残念なイケメンですらない
やあみんな、僕は見た目も性格もイケメンな戸田聡だよ!
ちょっとそこの君、こいつ何て痛い奴なんだと今思っただろう? ノーノ―ノーノ―、僕はそんじょそこらの自称イケメンとは違うのさ! 僕が町を歩けばみんな僕の方を振り向くし、僕が何か言葉を発せば女子たちがきゃああっと声を上げる。わかるかい? 僕は完璧なイケメンなんだ。
今うらやましいと思っただろう。そう思うのは男として自然なことだ、存分に思ったら良い。はっはっは!
さて。
こんなパーフェクトイケメンな僕は、今ある女の子に恋をしている。高校のクラスのマドンナ、山崎詩織にだ。あの、腰まで届いたなめらかな黒髪、柔らかな物腰、綺麗に整った顔、全てが素晴らしい! まさにイケメンな私にお似合いだ!
というわけで、僕は今日、彼女に告白しようと思う。僕のこの溢れんばかりの想いを、彼女に伝えるのだ。そんな僕の言葉を聞いたら、彼女はどうなるか。
まず、目の前の世界が一瞬にしてバラ色に変わるだろうな。そして僕の後ろに、教会が出現する。ゴーン、ゴーン、という祝福の音。彼女の姿はいつの間にかウェディングドレスに変わって、僕が彼女をお姫様抱っこする。そして、彼女は言うのさ。
『私、あなたに一生添い遂げます』ヒューッ! たまんねぇ!
あ、これは決して、僕の妄想ではない。彼女の思考を予想したまでだ。勘違いするなよ。
さて、今彼女は教室に一人でいる。これから帰るところなのか、荷物の整理をしている。僕は、彼女が教室を出るときを待った。それが絶妙でパーフェクトなタイミングだ。
彼女が手提げかばんを手に取った。自分の席から離れる。教室のドアへと向かう。
よし、今だ!
「やあ、詩織。ちょっといいかい?」
……フッ、決まった。
この女慣れしてないけど、女の懐にスッと入るような高等技術。イケメンな私にしかできまい。彼女もサクッと恋に落ちた。完璧、完璧だ。
そのはずだった。
なのに。
彼女は、そんな僕に見向きもせず、スッと教室から立ち去った。
僕の身体をすり抜けて。
僕は、幽霊だった。
僕が幽霊だと自分で気づいたのはつい最近。町を歩いていると、みんなが僕の方を振り向く。僕が何か言葉を発せば女子たちが、いや、男女問わずきゃああっと声を上げる。
それは、僕がイケメンだからではない。
僕が半透明な身体で浮いているからだ。
何故か僕の身体は、みんな視えるらしい。僕の声も聞こえるらしい。霊感のある人、ない人関係なく、だ。たった一人を除いて。
そう、山崎詩織だ。
彼女は僕が視えない。僕の声も聞こえない。
他の人には視えているのに。
僕は、好きな人には、認識さえしてもらえない。
それはつまり。
僕の想いは、一生彼女には届かない、ということだった。
……まあ、幽霊だから、「一生」なんて言葉使うのはおかしいけどな。
でも、僕はそれでも構わない。
どういう訳で、彼女だけが僕を認識できないかは疑問だけど。
いつか、彼女が僕の存在に気づいてくれる、そう信じているから。僕の声に耳を傾け、語りかけてくれると信じているから。
確証も当然ない。けど、信じることをあきらめたくはない。
僕の彼女に対する思いは、そんなヤワなものじゃないから。
……ふう、ちょっと話が暗くなってしまったな。いや、そんなつもりはなかったのだが。
要するに、僕はいつまでも彼女にフォーリンラブ、ってことだぜ!
幽霊だから? 人間だから? そんなもの関係ない。
愛に形はない。だとすれば、幽霊と人間の恋愛もあっていいだろう?
え、それはないって? ノーノ―ノーノ―、君は固定観念に縛られている。もっと柔軟な視野で世界を見渡してみなよ。
もしかしたら、地球の地平線上で、人間と宇宙人が愛を誓っているかもよ?
なんつってな!
[あるある]書いているうちに結末が変わっていく