悪夢を呼ぶ
眠りたくないんだ。どんなに眠たくなっても、決まって同じ夢を、悪夢を見るから。
夢の中で俺は別の家庭の中にいる。別の世界の中にいる。
妻と娘のいる別の家庭。ベッドから目覚めて始まる悪夢。
夢では35歳の俺が西暦2035年に生きている。現実も35歳、まだ2001年だが。
想像もつかないような、そう、空飛ぶ車なんてものはそこらじゅうにある。
人間はみんな頭になにかつけている。俺の頭にだってついてる。
この世界の俺の家庭は最悪だ。悪夢の家庭だ。夢の妻はヒステリックに泣き叫び、息子は暴力に訴える。
親の顔が見てみたいね、まったく。仕事だってそうだ。
現実じゃあ考えられないような最悪な環境。だれもがオイルまみれの工場作業員。
毎日遅くまで働いて、国からの配給しかもらえない。
現実で、いくらでもくたくたになってるのにこれだよ。現実の俺の仕事は・・・
あーもう、夢の世界で現実のことを思い出そうとするといつもこうだ。
なんだかモヤがかかったようになって、ぐるぐる回って思い出せない。
でも幸せなんだ。現実のほうが抜群に幸せだ。
こんな腐った夢見たくない。この連続した悪夢にはうんざりだ。
今日も夢の妻が叫んでいる。どうしてあんたはこうなの!だってさ。
こんな生活うんざり!こっちだってそうさ。
あんたなんか眠ったまま死んじまえばいいのよ!それも、こっちのセリフだよ。
関係ないだろお前になんか。どうせ目が覚めたらオサラバなんだし。
今日こそは今日こそは今日こそはって思っても、いつの間にか眠っちまってこのザマ。
早く現実に戻りたくてベッドに潜り込んでも、そう簡単に戻れやしない。
妻に叫ばれ息子に殴られ、ちっとも疲れは取れないし。気が狂ってしまいそうだ。
明日こそ明日こそ明日こそ。明日同じ夢を見たら・・・
こいつらみんな、殺してやろう。
そう決めてたんだ。俺はいつもの場所にかけられたファイアアックスを手にとって・・・
トマトのように、妻の頭をかち割ってやった!息子も同じだ!
散々俺に苦労かけやがって!このこのこのこの!
全部ぶち壊しだ!もうこの夢を見ることもねえ!こんな腐った世界とはさよならだ!
そう思って俺は現実に戻った。
でも、そうはいかなかった。
次の日も同じだった。同じ夢だった。
ただひとつ、いつもと違ったのは・・・