第3夜 「再びの異世界」
第3夜を公開します。
20151001公開
【20151009終盤の描写修正】
前回までのあらすじ
人間40歳を超えると鈍感になるものだ
転生も転性も気が付けば受け入れていたよ、ボク・・・
取敢えず、今は劇場版が楽しみなんだ(現実逃避^^;)
その日、ボクは幸福な気分で朝を迎えた。
仕事の日も、休みの日も同じ時間に鳴る様にセットしてあるiPhone6のアラームがボクを眠りから現実世界に戻してくれる。
あれ、なんで幸せな気分なんだろう?
いい夢を見た様な気もするが、こういう時には多少は夢の内容を覚えている筈だけど、全く思い出せない。
気を取り直して、時計を見た。午前6時12分。
シルバーウィーク中は6連勤をしたので、さすがに疲れが残っている。
でも、やっと久しぶりの休みだ。
ブルーレイレコーダーの電源を入れて、録り溜まっているアニメで1番気になっている「オーバ●ロード」の12話を選択。
うーん、最終回が気になる引きだ・・・
その後、他のアニメを観た後で食事に取り掛かった。
鍋に多めの水を入れて火に掛ける。冷蔵庫からプリマハム製のソーセージ『香燻』、ゴボウ巻き、焼き豚の切り落としと白ネギを取り出して、白ネギを斜めにカットする。小さな泡が鍋の底に出て来たら弱火にして『香燻』と白ネギの半分と農心製の『辛ラーメン』を投入。麺がほぐれる間に残した白ネギをみじん切りにする。ちょっと麺をほぐした後、適量になる様にお湯を捨てて、AJINOMOTO製の『香味ペースト』を2㌢ほど投入、さっとかき混ぜた後で付属のかやくと調味料とゴボウ巻きと焼き豚の切り落としを投入。
ここでソーセージを取り出して、大き目の丼に移してしまう。あまり高温で茹でると皮が硬くなるからだ。強火にして溶き卵を投入して麺の茹で上がりと卵の火の通り具合を見る。
うん、こんなものだろう。一気に丼に移してみじん切りのネギをトッピングしてダイニングのテーブルに運ぶ。
ダイニング用のテレビを点けて、丼にこれでもか!と言うくらいに一味を投入して一口食べる。
美味い・・・・・
このラーメンを食べると、やっと休みなんだと実感する。
麺が無くなるとご飯を投入して、最後の一滴一粒まで食べ尽くした。
ふう、満腹、満足・・・
その後、仏壇のご飯とお茶を替えて上げて、軽く手を合わせた。自炊する理由が妻の為にご飯をお供えする為なのだ。これは3年間欠かした事の無い毎朝の行事だった。
パソコンを立ち上げ、ブログを更新する頃には、9時を過ぎていた。
今日は特に出掛ける用事が無いので、ネットサーフィン三昧だ。
あ、ヤバい、洗濯物を洗うのを忘れていた。まあ、少々遅くなっても一人暮らしの味方の乾燥機能付きなので問題は無いけど、ズボンを含めて洗濯機に放り込む。
正午ピッタリに罪悪感を感じながらも、冷蔵庫からビールを取り出した。
2時間もしない内に4本呑んだ頃に眠気が襲って来る。
昼寝も休みの日の醍醐味だなと思っていたら、スッと落下感がした・・・・・
「お父さん! お母さんが帰って来たよ!」
あれ、どこかでこの状況を体験した様な気がする・・・・・
目の前に宝石のエメラルド以上に綺麗な緑色の瞳をした少女が現れた。
「服を用意するね!」
そう言って、中学生くらいの少女、名前はチイ、そしてボクの娘が奥のドアに向かった。
入れ替わりにボクの旦那のケトが現れた。
微かに2人分の足音が聞こえる。次女のチハと甥っ子のホニだ。そんなに慌てると転ぶよ?
2人が姿を現す頃には、ボクの顔は笑顔に染まっていた。
「お母さん! また来てくれたんだ!」
そう言いながら、前回同様に2人とも抱き付いて来た。
「うん、また会えて嬉しいよ。いい子にしていたかい?」
2人とも笑顔で頷いた。
「ちゃんとお母さんの言う通り、誰にも言っていないから! だって、言ったらもう帰って来てくれないのでしょ?」
そう、前回の時に家族全員の秘密にしておいた。
誰も得しないからだ。
死んでしまった者が、再び家族の許に現れる現象として『再逢の奇跡』が知られている。
もっとも、チリさんの記憶では霊体の様な形で現れるらしく、手で触れる事も言葉を交わす事も出来ない様だ。
ボクの様に、触れるは、話せるは、ご飯まで食べるは、っていうのはこれまで無かった現象らしい。
「偉いな、チハは」
前回の時に感じられた他人の様な感覚はほとんど無くなっていた。
そりゃあ、慕ってくれているのが分かる程話し掛けられれば、親近感も湧く。
ましてや、ボクは店のみんなから子供好きと云う評判を取る程、子供の相手が得意なのだ。
こんなに純真な子供たちを好きになるのに何の問題は無い。
ちょっと無口な性格のホニも目元が下がっている。
猫耳を中心に頭を撫でると気持ち良さそうに目をつぶった。
「あ、私も撫でて!」
そう言ったチハの頭も撫でて上げる。
チイが持って来てくれた下着と服を着たけど、前回の時には感じなかった違和感に気付いた。
死んだ時よりも若い気がする。
スタイル自体は出産後も鍛錬を続けていたので崩れなかったけど、肌のつやが違う。
「ケトさん、ボクの今の姿は何歳頃のチリさんに見える?」
「うーん、十分若く見えるけど?」
うん、この旦那は女心が分かっている様に見えるが頼りない・・・
「チイはどう?」
「20歳の中間くらいかな? 私の記憶よりも若いよ」
「なるほど。ちょっと、剣を借りるよ」
ボクは壁に掛けてあった両手剣を手にして店の真ん中で構えた。
この店は武器屋だ。
そして、どちらかというと流行っていない。
旦那のケトさんが人間の鍛冶師だからだ。
現在主流の重量が有る幅広肉厚の剣はドワーフ人の鍛冶師が得意としている。
対するヒト族の鍛冶師は軽量な剣に偏っている。少々主流からずれている為に購入する層が少ないのだ。
みんなが危険な距離に居ない事を確認して、ゆっくりと剣を振るう。
身体が覚えているので、何通りかの型をなぞって行く。
呼吸を整えて、今度は緩急を付けて型をなぞる。
次は、力を込めて型をなぞった。
うん、技の冴えと云うか技術は全盛期の頃と変らない。
そして、身体の反応は二十歳頃の敏感なものだった。
その二つが重なったのか、剣の重心すら分かる。
今度は、その重心を心に留めながら、剣を振るう。
綺麗に振り抜けた。
その事に気付いたのか、ケトさんが目を丸くしていた。
「もしかして、今が人生で一番強いかも知れないね、ボクは」
でも、皮肉な事に、ボクの人生は終わっていた・・・・・・
如何でしたでしょうか?
それと、ブックマーク並びに評価を頂いた方に感謝を申し上げます m(_ _)m
たった2話で評価を頂けるなんて・・・・