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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サトウとアメとドーナツ

作者: 志成乃

「おー、よくやったよくやった。そんな君にはアメちゃんからアメちゃんをあげよう!」



***


「っ!」



パチリ。目が覚めた。


一番最初に目に入ったのは白だった。白……?ここは何処?


体を起こそうとすれば、体が痛い。なんだか痺れている感じがする。疲れている感じがする。頭が、痛い。



「かのこ……?かのこっ!」

「お、母さん……?」



脱力した体で、頑張って視線を横にすれば母が私を見つめていた。泣きそうな顔だ。それと同時に疲れ切っている顔だ。まるで、寝ずに看病をしていた人の様、な……。


は、と私は気付いた。ここはもしかして、病院……?



「まだ起きちゃダメ。ナースコール ナースコール……」

「お、母さん……」

「無事で良かったわ、かのこ……」

「ここ、病院……?」

「そうよ……」



なんで、私は病院にいるんだろう。訳も分からず、私は白い天井を見上げた。私が病院に来たのは何で?……覚えてない。最後に私の名前を呼んだのは誰だったんだろう。かのこ、と呼んだのは?叫んだのは?


医者の話をおぼろげに聞きながら目を閉じる。


……大切な誰かを、忘れている気がするのだ。私は、その人に何か伝えたかった気がするのだ。



***



数日経って、私は退院した。事故だったらしい。包帯を巻いていたりガーゼを付けたりはしていたが、それほど重症でもないらしい。頭を強く打ったと言われた。だから頭が痛かったんだと納得する。


普段通りに学校に行ってもいいよと言われ、血で汚れてしまった制服は新しく買った。新しく買わせてしまってごめんなさい。そう言えば母は、かのこが無事だったからいいのよ……と、眉間に皺を寄せて片づけをしていた。制服のポケットに入れていた生徒手帳やらの小物は無事だったらしい。右側のポケットには飴が入っていた。こんなの、買ったっけ。まぁいいかと新しい制服のポケットに突っ込んだ。


学校に着けば、クラスメートから大丈夫かと声を掛けられた。



「うん、大丈夫大丈夫」



私はこの言葉を繰り返した。


何かを忘れている。その胸のわだかまりは、誰にも言えずに残しておいた。現場には事故を起こした人以外いなかったらしい。伝えたい言葉。思い出せない人物。クラスメートに聞いても意味がないと思ったから……。




入院していた内に進んだ授業に付いていくのは大変だった。休憩しようとして涼しい廊下に出た。ふと窓を見れば晴れている。雲が少しあるけれど、太陽の光がやや寒い廊下には温かくて丁度いい。ポケットから昨日入れておいた飴を取り出した。"塩アメ"と書かれた飴。フルーツ系のアメを好む私が買わないような飴。美味しいのだろうか。ちょっとした好奇心でアメを口の中に入れた。


ツツー。私の目から涙が伝う。びっくりして一人でパニックになった。流れてきた涙が私の口の中に入る。口の中にある塩アメよりもしょっぱくて、変な気持ちになった。



「なんで、私、泣いてるの……」



呟いても私の小さな声は、周りの話し声に掻き消されて誰も反応しない。泣いてることがバレないように、新しく用意したハンカチで顔を覆う。 じわりとハンカチに涙が滲んだ。




すると、トイレから出てきた数人の女子グループの声が聞こえてきた、周りは煩いクセに、何故かこの女子グループの会話が私の耳に入り込んで。



「1組のかのこちゃん、戻ってきたんだってね」

「うん。まだガーゼとか貼られてて痛々しいけど、元気っぽい」

「……元気そうなら、いいんだけどさ」

「ね、ねぇ、やっぱりアメちゃんって……」

「アメちゃん?」

「ほら、3組の塩谷 あめりちゃん。かのこちゃんとよくつるんでたじゃん」

「……うん。亡くなったって聞いた」

「かのこちゃん庇ったらしいよ。それで……」



ぼろり、ぼろぼろり。涙が止まらない。溢れてくる。搾れるかもしれないほどにハンカチは濡れてしまった。



私は思い出した、大切な彼女のことを。



私は、彼女のことが好きだった。




勇気を出して、"好き"と言いたかったんだ。でも恥ずかしさとか、それを言われた彼女のことを想えば迷惑じゃないかと思って、せっかく彼女と二人きりで帰ることが出来たのに、口を開いただけで終わってしまった。何でもないって走り去った私の表情は変だったんだろうな。


もし言ったとしても、彼女の顔を見れなかった。困惑した彼女の顔が怖くて見れなかった。


塩味のアメは、あめりが好きだったアメだった。私の苗字と同じアメ!だなんて笑いながらよく食べていた。……あめりが好きな、塩味のアメ。口の中でアメが溶けていく。



……ねぇ、このアメ、しょっぱいよ、あめり。



「あめりちゃんがさ、私に言ってきたんだけど……」

「え、何?」

「あめりちゃん、かのこちゃんの事好きだったらしい。LikeじゃなくてLoveの意味で」

「……え?」

「……マジか、ゆ、百合か……」

「そう考えると、本当に複雑ね……かわいそう……」

「好きな人守れて、アメちゃん、幸せだったのかな……」




ぽっかり抜けてしまった、あめり の存在。アメ一つじゃ、あめり の存在は補えない。



「あめり がいなきゃ、嫌だよ……」



アメ一つじゃ、ドーナルホールは埋まらない。アメを持った“彼女”がいないと、意味がない。



「……好き、だよ」




どうして、たった二文字の言葉を伝えるのに、勇気がほしいんだろう。

伝えていたら、変わっていたのかもしれないのに。



ごめんなさい、ごめんなさい、あめり。


あめり のことが、好きです。


いつも大丈夫大丈夫と、笑って励ましてくれた貴女が、大好きです。



届かない言葉を今、言ってしまったことを、あの時に言えなかった私を、勇気が持てなかった私を。


あめりを死なせてしまった私を、許さないでください。






晴れていた空は、だんだんと雲に覆われて……雨が降ろうとしていた。


いろいろ突込み所満載だと思いますが、雰囲気で感じ取って貰えればと……(顔を覆いながら)

塩谷あめりちゃん、佐藤かのこちゃん、二人の登場人物は調味料と甘味の名前からとりました。塩と砂糖、アメと「鹿の子」です。最後ら辺に出てきたドーナツ、昔は敵性語だったため「砂糖天麩羅」と呼ばれていたらしいですよ。なのでわかりにくいですが、かのこちゃんに佐藤の苗字で関連付けてます。ドーナツて、熱が伝わりやすいようにわざと真ん中空けてるんですね、今回コレ書くために調べてたら漸く分かってスッキリしました。


あ、某サイトにも同じ奴載せてます。同一人物が書いたのでパクリではないです!

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