3 デート倶楽部
待ち合わせの場所にその少女はいた。夏樹の話では客相手には相手の願うとおりの人物を演じる事ができる人物らしいが、今日は素の自分で来る、らしい。
緊張したような面持ちで立っている彼女はやはり見覚えがあるような気もするが、誰なのかはさっぱりわからない。
「すずらんさん?」
「はい」
尊の声を受けて振り向いたすずらんはさっきまでの緊張したような表情を完全に消し、嬉しそうな表情を浮かべていた。だが、その表情は一瞬で凍りつく。ギョッと目を見張ったかと思うと、まじまじと尊を見てくる。やはり知り合いなのか?だが、その答えがわからない。
「すずらん、さん?」
固まったままのすずらんの顔を覗きこんだ。顔面蒼白、それが何を意味するのか尊にはわからない。
「……すみません、予想外に格好のいい人だったのでビックリしちゃったんです。……莉炎さん、ですか?」
震える声で言葉を発したすずらんの表情は決してそれだけでは無いような気もするがわらかない以上考えても意味がない。
「はい、莉炎です。よろしくお願いします」
莉炎、という偽名は契約している精霊の名から取った、らしい。最も偽名をつけたのは尊ではなく夏樹なのだが。
デートは定番の遊園地だった。遊んだ後に買い物をして、予想以上に楽しかった。何度も任務を忘れそうになってしまった。だが、収穫はあった。彼女すずらんには違和感がある。それがなんなのかわからないが、尊たちに近い気配を時折感じた。とはいえ、それが夏樹の弟と接触した事によるものである可能性はあるから今の所はなんとも言えないが。他にも何かないかと探りを入れてはみたが、何も答えてはくれなかった。客に情報垂れ流しのデート嬢も困るかもしれないが。今の尊にとってはそういううかつな人間のほうが楽なのに。
「はー、楽しかった!!」
大きなぬいぐるみを抱えて満面の笑みを浮かべているすずらんに尊は思わず噴出した。クスクスと笑みを零す。
「ぬいぐるみの方が、大きいんじゃないか?」
ぬいぐるみに顔の半分が隠れてしまっている様子が可愛くて笑いが止まらない。
「……な!!どう考えたって私の方が大きいです!!」
キッとむきになって怒鳴ってくる様子もまた可愛い。ひとしきり笑うと、尊は笑みを消し、空を見上げた。薄暗くなって来た。そろそろ終わりの時間だ。
「そろそろ時間だな」
「はい。ご利用ありがとうございます」
落ち着いた、デート嬢の口調で挨拶をするすずらんに篠原も軽く頭を下げた。
「ああ、こちらもありがとう。……それにしてもすずらんは一匹狼タイプ?」
最後の探りを入れてみると、すずらんは、ニッコリと笑みを浮かべた。
「そんなんじゃないですよ~~。ただ、次他の人を指名されたら嫌じゃないですか。ライバルの情報なんて教えませんよ」
「そんなことしないよ。君の事は気に入ったからね」
そもそも現状他の人間に関わる意味はない。
「じゃあ、篠……莉炎さん、今日はご利用ありがとうございました」
「こっちこそ、ありがとう」
最後にすずらんに頭を下げ、家に帰る道を辿っていく。その表情にさっきまでの笑みはなかった。楽しかった最後の最後ですかしっぺを喰らった気分だ。彼女は最後まで言わなかった。だが、篠原の名前を知っていた。やはり、知り合いなのだろうか?




