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お昼前

 道具屋の店内としてはそこそこの広さだと思う。

 物がありすぎて実際の大きさはわからないし、この広さが個人の店として普通なのかどうかはわからないけれど。

 壁には棚が据え付けられ、籠が置かれていたり商品がそこかしこに並べられている。

 籠の中にはガラス玉や石が入れられていたり、乾燥させた草や何かの干物っぽいものが纏められていた。

 他には装飾品だったり何に使うかわからない巻物だったり、針や色んなサイズの瓶に入った液体がある。

 ランプや棒に布が巻きつけられたもの――これは松明だろうか――等も置かれていて、本まで置いてある。

 そして店内にも傘立てがあり、そこには釣竿や鍬や鋤といった農具、草を刈る鎌等も置かれている。


「簡単に説明すると、この液体の入った瓶には体力を回復させるポーションとか解毒薬、バフ……えーっと……能力の基本値を一定時間底上げしてくれる薬とかだね。逆に敵の基本値を一定時間下げてくれるデバフ効果のある薬もある。瓶に入ってるのはそういう薬品系だね」

「へぇ……」

「簡単なものなら菜摘ちゃんにも作れると思うけど……」

「うーん……それはまだいいや。他には何があるの?」


 籠の中にあるガラス玉は、魔石っていうらしい。

 この店にあるのは一般の人も使う小さな――小指の爪程の――ものがほとんどだけど、大きいものだと両手で抱えられない程の大きさのものまであるらしい。

 他の籠には小粒の宝石まであるんだって。

 ……これ日本で換金出来るんじゃない?

 そう呟いたら、「じーちゃんはたまに換金してたな」ってしれっと言われた。

 そっか、この店にあるもののいくつか……もしかしなくてもこの店の売り上げの一部がわたしの為に使われたものだったんだな、と思った。

 それを聞くとこの道具屋を再開させようと思ったわたしの考えに、更に意味が込められる。

『わたしを支えてくれた祖父の遺産を大事にしたい』

 すぐに祖父と同じようには出来ないけど、いーちゃんの助けが得られるうちに出来ることを増やしていこう。


 乾燥させた草とか干物は薬師の使う、調合用の素材だと言われた。

 ようするにこれらを調合してポーションとかを作るんだって。

 店にはポーションも置いてあるけどこうした素材も一緒に売っていて、薬師の人たちが作ったポーションを買い取って並べるんだって。

 売れるものって色々あるんだなぁ。


「そうだ、試しに飲んでみる?」

「えっ?」


 いーちゃんが赤い液体の入った瓶を手に取ると、軽く振ってみせた。

 ちゃぽ、と揺れる赤はトマトのジュースみたいだ。


「……飲んだらどうなるの?」

「これはただのポーションだから体力が回復するだけだよ」


 訝しむわたしに対してクスクスと笑ういーちゃんは、その手の瓶を私に差し出してくる。

 おそるおそるそれを受け取り、瓶の蓋を開ける。

 蓋はコルクのようなものでされていて、開けた時にキュポっと軽い音がした。

 鼻を近づけて匂いを嗅いでみるけれど、無臭だった。

 行儀が悪いかな、と思いつつ瓶に指を突っ込んでみれば、指に絡んだ液体は水のようにサラサラしていた。

 こうして見るとただの色のついた液体にしか見えないが……とりあえず飲んでみなくては、と瓶に口をつけて傾ける。


「……ぐぶっ、……げほっ、ごほっ!」

「ははは、大丈夫?菜摘ちゃん」


 一口飲んだだけで咽るわたしを見て、いーちゃんはイタズラが成功したかのように笑う。

 背中を擦ってくれるけれど、まだ口の中が苦いし、サラサラの液体のはずが喉に絡み付いて物凄く水が欲しい。


「み、みず……、水……!」

「あちゃ……、そんなにキツかった?リビング戻ろうか」


 わたしは慌ててツッカケを脱ぎ、廊下を走り抜けてリビングへと向かう。

 蛇口を捻りコップに注いだ水を何度か飲み干して、漸く人心地がついた。


「……ねぇ、これ回復するためのものなんだよね?何でこんなに苦くて不味いの!?」

「薬草の苦さのせいだと思うんだよねぇ。でも、薬草よりは苦味も緩和されてるんだよ?」

「体力回復する前に不味さで倒れそう……」

「はははっ、俺も最初飲んだ時はそう思った!」

「……ってことはわかってて飲ませたのね!いーちゃんヒドい!」

「ごめんごめん!」


 いーちゃんをポカポカ叩いて不満を訴えるけれど、笑ったままのいーちゃんには効かなかった。

 くそう……。

 でもこのポーションはよく売れているらしい。

 草の状態だと飲み込むのにも難儀するから、液体の方がありがたいんだって。

 わたしからしたらどっちもお断りだけど、向こうではこの激マズポーションが命を繋ぐこともあるから重宝されているんだって。

 カルチャーショック、いや、異世界ショックです。


「ま、とりあえず1つずつ覚えていこうか」

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