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Triangle World  作者: 白雪
第2章 神家の役割
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2 仕組まれた災害予備軍

以前書いた、美琴のデート嬢代理の話の、男性視点です。

物語がちょっとずつ動いてきます♪♪

「これが何の分布図かわかるか?」

 夏樹は尊の前に一枚の日本地図を置いた。大きな日本地図のいたるところに丸いシールが貼り付けられている。青と黄色と茶色。三色のシールが貼られている場所に共通点は無い。何を示すのか尊にはわからなかった。瑠衣は知っているのか、どこか苦々しい表情で地図を睨みつけている。

「夏樹様、これ、増えていませんか?」

「未だ収まっているわけでは無いからな。尊、これは精霊異常を示す分布図だ」

「は?」

「災害予備軍だ」

 災害予備軍、の言葉には別に疑問はない。日本は神家がトップに立ってからただの一度も自然災害が起きてはいない。自然災害が起きる時は必ずと言っていいほどに精霊たちが騒ぐ。その精霊の動きを感知する装置が日本各地に点在しており、その全ての情報が一条夏樹が統べる警察特殊部隊に集まってくる。その精霊達の異常が大きくなる前に精霊使いたちが精霊の異常を抑える事で自然災害を防いできた。今もその段階なのだろう……が、この分布図に示される印は余りに多い気がする。普段どのくらいの異常があるのか全く知らない尊から見ても異常な気がする。

「普段もこんなに多いのですか?」

 ゴクリ、と唾を飲み込む。

「そんなわけが無いだろう。普段はこの十分の一以下だ。それに今は何とか防げているが、災害が起きる一歩手前で、だ。例えば津波が起きかけているのを防いだり、地震も余震が起きてから防ぐという具合だ」

 尊は小さく息を呑む。普通は災害がおきる前に精霊たちが騒ぐ。だが、今回はその騒ぎがなかった、と言うことなのだろうか。

「それって……」

「ああ、誰かが人為的に起こしている可能性がある。君にはその調査に協力してもらいたい」

「もうじき学校が始まります。余り時間を裂く事は……」

「その学校の仕事優先で、放課後や休日に動いてくれればよい。瑠衣も動いてくれている。本来ならば本家の中枢の人間や特殊部隊の人間以外を動かしたりはしないのだが、今回は数が多いこともあって人手不足だ」

「私は何をすれば?」

 能力者の中でも本家から最も遠い位置にいる尊にまで声が掛かるほどの人手不足。一応神家に連なるものとして断ると言う選択肢はない。

「今から数ヶ月ほど前から行方不明者が多発している。全てが能力者だ」

 ヒュッと息を呑んだ。神家の能力者が何人も消えているという話ははじめて聞いた。もっと騒ぎになっていてもおかしくはないのに。

「神家の人間の行方不明は余りいいことではないから、隠しているんだ」

「そこで、尊に頼みたいのはここに潜入して能力者がいないかを確認してもらいたい。内部には私の弟を潜入させているから、外部から、客として接触してくれ。その上でデート嬢に話を聞いて欲しい。君なら精霊と強い繋がりのある人間を見抜く事もできるだろう?」

 デート倶楽部と書かれたパンフレットを見る尊の顔に戸惑いが浮かぶ。何故、デート倶楽部なのだろう。

「そこでアルバイトをしていた人間が二人、姿を消している」

 緊張した面持ちで告げた夏樹の顔に焦りの色が見えた。今日、ここに来てから尊が始めて見た夏樹の人間らしい表情だった。





「尊?また、見てるのか?」

 呆れたように顔を顰める瑠衣に尊が軽く写真を振った。そこには一人の少女が映っている。デート倶楽部内部で撮った写真なのだろうから、恐らく夏樹の弟が撮ったのだろう。

 映っているのは高校生くらいに見える少女だ。

「何故、この子なんだ?」

 夏樹が彼女「すずらん」と接触するようにと命じてきた意図を掴みかねていた。てっきり尊が適当に予約をするのだと思っていたのに。まるで彼女を疑っているかのように見える。

「まだ、気にしてるのか?夏樹様も大した意味はない、と言っていただろ?」

「本当に意味はないのか?そもそもなんで外から接触する必要がある?一人潜入しているのなら怪しい人間を俺に確認させればいいだけだろ?……彼女でなければならない理由があるんじゃ……」

「確かにそうかもしれないけど、俺らが気にしてもしょうがないだろ?俺らは言われた通りに動くだけだ」

「そうだけど……」

 納得できないのか、尊はしきりに首をひねっている。

「そもそも、俺、この子どこかで見た事がある気がするんだけど……」

 どこかで見た事がある。それは確かだ。だが、それが誰なのか、わからない。喉元まで出掛かっている答えがわからない、嫌な気分がする。

「知り合い、ってことか?」

「それがわからないから、気になってるんだ。ただ、見かけただけかもしれないけど……」

 尊はその日一日、写真を睨みつけていた。だが、その答えは出てこない。明日、会えばわかるのだろうか。


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