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Triangle World  作者: 白雪
第2章 神家の役割
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5 2人の少女2

「こんにちは」

 小さな包みを手にアルバイト先に顔を出した美冬を見た面々の顔がぽかん、と静止する。

「美冬ちゃん?」

「久しぶり~~。もう大丈夫なの?」

 不思議そうに首をかしげる彼らの言葉に美冬は小さく頷いた。実際には未だ体中痛みが残っているが、傷はファンデーションで隠れる程度だし、動くのに不自然な動きをしなくても大丈夫になったのだから、アルバイトくらいならできる程度まで回復した。

「あ、美冬。ちょうどよかった」

 奥から副店長が出てきて小さく笑みをこぼした。

「どうしたんですか?」

「君さ、今日仕事できる?この間の莉炎さんから連絡があって、今日君を指名したいって。休みだと言おうとしたら君が来たから。どうかな?」

 莉炎ということばに美冬は小さく目を見張る。彼は今日仕事のはずなのだが?大丈夫なのだろうか?

「今から、ですか?」

「そう、今から。どうかな?」

「わかりました。あ、でも今日は普通に普段着ですけど、こんな恰好でいいですか?」

 それは、デート中に着るようなおしゃれ着ではなく、普段着ているTシャツにジーンズというラフな格好だった。一応出かけることを意識してはいるが、デートができるほどではない。

「服は貸すよ。どうかな?」

「わかりました」

 こっくりと頷くと副店長はほっとしたような笑みをこぼし中にいるであろう店長に声をかけた。

「今日、仕事の予定じゃなかったでしょう?いいの?」

「はい、莉炎さんには少し興味もありますし、ね」

 声をかけてきた一之瀬冬夜が心配そうに顔をしかめている。こういう表情が彼に似ていると思う。絶対に手に入らない人間なのに、望んで、求めてしまう。この頃は重なることも少なくはなったが、やはり良く似ている。

「なら、いいんだけど。病み上がりなんだし、あまり無理はしないでね」

「ありがとうございます」








「すずらん」

 尊の言葉に振り向いたすずらんはあの時と同じ笑みを顔に浮かべていた。ただ、あの時よりもずっとリラックスしているように見える。

「莉炎さん。また、ご指名ありがとうございます」

 ニコニコ笑う彼女の顔がぶれる。何となく、この間のすずらんとは違う気がする。

「……君は、誰?」

 尊の問いにすずらんの顔から笑みが消える。だが、それも一瞬のことですぐに再び笑みを浮かべた。だが、その表情はリラックスしたものとは程遠い、緊張した色をはらんでいる。

「何、言ってるの?私がすずらんだよ?」

 彼女の眼を見る。嘘をついているような様子はない。だが、尊の直感が彼女は違う、と告げていた。少なくともこの間尊が関わったすずらんとは違う。もしあのすずらんが尊の想像通り宮乃原美琴であるのなら、この目の前にいるのが本物のすずらん「宮乃原美冬」なのだろう。

「すくなくともこの間俺とデートしたのは君じゃないでしょ?」

 ツイッと目を細める。学校では決してしないが、尊は仮にも神家に連なるもの。人の上に立つように育てられた人間だ。

 尊に見据えられたすずらんの表情が凍りつく。おびえたように尊を見る、その体が軽く震えているのが見て取れる。

「なんで、わかったんですか」

 ギュっと手を握り締めたすずらんがそれでもまっすぐな視線で尊を見る。強い目に尊は小さく笑った。彼女は同じ顔をしているのに、美琴とはずいぶんと雰囲気が違う。

「なんとなく、かな。初めに気がついたのは君、というよりこの間の子なんだけど、それっぽいの見つけたから」

 尊の言葉にすずらんが大きく目を見張った。

「え……あの子のことわかったんですか?でも、別人、でしょう?」

「俺が誰だかわかってる口調だね」

「篠原先生でしょ?あの子がびっくりしてたから。……言い訳ってわけじゃないけど、もともとこのアルバイトは私がしていたの。あの子はあの日のみのピンチヒッター。私が怪我、しちゃったから」

「別にあの子をどうこうしようと思っていたわけではないよ。宮乃原さんに処分を与えるつもりも、説教するつもりもない。ただ、気になっただけ」

 それは事実だった。説教をするつもりは毛頭ない。

「ほんとですか?よかった」

 ほっと安心したような表情を浮かべた彼女の気配が一瞬陰る。うっすらとした靄が現れ、すぐに消えた。それは精霊の存在に似ていて、でもどこか違う。特にその気配がすぐに消えたことが尊の眼には奇異に映った。本来精霊が契約者のそばを離れることはない。たとえそばになくても気配はともにある。気配が消えたり見えたりすることなんて、あり得ないはずだ。

「篠原さん?」

 突然黙り込んだ尊の顔を覗き込むすずらんの様子は普段と変わらないように見える。さっきの一瞬が見間違えだったのか、否か、今の尊にはわからない。


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