憑依させてください』
「ライア様の御霊をこの身体の中に宿す事が出来るのですか!?喜んでこの身を捧げます、どうぞお試しください」
ミレイアが恍惚とした顔でライアを招き入れる、ライアの幻影がミレイアの中に溶け込む様に消えるとミレイアの身体が一瞬だけ光り輝いた。
「どうやら成功のようです、今私の精神はミレイアと共に同じ肉体の中で共存しております」
「感情も共有出来ているのか?」
「はい、ミレイアの喜びとそれ以外の感情も次々と私の中に流れ込んできています。人の気持ちがこんなに複雑だとは知りませんでした、王道新しい方法を見つけてくれてありが・・とう?」
ライアはミレイアから王道に対する羨望と憧れの感情を受け取る、しかし神の高速の思考は憧れの気持ちを急速に変化させ王道に対しこれまで決して抱く事が無かった感情を持たせる事となる。
(何なの、この感情は!?王道の顔をまともに見れない、それに私だけを見つめて欲しいとさえ願ってしまう)
王道は何も考えずにした質問で、こちらの世界の6柱神たる女神の1人に自分への恋心を植え付けてしまった。そのライアの感情がミレイアにも共有されると更に恋愛感情は増幅し、ライアは王道に世界の全てを捧げたいと願う様になってしまう。
(この世界がどうなってしまおうと構わない、この気持ちを他の皆とも分かち合い王道の為の世界に作り変えよう)
王道はこの世界が自分の為のハーレムに作り変えられようとしている事に全く気付いていなかった・・・。