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真実の愛よ何処へ

 

「ほーん、んで?」


 薄暗い森の外れ、歩き通しで疲れぼんやりと寝っ転がって居れば、


 ーーあ、ちょっとパンツ見えそう惜しいっ、もうちょいこっち来いっ


 不埒な思いと、どうしようもない愛しさが湧き上がり、常時、顰めっ面で固まっていた顔を解けるように笑みこぼす。

 そんな男を塵芥を眺める如く無関心な表情で、いつか過ぎ去った遠い記憶と少しも違わぬ姿で問いかける。


「だから、名乗ったであろうが、我が眼前に立つ者、一切の望みを捨てよと」

「ああ、だから聞いてる」

「それで何故貴様はそんな態度をとれるのだ⁉︎畏れ!敬え!何をニヤついて居るのだ!」

「いや〜可愛いなぁって」

「謀りおって聞いてないなっ!おのれ灰燼に」


 これ以上は不可能な程の蔑んだ視線を浴びせながらも、いにしえの詩を艶めく薄い唇から紡ぎだせば、その白く美しい両手へと小宇宙の残光が閃き始める。


「あーちょっと待った!相変わらず気が短いなぁ。横んなってるんだから、希望持って良いだろ?」

「?」

「だから、眼前に立つ者、だろ?」

「むーっちょこざいなぁっ灰燼にーっ」

「わーっ待った待った、すまんかったホープレスっ、久しぶり過ぎて照れちまったんだよ」

「?知り合いか?あいにく、貴様の様な間抜け面はとんと覚えが無いぞ」

「ひどいなぁ忘れちゃったのかよ?」


 軽薄な態度からは予測つかないほどの寂寥な笑みを見せた男に、胸の奥底大切に閉まっていた、甘い記憶が蘇る。


「ーーレナード?まさかレナードなの?」


 あれから20年は過ぎた、少年から青年へと、背丈も手脚もそして優しかったあの声までも、最早別人としか思えない変貌を遂げて、在りし日の面影は瞳の底に燃える炎だけ、懐かしさよりは戸惑いが拭えなままに立ち竦む。



「何事ゾ。真っ昼間からゲヘナの門でも開く気か?」

「ケロケロ、なんとも美味そうな人間の匂いだ」


 唯一無二の、最古の大魔法の残響を嗅ぎつけ、天空より黒く巨大な痩躯を翻した狼がその背に虹色に輝くカエルを乗せ顕れれば、カエルは青年を見て驚き近くへと跳ね飛んだ。


「小僧!小僧だろう、久しぶりじゃなー、吾輩じゃあ」


 思わぬ再会に喜び勇んでカエルが男の頭上を舞う。


「これはこれは、ロキ殿お久しぶりです。また、井戸に嵌ったり馬に齧られたりしてはいませんか?」

「ワハハ、その節には世話になった。レナード殿は息災か?」

「はい、大方の問題が片付きましたんで、此処にお迎えに参りました」

「ほう、良きかな良きかな」

「む、迎えに来たとは?」

「ホープレス、貴女はどうだか知らないが、オレは片時も貴女を忘れたコトなどなかったよ」


 男はそう言うと、ヘラリと笑った顔を引き締め、魔女の前に居住まいを正し礼を執る。そして最愛の者を捕らえようとする熱量に圧倒され押し黙れば、下から凝視する碧玉の瞳に追い詰められて、呼吸さえもし難い。


「何?ほっとかれたから怒ってんの?」

「ーーっ」

「突然会えなくなったのは、王宮に住んでた後継者共が争いで死に絶えて。市井でのんびり暮らしてたオレに白羽の矢が立ったからだ」

「ーーわかってる」

「王位に祀られりゃ、気軽に森へ出る訳にもいかねぇ。しかも権力闘争のど真ん中だ」

「わかってる!」

「いいや、ちっともわかっちゃいねぇよ。ホープレス、どれほど君に会いたかったか、血と狂気に塗り潰される日々の中それでも正気で要られたのは、いつか必ず君を傍に連れて行くと決めてたからだ」


 積年の悲願に感極まり打ち震えながらも、果てしない理と力を持つ美しく小さな魔女に手を伸ばす。


「やっと会えた、もう離さない。だからこの手を取ってくれ」

「ーー貴公が会いに来れなくなったことは知っている。だがどうして、どうして今さら妾が必要なのだ。初めから妾の、魔女の力を使えば総て簡単に終わった筈じゃ」


 苦渋に満ちた彼女の言葉に驚き愕然として目を見張る。


「違う!そうじゃない、ホープレス!」

「すべて遅過ぎたであろうよ」


 そう言い捨て、跳ねるカエルをむんずと掴むとひらりと大狼の背に跨りひとっ飛びで暗闇森の最奥へと掻き消えた。



 ーー差し出された手の平は重ねるには大き過ぎる、強く大人になった壮麗たるその姿、それに引き換え出会った時と違わぬ自分が哀しくて、どうしてもその手を繋ぐことが叶わなかった。






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