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再会

 トイレやお風呂を掃除して、祖父の部屋になっていた1階の和室を掃除する。

 ただいま、って帰ってきそうで、でももう帰って来ない事実に、やっぱり涙が止まらなかった。


 祖父が入院する時も、入院してからも、飯塚さんが対応してくれた。

 わたしは土日しかこっちに来れなかったから、洗濯だとかそういうのは飯塚さんがしてくれたのだ。

 本当にありがたい。

 この部屋も、祖父が散らかしていたのを軽く纏めておいてくれていたようだ。

 本とか色々があっちこっちに積まれている。

 不意にそのひとつを手に取り開いてみたら、アルバムだった。

 祖母の写真に、母親の子供の頃の写真、叔父の写真、わたしの写真と沢山あった。


「……もっと早くこっちに来れば良かった……」


 後悔先に立たず。

 就職してから、なんて言わずに高校卒業と同時にこっちに来て、そこから将来を考えれば良かった。

 向こうに拘らず、こっちで悩めば良かった。

 両親の遺した物を全部持って、もっと早く祖父と一緒に住めば良かった。

 後悔で涙が止まらない。


「ごめんね……おじいちゃ……ごめんね……っ」


 どれだけ泣いても両親も祖父も帰って来ない。

 アルバムを抱き締めて蹲り、1人で途方に暮れる。


 一頻(ひとしき)り泣いて、鼻を啜ると何処からかガタゴトと音が聞こえてきた。


「……なに……?」


 泣き過ぎて喉がガラガラだし、瞼も痛いし鼻も痛い。

 けれどそれどころじゃない。

 耳を澄ませば、どうやらこの家のどこかで音がしているのがわかる。

 慌てて周囲を見回すけど、撃退道具は掃除に使っていた箒しかない。


「この家を守らなくちゃ……!」


 箒を掴んで、そっと廊下に出る。

 音の出処を確認すれば、この家の奥の方から聞こえてくる。

 この先に何があったっけ、と記憶を掘り返してみるけれど、すぐに思い出せなかった。

 この先に進んだことがあるのは、ほんの小さな頃だったと思う。

 ガタン!と大きめの音がして、記憶より大事なことがあった、と箒を握る手に力を込める。

 泥棒ならば手加減しない、とそろりそろりと近づけば、廊下の先に扉があった。

 ノブを掴んでそっと捻れば、簡単に開く。

 ごくり、と唾を飲み込み、手の中の箒をもう1度しっかり握る。


「そこにいるのは誰!?」


 勢いよく扉を開き、大声をあげればそこに居た人間がビクッと体を震わせて顔を上げた。

 その部屋は薄暗く、だけどなんか光の玉がふよふよとしていてその人間の手元だかを照らしていたらしい。

 そしてわたしのいる廊下側からの電灯で、その人間の顔は良く見えた。


「…………誰?」

「こっちのセリフです!人の家に勝手に入ってきて何してるんですか!!」


 お互い睨み合って静かな時間が流れた。

 わたしの目の前には、なんていうか……はっきり言って薄汚い格好のちょっとイケメンが四つん這いでこっちを見上げている形だ。

 ここで先手を打って叩き出すべきか、と腕を引き箒を振りあげようとした。


「……あっ、菜摘ちゃん!?」

「あ゛ん?」


 見知らぬ人間に名前を呼ばれて、思わずドスを効かせた声が出てしまった。

 けれど目の前のちょっとイケメンは目に見えてぱああっと顔を輝かせて立ち上がり、両手を拡げて近付いてきた。


「うわー、大きくなったね菜摘ちゃん!いーちゃんだよー!!」

「え?……ぁぎゃあああ!!」


 いーちゃんだよー、と言った不審者は何を思ったのか、満面の笑みでわたしに向かって駆け出してきた。

『いーちゃん』という単語に聞き覚えはあれど、見知らぬ男が飛びかかろうとしてきたのでパニックを起こし、女としてはあるまじき悲鳴を上げながら思わずその顔面に箒を叩きつけたのは不可抗力である。

 ……だよね?


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