断頭台から殺しのロマンス
民衆も軍人も聖職者も、誰も彼もが集まって犇めき殺到して居るにも関わらず、辺り一面には尋常で無い静寂が支配している。
裁判人が罪状を読み上げて、断罪人の到着を固唾を飲んで衆目は一致する。
断罪人?賢王ゲイリー・レナード・カングランテが?
罪状?彼が己れの生涯を賭けて建国した総てが?
処刑場の重き扉が引き上がり、確かな足取りで現れた姿は、常にこの国を率いた賢王に相違ないが、唯その眼孔は虚ろに総てを棄て去り、況んや何の感情も映してはいなかった。
芝居のト書きを思わせる風情で王は処刑台へと上がり跪く、黒頭巾の執行人はひとつも躊躇わず鈍く光る刃を吊るすロープを叩き切った。
断頭台から墜ちるは、最上にして孤高の魂。それに救われたモノは数知れず、それに赦されたるはこの世界の不条理。
定刻を告げる大聖堂の鐘の音、それに紛れてただひとつ、アンリ・トゥールーズの号哭が響けば、王都を覆う結界の砕けて割れる残響が走る。
畏怖と恐慌がその場に満ちて弾ければ、人々の脳髄に等しく氷塊じみた音が撃ち込まれ動きを止める。
ーーキレイはキタナイ、キタナイはキレイ
「寄越しなさい、その首を」
中空から寄り集まる霧が静かに少女を形取る。
「その首を妾に」
血の一雫も溢れずに断頭台から転げた首は、フワリと浮いて古く美しい白い少女の腕へと収まると、ひとたび確かに抱きしめて穏やかなその首を高く掲げれば、固く閉じた何も語らない唇にそっと優しく口付けた。
「愚かな、愚かな人」
そう呟く声は鎮まり帰った処刑場に酷く滲み落ちて、終わりのない悪夢に人々は呼吸を留めて立ち尽くす。
ーー誰が、何を、間違えた?
魔女の怒りが大地を焦がす。
次回、最終回




