第4夜 「他人に見えるモノ」
第4夜を公開します。
20151005公開
前回までのあらすじ
輪廻転生って言葉は知っているけど、ボク、まだ生きてるよね?
明日も仕事の筈だけど、店に行ったら花とか飾られてないよね?
取敢えず、母性本能と父性本能の違いを感じてみようか?(意味不明)
うーん、今分かった事は、借りているチリさんの身体がどうやら二十歳過ぎくらいの頃に若返っている事と、『民衛士』を引退する頃の技術的練度を持っている事だ。
チリさんはチイを産んで1年後には現場復帰して更に技術を磨いていた。結局は次女のチハを妊娠した時に現役を退いたので、29歳の頃が技術的なピークになっている。
身体的なピークと技術的なピークを兼ね備えた状態が今だった。
「生きている頃にはぼんやりとしか分からなかった振った時の重心が分かるね。昔は指くらいの帯でしか分からなかったのに、今振ったら髪の毛1本くらいで分かるよ」
旦那のケトが頷いて答えてくれた。
「確かに最後の1太刀は鋭かったな」
「ああ、生きてる時にこの境地になってれば、死ななくても良かったかも?」
「気を落とすなと言うのも変だな」
「確かに・・・」
ふと、ボクは聞きそびれていた事を思い出した。
「そうそう、お客様が来ないけど、繁盛してないの?」
この言葉は家族全員のHPを下げた様だった。
まあ、マンガじゃないのでスカウターみたいに数値が分かる訳ではないけど、明らかに空気が重くなった。
「チリが生きている頃よりは落ちた。ギリギリ食べて行けるくらいには売れるけど、チリの貯金から時々借りないと厳しいな」
「うーん、そんな気がしていたよ。壁の剣も売れ残っている分が有るからね」
ボクは型の確認に使った両手剣を壁に戻しながら言った。
現在の主流はドワーフ人が造る幅広肉厚の剣だった。
金属鎧を装備する『国衛官』は打撃力に劣る細身の剣を避けるし、大型の害獣を相手にする事も有り得る『民衛士』も同じ理由で幅広肉厚の剣を好む。
ヒト族にそのタイプの剣を造るノウハウは無い。
いや、造れなくはないのだが、強度の面で大きく劣るのだ。
それに、ケトが造る剣はボクの為に造る面も有り、細身の剣が多かった。
「そういえば、お店は誰が見てるの? ケト?」
「まあ午前中は俺が見るけど、午後からはチイに任している」
「あ、そうなんだ」
「でも、私、上手く説明出来なくて・・・」
「そりゃそうだ。剣の良し悪しが分からないのに説明しろって言うのは無茶だよ」
この異世界の国は15歳で成人するまでは無料の義務教育を受けられる。
もっとも、子供も労働力として勘定する家庭が多い為、午前の3時間で授業は終わってしまう。
まあ、日本で育ったボクからすれば教育としては不十分なのだが、他国には元々義務教育という制度自体が無い。この国はまだ教育熱心な方だった。
「そうだ、良かったら接客の仕方を教えようか? ボクの仕事は接客が出来て当たり前だから、色々とアドバイスが出来ると思う」
「え、本当? お母さんに教えてもらえるなら、私にも売れる様になるかも」
その時、店の入り口から誰かが入って来た気配がした。
目をやると、『民衛士』だった頃の元同僚のクリグだった。チリさんの記憶と同じ革の鎧を着ていた。
まあ、器用貧乏なタイプで色々と重宝はしていたが、剣の腕はヒト族としては、まあ、並みだった。
そのクリグがボクたちの方を見た後、目を丸くした。
40年の人生で初めて見た気がする。「ハトが豆鉄砲を食らったような顔」と言う奴を。
「服だけが立ってる!」
失敬なヤツだな・・・・
?
もしかして・・・・
ボクが見えてない?
「おい、クリグ、ボクだよ」
ボクの予想通り、彼にはボクの声は聞こえなかった様だ。
ボクの問い掛けを無視して、ケトに声を掛けた。
「ケトさん、その服って、もしかして?」
「うーん、なんて説明すりゃいいんだ?」
うん、ケト、君には無理だ。元夫婦のチリさんの記憶から断言出来る。
仕方ないので、チイに声を掛けた。
「チイ、店の奥の椅子に彼を座らせてもらえるかい?」
「うん、分かった、お母さん」
目を丸くしたままのクリグを子供たちが3人掛かりで店の奥に在る椅子の方に押し込んだ。
彼の視線はボク(正確には浮いている様に見える服)に向いたままだった。
ワザと動かないでいたが、椅子に座る瞬間に動いて見せた。
クリグは重力を感じさせない動きで飛び上った・・・・・
如何でしたか?
うん、クリグ、ビックリさせてごめんよ(-。-)y-゜゜゜