飛べない鳥でも鳥は鳥
「まさか、あんたまで離反するとはなぁ。メイスン大司教殿」
「離反とは心外ですね、わたくしは猊下に従っていた事など唯の一時も御座いませんよ」
腰下まである銀髪を揺らし盲た目で正確に賢王の首元へと黄金で作られ宝玉に飾られた錫杖を指し示す。
「我等が敬愛する神々を愚弄する王になど、いったい何の価値があると云うのでしょうか?」
「なぁ、メイスン。神が居なくて絶望するのと、神に見棄てられて救われないのと、どちらがより辛いと思うか?」
「詭弁です、神は在られます。そしてそれがわたくしの正義です」
大聖堂に司教の乾いた笑いが反響して行けば、それをかき消す多くの足音が鳴り渡り賢王を取り囲んで止まった。
「よくも大事な跡取り孫息子を誑かしてくれたな」
「バディスト。オレじゃねぇって、誑かしたのはアンリだ」
近衛兵の一糸乱れぬ統率に僅かも眉を動かさず、泰然として向かい合う。
「どちらにしろ変わらん、市民活動家共と何やら企ててると思えば貴族階級に刃向かうとは血迷ったとしか言いようも無い」
「先見の明があって良いじゃねぇか。目端の利く奴等は荒れてきた王都から出てさっさとてめぇの領地引っ込んじまって黙りだぜ」
「はっ宰相である筆頭高位貴族の私が政務投げて逃げるのか?」
「議会がもう機能してねぇんだ、終わりだろ」
「王さえ居れば如何とでもなる、此れまでと変わらん」
「この国にもうオレは必要じゃないさ、害悪にしかならねぇよ」
真っ直ぐに見つめる両眼には何の光も見当たらずその虚ろさに怯懦する。
「頼む解体させてくれ、もうお前もわかっているんだろう?」
「勝ち逃げするのかレナード、私を見棄てるのか?」
「バディスト、この腐り切った終焉の生け贄がいる。オレが適任なんだよ」
「それで終われるように、貴方が仕組んだんだろうが!!」
老獪な策士が読み負けた口惜しさよりも、唯一を喪失する恐怖に叫ぶ。
「私を、置いていくのか?」
ーー神などいない、けれどもあなたが其処にいた。爛れ墜ち腐敗する世界でただあなたの背中だけ見つめて追いかけた。
「疲れたんだ、眠らせてくれ」




