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神格化した元勇者(仮題)  作者: しろーと
第一章 黒歴史の始まり
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第二話 黒歴史の始まり

神様と名前が似ているという言葉と今が3642年ということが偶然と思えないぐらいに一致した。だから神様の名前を聞いたのだ。

人神シーナニーツ、シィナニィツ、シイナニイツ、椎名 新津。

偶然とは考えづらい。そしてその人神の成した所業。魔神ジルコルネ、こいつは俺が倒した魔王ジルコルネと全く同じ名前だ。どういうわけか魔王から魔神へ、人から人神へと神格化されたみたいだ。てことはあの二人(・・・・)も神格化されてるのか?と言ってもあいつらはもうくたばってるんだろうな。

考えれば考える程唸るばかりである。


(やめよう。もう考えないようにしよう。それがいい。俺は人間だ。神なんて立派なものじゃない)


半ば自分に言い聞かせるようにそう思うことにした。

兎に角、今は寝たい。神格化されていたという事実に頭を抑える。取り敢えず、俺は一度その事実を忘れて宿屋の木下の陰に入店することにした、が、俺はふとあるところに目が行った。


(ん?あの巨大な屋根の切り傷、何処かで見たような?)


屋根から屋根裏部屋にかけて、まるで巨大な剣で切られたように縦に真っ直ぐに切り傷が入っていて、部屋の中が見えるようになっている。

よく見れば、その傷はつい最近につけられたものではないことが分かる。随分と古くなっていて、崩れそうだ。何故まだ崩れていないか分からない程に。


(なんでこんなに風化するまで放置しておいたんだ?張り替えようと思えば張り替えられるのに。こんなんじゃ店の評判も落ちるんじゃ・・・ん?)


何やらその傷の下に人が集まっている。どうやら民間人みたいだが。

気になって人が集まっているところに行ってみた。どうやら人で見えなかったが、そこは店の入り口だったようだ。外まで並ぶ程この宿は人気らしい。


(評判落ちるどころか上がってる!?)


並びながら何人かはその巨大な傷を凝視して、感嘆の声をあげている。

取り敢えずどっちみちここに泊まるので、俺は最後尾に並んだ。ボーッとしてるのも暇だったから聞き耳を立てた。


「ほう、あれが噂の『神の爪痕』か」


「おっきい!すごいねお母さん!」


「こんなことが出来るのは神様くらいだな、人間ではこんな大きくて太い傷は出来ないだろう」


これは『神の爪痕』と言うのか。確かに言われてみればそう見えなくもない。


「貴方もこの『神の爪痕』を見るためにこの宿に?」


ふと、目の前にいるおじさんが話しかけてきた。ショートカットの赤色の髪の毛で、背中に弓矢を背負っている。冒険者だろうか?


「いえ、俺はオススメの宿を紹介された時に、ここだと言われてきたんですよ」


「そうですか、ふんふん。ここはいいですぞ。何せこの世界の遺産ですからな。この傷は何千年も前に出来た傷だそうで、今だに朽ちないのが不思議でなりませんよ。はっはっは!」


「そうですよね•••••って何千年前!?」


「そうですぞ。不思議でしょう?それに、この宿は神様が街を守った証があるという観光として、ここに泊まりに来る人が多いのですぞ」


また単位がおかしいことになっている。なんで朽ちないのだろうか。

神様が守った証か。あの大きな傷がか。


「学者が言うには神様の偉大な力によるもので、永遠に朽ちないとされているらしいですぞ」


え、何その神様補正。神様イコール何でも出来るってか?何ともまぁ適当な学者だな。学者というよりは信者かな?


「む、そろそろ私の順番のようですな。ではお先に失礼しますぞ。また中でお会いしましょう」


「あ、はい。また後で」


いつの間にか随分と前に進んでいたようだ。さっきまで俺が最後尾だったのにもう後ろには沢山の人が並んでいる。ここに泊まった神様は随分と人気らしい。

というかこんなに並んでて収容人数超えないのか?


「次の方どうぞー」


俺の番みたいだ。受付へと進んだ。

受付の人は女性で、綺麗な色の青髪の人だった。綺麗な人だ。歳は俺と同じくらいだろうか。その青色の髪を腰まで伸ばしている。


「ご希望は宿泊ですか?それともお食事ですか?」


「宿泊でお願いします」


受付の人がちょっと驚いた顔をした後、怪訝そうな顔をしたが、すぐに営業スマイルになった。

俺は不思議に思ったが、受付の人の表情には気づかなかったことにした。


「では一泊食事付きで銀貨10枚です」


数千年経ってもお金は変わらないんだな。俺は銀貨10枚を払った。ていうか宿ってこんなに高かったけ?まぁいいか。まだ俺の小銭入れの中には金貨がたんまりと入っている。因みに銀貨100枚で金貨一枚である。

しかし、銀貨を受け取った受付の女性はなぜかまた驚いた顔をした後、すぐに営業スマイルに表情を変えた。まぁ大体予想は付くが。


「で、ではお部屋にご案内しますね」


おい、どんだけ驚いてたんだよ。営業スマイルのまま言葉を噛むな。貧乏臭くて悪かったな。


「シフ!このお客様をご案内して」


「うん、分かった。お客様、私についてきてください」


シフと呼ばれた少女について行った。歳は11歳くらいだろうか。身長は俺の腰より少し高いくらいだ。青色の髪を背中まで伸ばしている。姉妹だろうか?

二階に上がり、暫く歩いたところでシフと呼ばれた少女がとある扉の前で止まった。


「此方がお客様のお部屋です。ごゆっくりお寛ぎ下さい。お夕飯の時間になったらお呼びいたします」


シフと呼ばれた少女がぺこりと一礼して去って行った。あの言動、随分と訓練されているな。すごく丁寧だった。

部屋を見回してみた。そこそこに広く、クローゼットやテーブルなどが置いてある。ベッドはふかふかそうだ。そうと分かれば


「とーう!」


ボフンッ!


一目散にベッドへとダイブした。やはり柔らかかった。


「あぁ〜•••••」


そのまま疲れた身体と頭痛のせいか、俺はそのまま意識を失った。











コンコンッ


「••••••んん?」


ノックの音で目を覚ました。どのくらいの間眠っていたのだろうか。俺は窓を見た。もう日は落ちかけ、夕焼けに染まっている。


(もうこんな時間か、あれから大体4時間くらい寝てたのかな)


コンコンッ


「お客様、いらっしゃいますか?お夕飯が出来ましたので、お呼びに参りました」


「あぁ、今行くよ」


扉越しの声はここまで案内してくれたシフと呼ばれた•••••めんどくさいからシフと呼ぶ。シフだった。

適当に言葉を返し、部屋にいることをアピールしてからベッドから起き上がった。


(武器だけ置いて行こうかな)


フル装備のまま倒れ込んだのでちょっと身体の節々が痛い。特に腰。前から倒れ込んだので、左腰から突き出ている二本の剣の柄に左腰だけを押し上げられていたので左側の腰がものすごく痛い。右腰にも一本剣があったが、腰から外れて床に落ちていた。きっと寝返りした時だろう。

剣をクローゼットに押し込んでから、左側の腰を左手でさすりながら扉へと向かった。


「お待ちしておりました。食堂に向かいましょう。••••••大丈夫ですか?」


「問題ない。早く行こう、腹が減った」


本当は割とガチめで痛いが、少女とはいえ、女の子の前だ。見栄を張ったっていいじゃない。


「そう仰るなら。では向かいましょう。何かあれば言ってくださいね?」


うん、これバレてるね腰痛。恥ずかしくなってきた。なるべく平静を装っておこう。

武器をクローゼットにしまってからまたシフの元へと戻った。


階段を降り、食堂へと向かう途中でお昼に会ったおじさんに会った。食堂に向かいながら話をした。


「おぉ君はお昼に会った若者ですかな?」


「また会いましたね。貴方も泊まりですか?」


「いやいや、そんな大金払えませんぞ。銀貨10枚はちと高すぎですぞ」


え、やっぱりそうなの?もしかして泊まりますって言った時に多少驚いた顔をした後に怪訝そうな顔をしたのはそれが理由なのだろうか。


「ではどうしてここに?」


「もちろん、ここのご飯を食べる為ですぞ。ここの料理は安い上に、絶品なのですぞ。神様の恩恵とも言われていますぞ。宿屋兼、食事屋なのですぞ。お昼に並んでいた人は皆こここに泊まるのではなく、料理目当てなのですぞ」


そうだったのか。だからあれだけの人数が並んでいても部屋の収容人数を超えなかった訳か。


「ということはここのご飯が美味しいからここに泊まるっていう人が多くて、宿の値段が高くなったということですか?」


「それについては私がご説明したします」


•••••何でこの幼女は目をキラキラさせながら言ってくるのだろうか。若干胸張ってるし。


「そうですか。では説明は頼みますぞ」


「はい、値段が高くなったのはこの宿の歴史に理由が••••••」


「あーちょっと待って。それって長引きそう?」


「すぐに終わりますよ」


「じゃあ食堂に着いてからでお願いするよ」


絶対嘘だ。俺は騙されん。こういう語りたがっているやつは確実に話が長くなることは経験済みである。本人はすぐに終わると思っても聞いてる方からしたらすごく長いのだ。

簡単に言えば、楽しく話していると時間を忘れるということだ。


「むぅ...分かりました」


シフは渋々了承してくれたみたいだ。そんなに語りたかったのか。断って正解だった。どっちみち食堂に行ったら語られるんだろうけど。


ちょうど会話が途切れたぐらいに食堂に着いた。そこは人で溢れかえっていた。この宿はそこそこ大きい。その宿でこれだけ溢れかえっているというのに、宿泊者はほんの一握りとは皮肉なものである。


「宿泊者の席はあちらです。そちらのお客様はどういたしますか?」


シフが食堂の奥の扉を指差した。


「私ですかな?出来れば御一緒したいですな。これも何かの縁ですぞ」


「そうですね。じゃあ御一緒しましょう。」


「助かりますぞ」


何かVIP席みたいになってたら嫌だしね。宿泊者の許可があれば一緒でもいいのか。


「分かりました。では参りましょう。赤髪のお客様はは何か注文があれば仰って下さいね」


「分かりましたぞ」


ウキウキしながら先導するシフ。まだまだ子供である。そんなに語りたいか。


(俺も気になるし、別にいいけどな)


ウキウキしているシフを生暖かい目で見ながら扉へと足を運んだ。


宿泊者用の食堂は静かだった。やはりここには食事だけで来る人が多いのだろう。確かに人はいるが、それもちらほらとしかいない。宿屋と食事屋が完全に逆転してしまっている。

やはり宿泊者はお金を払っているだけ、待遇が良いみたいだ。静かな上に、掃除も行き届いていて、とても綺麗だ。テーブルは大きな丸い物で、その周りに椅子が置かれているといったものだ。

シフに案内されたテーブルには料理は並べてあり、いつでも食べられるようになっていたが•••••多すぎじゃね?テーブル一杯に敷き詰められた料理が俺の目の前で広がっていた。どう考えても一人で食べるような量ではない。このおじさんを呼んで正解だったようだ。


「残しても大丈夫ですよ。銀貨10枚も払っていただいているのですからこれくらいは当然です」


俺の心境を悟ったかのようにシフから説明が入った。ほんと、良く訓練された子だ。


「ほほぉ、これが宿泊者用の食事ですかな。私がいつも頼んでいるものとは違ってとても豪華ですな」


「俺一人じゃ食べきれないのでお二人も一緒にどうですか?」


二人でも食べきれないと思うからついでにシフも誘って見た。


「ほほぉ!いいのですかな!?ではお言葉に甘えさせてもらいますぞ!」


「お誘い頂いてとても嬉しいのですが、私も自分の責務がありますので•••••」


シフが言いかけたところで


「シフ、御一緒させてもらったらどうかしら?」


突然、背後から女性の声が聞こえて振り返った。そこに立っていた女性は受付の綺麗な人だった。


「お姉ちゃん!?まだ受付終わってないよね?どうしてここにいるの?」


「そんなことはどうでもいいわ。別に気にしなくていいわよ。私がシフの分、やっておくから。それに最近働き尽くめで疲れているでしょ?」


「あぅ、ばれてたの?」


シフが上目遣いで綺麗な人を見た。

因みに俺はクラッと来た。ロリコンではないが、美少女で仕事の出来る子だ。別にアウトではないだろう。たぶん。割と俺理論が入っているが気にしない。


「私が気付かないとでも思っていたのかしら?ほら、折角お客様はが誘っているのよ。断るなんてしないわよね?」


「ありがとうお姉ちゃん。お客様、では御一緒させてもらいます」


「あぁ、いいよ。それに食事はみんなで食べた方が美味しいからね」


やはり姉妹だったみたいだ。妹思いの良いお姉ちゃんだこと。俺も弟か妹がいたら妹、弟思いになれるのだろうか?うん、無理だ。ゲームと本が俺を無理矢理引っ張ってくる。絶対に妹、弟を放置することになる。兄弟いなくてよかったー。


「貴女はいいのですか?」


「私ですか?私は大丈夫です。それよりも妹のシフの話を聞いてあげてください。」


後半は耳打ちをしてきた。やはり働き尽くめだとストレスが溜まるのだろうか。


(了解です)


(頼みましたよ。あの子は無理し過ぎてしまっているのです。たまには息抜きが必要です。お客様に頼むのは気が引けますが、私が何度も言っても聞いてくれないのです)


(任せて下さい)


何故俺に頼むのかは知らないが、やってくれと言うのなら俺は取り敢えずやるのだ。


(お願いします)


シフは頑張り屋さんみたいだ。常にガソリンを供給している感じだろうか。シフの顔をよく見れば、目の下に小さなクマや、やつれた表情であることが分かる。


「じゃあしっかり休憩は取ってね」


シフのお姉さんと思われる女性が一言シフに言ってからそのまま踵を返して宿泊者用の食堂から出て行った。


「じゃあ食べましょうか。二人とも、席について下さい」


三人で席についた。俺の隣にシフ、その正面に赤髪のおじさんだ。


「二人とも敬語はやめましょうぞ。一緒に食べる仲ですからな」


「そうか、分かった。ところでまだ自己紹介してないよな」


今まで互いの名前も知らないのに親しげに話していたから驚きである。


「おぉそうですな。私の名前はジグル。ジグル レイドと言いますぞ」


「さっきお姉ちゃんも言っていたけど、私の名前はシフ シールン。シフでいいよ。食事に誘ってくれてありがとね」


「俺はシイナ。シイナ ニイツだ。気軽にシイナとでも呼んでくれ。じゃあ早速食べようか」


「そうですな。では」


「「「いただきます」」」


三人で手を合わせて合掌をしてから料理を頂いた。最初に目を付けた食べ物はケテルネクスでの主食、パンだ。以前は硬いパンだったが、今はどうだろうか。パクリと一口食べてみると


「おぉ柔らかい」


フワッとパンが潰れ、簡単に千切れた。まだ俺の世界のパンよりは硬いが、それでもケテルネクスでは珍しい部類に入るだろう。


「ここのパンはとても柔らかくて美味しいのですぞ。それにこのルーを付けるともっと美味しいのですぞ。」


ジグルが指差したルーは茶の色をした物だった。何に似ているかと聞かれたらカレーだろう。


「このルーは?」


「そのルーはピリーの実の中に入ってるルーなの。元々はただの水のような液体で食べるというよりは飲むものだね。飲もうと思えば飲めるような物だったのだけど、それを5時間程、高温で温めるとトロトロで少し辛い味になるの。それとパンを合わせるとほんとに絶品なの!」


なるほど、見た目通りカレーかな?ていうかこれがピリーの実?数千年前に見かけたけど苦くて飲めないと思ってたけど温めると大分変わるのな。

そのルーにパンを付けて食べるとなんとも懐かしい味が口一杯に広がった。


(こ、これは『ナン』だ!懐かしいな。中学校の給食とかでたまには出たっけ)


懐かしく思いながら食べていたらあっという間になくなってしまった。


「どうでしたかな?聞くまでもないでしょうが」


「あぁ、これは美味い。何個でもいけそうだ」


その後も魚料理や肉料理など説明を受けながら楽しく食べた。


「じゃあそろそろこの宿の歴史の話をするよ!」


ナイフとフォークを掴んでいた俺の手がピタッと止まった。


(し、しまったぁ!?まだ忘れてなかったのか!クッ!早く切り上げれば良かった••••••)


「待ってましたぞ。私もここの歴史については興味がありましたぞ」


「ちょ、ちょちょちょ待ってくれ。今話すのか?」


「?そういうことだったでしょ?やっぱり興味ないの?」


「いえ、そんなことはありません」


ハッ!?し、しまった!?思わず答えてはいけない言葉を言ってしまった!


「変なの、じゃあまずは」


こちらを訝しげに見た後、話し始めた。いやだってほら、上目遣いとか卑怯過ぎるんだもん。思わず即答しちゃうよ?

シフはポツポツと話し始めた。


「ここは数千年前からあることは知ってる?」


「知ってますぞ。よくそこまで朽ちないで建っていますな。普通は持ちませんぞ」


「実はその原因はこの宿の屋根に秘密があるの」


「『神の爪痕』ですな?」


「そうなの」


聞いてる俺は気が気でない。さっきから心臓がバクバクである。


「数千年前のある日、この街から近くの森にかけて見たこともない大嵐が唐突に起きたの。『魔神の裁き』とも言われているよ。予兆もなく、本当に突然のことだったみたいなの。

その大嵐は草木をむしり取り、街には巨大な竜巻が何本も渦巻いて、家は巻き込まれ、雷は地を焦がし、人を焼いた。その時間は僅か数分の出来事で、街は終わりかと誰もがそう思った。しかし、その時、一筋の光の刃がどこからともなく放たれた。随分と低空でその刃はある建物に傷を負わせたが、その光の刃は真っ直ぐと大嵐の中心部へと入って行き、積乱雲を斬り裂き、大嵐を晴らしたそうなの!

その後、街は暫く晴れが続き、作物もよく育ち、街の復興が直ぐに可能となったの。この災害を守った人は誰かとなったが、ある人が『人神シーナニーツ様が我々を守ってくださったのだ!』といい、それが伝わり、今ではこの街の守護神として祀られているの。

そして時は経ち、木下の陰はやがて神様が街を守ったという証の宿として人気が出たの。それで宿泊者が増大して、値段を上げることになったの。」


「ほぉ!そしてその傷を負った建物というのが••••••」


「ここの宿なの!」


ガタンッ!


「きゃ!どうしたのシイナ?」


「あいや、感動しちゃって思わず立ちそうになっただけだ」


「そ、そうなの?興味を持ってくれて嬉しい!」


その純粋無垢な笑顔が眩しすぎて失明しそうだ。

何てカッコイイ神様なんだ人神シーナニーツ。民の困っている所を助けるなんてカッコイイじゃないか。

しかしな、残念ながらそれは唯の妄想なのだよ。






俺がこの街から災害を守ったと思うじゃん?



違 う ん で す よ お 嬢 さ ん 。



(確かに守ったさ!あぁ!守ったとも!だけどそれは自分と仲間の面子を潰されないためにな!)











ーー回想



約2400年前。キルクス近くの森にての出来事である。


「おい、セニュ。本当に大丈夫何だろうな?」


セニュの魔術の実験に付き合わされた俺達は森に来ていた。


「うん!大丈夫よ!これだけ街から離れてれば例え魔力が暴発しても大丈夫よ」


「おいおい、暴発だけは起こさないでくれよ?お前の魔力は桁違い何だからな」


「私を信じなさいよタツ。これでも魔術なら一番って自負してるから」


「••••まぁ大丈夫ならいいけどよ」


確かにセニュは魔術の操作がかなり上手い。俺もこれなら問題ないだろうと高を括っていた。

だからやめろ何て言わなかった。


「これが魔王に効くかもしれないのよ!先ずは試して見ないとね!」


そう言ってセニュは詠唱を始めた。数分と長い詠唱が終わった後、セニュが叫んだ。


神の裁き(ノテルス・アテモス)!」


やれやれ、名前がイタいな。と思った瞬間。


ピシャッ!ゴロゴロッ!ギュォォォォッ!


「むっ!?」


「ぬぉぉ!?」


「きゃあ!?」


上からタツ、シイナ、セニュである。

え?リアル神様の裁き?


「い、一体これは!?」


「こ、こんなに強力な魔術が•••••予想外だわ、魔力がどんどん吸われて行く••••••」


「セニュ!」


急にセニュが倒れた。


「おい!大丈夫か!?せめてこの嵐を何とかしてから気絶しろ!」


「それが今にも気絶しそうになっている仲間への言葉をかしら•••••?ごめんなさい、魔力がどんどん吸われていくの。無...理...」


それだけの言葉を残して気絶しやがった。


「おい!シイナ!この雲、どんどん広がって行くぞ!このままだとキルクスに到達しちまうぞ!」


「マズイな、ぬおっ!?」


一筋の雷が此方に落ちてきた。俺は腰の剣を抜いて斬ろうとした(・・・・・・)がその前に


「グオォォォォッ!」


パチンッ!


タツが雷を咆哮で粉砕(・・)してくれた。


「チッ!マズイぞ!」


「仕方ない、この雲を斬る!タツ、剣気を溜めている間、雷から守ってくれ!一分でいい!」


「分かった!」


俺は腰の剣を引き抜き、剣気を溜め始めた。


(早く溜まれよ...!)


俺は集中し、腕から剣へと剣気を注ぐ。

その間にも雷は落ちてくる。


「ッ!まだか!?」


「よし溜まった!これを中心部に打ち込めば...!」


俺は雲の中心部を探すと、直ぐに見つかった。

その場所はキルクスの辺りだった。


「これで!」


俺は溜めに溜めた巨大な剣気を放った。


「やべっ!低すぎた!」


遠すぎたせいか、低空で剣気の刃が飛んで行った。このままではキルクスに若干当たってしまう。

しかし、剣気は真っ直ぐとしか飛ばないので当たらないことを願って剣気を見守った。


剣気は一直線に中心部へと飛んで行き、斬り裂いた。

その瞬間、パァッと雲が晴れ、晴天の空へと変わった。


「な、何とかなった••••••」


「何が大丈夫だこいつ。思いっきり暴発してんじゃねぇか!」


その後、俺達はタツがセニュを担いでキルクスへと戻り、状況を確認したが、ひどい有様であった。

何より気になったのは宿に付いた大きな大きな刃の跡であった。











これ程、自作自演という言葉が相応しい出来事は中々ないであろう。

これではまるで自分を神様と崇めて欲しくてこの災害を起こしたみたいではないか。


(結局最後までばれずに魔王退治に行ったんだよな)


本当は分かっていた。最初から最後まで全部気付いていた。宿の料金が高いことも知っていた。この宿に初めて泊まった時は銅貨6枚だった。ご飯が美味しいのは••••••シェフの腕の実力だと思います。剣気にそんな能力はない。そして『神の爪痕』はもろ俺の仕業です。ほんとすんません。

嘘だ嘘だと自分に言い聞かせていたのだ。自分自身が分からないふりをしていればいいと現実逃避していたのだ。

ていうか俺のこの姿を見てあの猫耳お姉さんはこの宿を紹介したのか?どうみても貧乏なのに。あいや、実際には違うけどね。

あんな傷を付けたのは俺しかいない。そして剣気には物の寿命を伸ばす力がある。とは言っても傷を付けなければ伸びないのだが。俺の全力に近い剣気をもろに受けたこの宿屋が通りで朽ちないはずだ。

それにしても美化されすぎである。この美化を聞きたくなかったから俺は断りたかったのだ。真実を知る俺にとっては途轍もなく辛いのだ。


(これは黒歴史として闇に葬り去りたかったが、どうも歴史は許してくれないらしい••••••)


俺が回想に浸って、乾きた笑いをしていると


「あれはもしかして人神シーナニーツの像ですかな?」


「そうだよ。彫刻家のイメージみたいだけどね」


(俺の像だと!?)


当然気になってジグルが指差した方向を見てみるとそこには


(あ、あああれが俺ぇ!?)


驚愕に目を見開いた。その像は立派なお髭を生やした老け顔のおっさんが、剣を掲げている姿だった。マント付き鎧を着て、さまになっている、が


(まだそんなに老けてねぇよ•••••後で鏡見ておこう)


やっぱり心配になったので確認しておくことにした。


「さっきから静かだけどどうしたのシイナ?感動しちゃった?」


「お?お、おぉ!もちろん!人神シーナニーツは立派な事をしたんだな!」


「うん!この街の誇りなの!」


やめてくれや、心が痛い。恥ずかしい上に頭が痛い。さっき寝たばっかりだが、早めに寝よう。

これ以上黒歴史を掘り返されても困る。


「さて、そろそろお開きにしようか。」


「えぇー!もっとお話ししようよ!」


いやほんと、勘弁して下さいこの通りです。


「また明日な」


「うー•••••約束だよ?」


「もちろんだとも」


「お開きですかな?シイナ、ありがとう。今日は久しぶりに楽しかったですぞ。ご馳走までもらって、感謝ですぞ」


「あぁ、俺も楽しかったぜ。じゃあ俺は部屋に戻るよ」


そう言ってそそくさと退散しようと扉に向かって早足に向かったが


「おぉそうだシイナ、暇があれば明日は冒険者ギルドに来てくだされ。私は基本的にあそこにいるのですぞ」


そういうことは先に言ってくださいまし!俺は寝たいんだ!少しはこっちの意をくんでくれ!


「あぁ分かった。どっちみち寄る予定だったからな。冒険者ギルドで会おう」


なるべく平静を装って答えた。よくやったぞ、俺。

今度こそ宿泊者用の食堂から出て行った。一般者用の食堂を抜けて2階へと駆け上がり、自分の部屋の鍵を鍵穴に刺し•••••


「あれ?鍵、空いてる?閉め忘れはないはずだけど••••••」


俺は不思議に思って部屋に入ると


「だ、誰だ!?」


「••••••••」


分かりやすい泥棒がいた。今まさに俺の大切は相棒達の入ったクローゼットに手をかけようとしていた。


「誰だ、は....こっちの台詞じゃこのデコスケ野郎!!吹き飛べや!」


俺はそのまま一瞬で泥棒の近くに行き、窓に向かって飛んで行くようにラリアットをぶちかました。


「うわあぁぁぁ...」


そのまま窓をぶち破り、見事に飛んで行った。腕に剣気を若干纏って衝撃力を上げたのだ。

遠くでドドォンと音が聞こえた。落下した音だろう。


ーーフウラシ流風迅術『瞬歩』


足に剣気を集め、それを爆発させて一瞬で動く技だ。『閃光』を習得するにはまずこれが第一関門だ。


ーーイルビス流気運術『剣気爆発』


ある一点に剣気を集中させ、敵に当たった瞬間に纏った剣気を一気に解放する技だ。すると、爆風に当てられたように敵は飛んで行く。


「ふぅ、少しはスッキリしたな!」


若干頭痛がなくなったことに満足してから、部屋の鍵を閉めて爽やかな顔で今度は仰向けになって眠った。

ほんとに今日は疲れた。いい夢が見れるといいな。

あ、そういえばシフはリラックス出来たのだろうか?俺は何もしてやれなかったけど。ちょっと心配だな。

剣気については次回書きます

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