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第5夜 「買い替える理由」

第5夜を公開します。



20151009公開

前回までのあらすじ

 娘には接客のアドバイスするなんて偉そうに言ったけど、うっとこのスーパーには剣なんて置いてなかったよ(・_・;) だからセールストークが分からないよ(><;) 

 プライスも無いよ(>_<)

 こうなったら愛嬌と愛想で押し切っちゃえ! 

 あ、顔が見えなかったんだ、ボク・・・・・・(錯乱中)


 

 クリグが落ち着いたのは、10分ぐらいしてからだった。

 まあ、そりゃあ、どう見ても「透明人間現る!」にしか見えない現象が起こっているのだ。仕方ないと言えば仕方ない。チイたちには見えているから、他人にも見えると思っていた。

 そう言えば、見えていない相手に対する対処法なんて、ボクの人生で考えた事も無い。

 うーん、どうしよう・・・

 結局、せめて頷いたり首を振ったりくらいは分かる様に、地球と同じくこちらの世界にも有るスカーフを頭に巻く事にした。化粧をするという案も出たが、却って怖そうなので諦めた。怖いよね?

 当然だけど、ボクの人生でスカーフなど使った事は無い。

 チイに頼んだら、嬉しそうに巻いてくれた。

 うん、根っからの世話好きなだ。こんな良い子が自分の娘だなんて、果報者だね、チリさん。死んでるけど。

 ボクの声はクリグには届かないので、チイに伝えて貰う。


『ボクがチリさんだと最初に証明しておくよ。リスカ』


 チイが怪訝な顔をしながら伝えた瞬間にクリグの顔色が変わった。


「わ、分かった! それ以上は言わないでくれ!」


 やっぱり、奥さんのエスミラには内緒にしていたんだ・・・

 まあ、実際は何も無かったけど、一時は彼が熱を上げていた女の子の名前は効果絶大だった。


『で、今日は何の用で来たの? 剣の修繕? 研ぎ直し?』

「今使っている剣ももうちょいで限界だし、金も貯まったので新調しようかと思ってね。それにそろそろだしね」

『そろそろ? ま、いいか。ちょっと剣を貸して』


 クリグの剣をじっと見てみる。確かに刃こぼれした跡に合わせて研ぎ直したせいか、何カ所か刃先に微妙にデコボコが出来ている。その剣を旦那のケトに預けて見て貰う。


「自分で研いだんだろ? 確かに、薄くなり過ぎている所も有る。もってもあと数回の討伐くらいだろう」


 クリグは自己流で剣の腕を磨いたので、少々無理に剣を叩き付ける癖が有る。

 まあ、絶対にいけないという訳では無いが、剣に負担が掛かるので寿命が短くなるのは当然だった。

 少し考えたボクは、先ほど試しに振った両刃の両手剣を壁から外して、クリグに渡した。


『ちょっと、剣を振って貰えないかい? もし良かったら、ボクが見繕って上げるよ?』

「そりゃあ、チリネェに見繕って貰えると有り難いけど・・・」


 彼が自分なりの型に沿って剣を振るうのを見ながら、いくつか気付いた事を記憶する。

 彼の剣筋を確認しながら、ケトにこっちの世界での墨を持って来てもらう。

 今のボクはチリさんの記憶と比較して、気付く事が増えている気がする。

 多分、ボクと云う異分子が入る事でものの見方が増えた事が原因だろう。

 一通り、型が終わったところで、彼から剣を返して貰う。

 ボクはその剣に、刀身から刀身に1本の線を入れる。そしてその先に5㌢ほどの丸を書きこんだ。


『その線が、この剣の重心で、丸を書いたところが一番効率よく力が加わる所だよ。それを感じるかどうか、もう一度振ってみて』


 効果は大きかった。

 慣れていない筈の剣なのに、先ほどよりも明らかに滑らかになっている。

 クリグも気付いたのか、感心したような顔になった。


「なるほど、こりゃ、いいや。うん、この剣でいいかも」


 ここで剣を売っても良かったが、ここで終わる訳には行かない。

 何故ならば、クリグの本当の希望にこの剣が合致しているのかが分からないからだ。


『確認したいんだが、今は何級なんだい?』


 ボクたち『民衛士』には10の級が有る(チリさんが死んだのでボクには資格は無くなっているけど)。

 10級から上がって行くのだけど、7級までは平均で3年くらい掛かる。

 6級から5級へは平均で2年。5級から4級へは平均で3年。3級になれる人間は4級の内の1割くらいといきなり狭き門になる。

 ボクは3級で引退したが、3年前の彼は5級になりたてだった。


「チリネェが生きていた頃から1級上がって4級だよ」

『ほう、それはおめでとう。 で、今は中型の害獣を主に狩っているのかい?』

「そうだよ。まあ、たまに大型の害獣討伐にも参加しているよ」


 大型の害獣か・・・ 地球で言うとグリズリークラスの体格をしているのが普通だ。

 そして、この世界の害獣は地球では生態系の頂点に当たるグリズリーよりも厄介だった。

 数種の大型の害獣が居るが、グリズリーよりも知恵が回るし、全ての種で複眼を持っているので視覚における死角が少ない。

 当然だが、大型の害獣の討伐の報酬は大きい。

 だが、討伐に参加する資格も厳しい。

 彼は言葉を続けた。


「それに、もう準備が始まっているけど、『ネピロ・ウガンシス』討伐に参加するんだ」


 思わず、言葉が出た。ホニも猫耳が動いた。


『な?! 止めておけ!』


 ただでさえ災獣は厄介極まりないのに、『ネピロ・ウガンシス』は別格だ。


 ドワーフ人やエルフ人、それに獣人族とヒト族を合わせた人間の生肉を食べた害獣は一気に個体だけで進化をしてしまう。

 中型の害獣でさえ、進化をしてしまうと大型の害獣よりも遥かに厄介な相手になる。

 まさしく災害級の被害をもたらすのが災獣だ。

 大型の害獣がもし進化してしまったら?

 それこそ大災害をもたらす・・・・・・

 過去に何度か発生しているが、その度に百人単位の犠牲を強いられながら討伐をしていた。

 そして、2度の討伐を逃げ延びた災獣こそが、『ネピロ・ウガンシス』だった。

 人生で最高の状態の今のボクでさえ、生き残れるかも? という希望が出るだけの化け物だ。


「今回はさすがに民衛士だけでなく、『国衛官』も投入する予定だよ。チトさんとチリさんの仇を討つ最後のチャンスなんだ」


 ボクの頭に浮かんだ言葉は一言だった。


『マジか?』

 


如何でしたでしょうか?


 今後、異世界の様相が次第に明らかになって行きます。

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