第一話 異世界の異世界
黒歴史物語を書いてみました。さくさく進めるために主人公はチートになりました。
途中で失踪するかもしれませんが、頑張って書きます!
「はあぁぁっ!」
勇者は魔王から数十メートル離れた所から連続で斬撃を放つ。その場で何十回と残像を残しながら切りまくる。
意味なく振っているように見えるが、魔王はその飛んでくる何かを必死に弾いている。
「むぅんっ!」
魔王はひたすら飛んでくる物、所謂真空の刃を剣で弾いているが、それでもいくつかは弾けず、じわじわと魔王の体力を削る。
お互いの体力は既に限界に近い。それほど長い間戦っているのだ。既に両者の身体は切り傷でボロボロだ。
「ッ!?」
魔王が驚きに目を見開く。それもそうだろう。何故なら•••••
「これでっ!!」
真空の刃に紛れて、勇者は目視不能なくらいの素早さで魔王の懐に潜り込み、両手に持った一本の剣を振り上げた。
「ぐゥァッ!」
魔王は膝をつき、胸を抑えた。苦痛に魔王の顔が歪む。致命傷だ。どうやら真空の刃の攻撃でかなり体力を奪われていたようで、避けられなかったようだ。
大量の血がびちゃびちゃと床に魔王の胸から流れ出ている。決着はついたと言ってもいいだろう。
「魔王、お前の負けだよ」
「あぁ•••••どうやら•••••そのよう、だな。フフッ、まさか人間に負けるなんてな••••••••」
「俺だってひたすら訓練してきたんだ。いろんな死地を乗り越えてきた。その結果さ。これで倒せなかったら困る」
「そうか、こんな、死に方も、悪く•••••••ない、な。」
段々魔王の声が弱々しくなってきた。話してる間も夥しい量の血が流れている。
「さようなら。俺も楽しかったぜ」
そう言って、勇者は剣を魔王の首へと振り下ろした。
ゴロン、と先程まで剣を交わしていた相手の頭が転がる。
「ふぅ...や、やっと終わった...これで、帰れるはず...!」
勇者は膝を付き、息を整える。しかし、ものの数分としない内に
ゴゴゴゴッ!
「これはヤバイ感じだな。休憩何てしてる場合じゃねぇ!」
急いで立って次元の間に重い足を叩いて無理矢理進んだ。その間にも魔王の城は崩れて行く。どうやらこの城は魔王の魔力で補強されていたようだ。戦闘前にもそんなことを言っていた。
一歩一歩と歩を進め、漸く辿り着いたそこには・・・
「あ、あった...!これが•••••••異界の亀裂...!」
そこには空間を割って出来た亀裂が出来ていた。その亀裂の中はグルグルと渦巻いていて、奥までは分からない。
「すごく怪しいけど、迷ってる場合でもないな。」
勇者は思い切って亀裂の中へ飛び込んだ。
亀裂は勇者が飛び込んだ瞬間に勇者とともに消滅した。
以後、この勇者を見たものはいない。そして、それを知る者もいない。
魔神の災厄
ーー約2400年前
ケテルネクスは魔神ジルコルネの降臨によって重圧されていた。
ケテルネクスは大きく分けてヒュルジス大陸、アニルリース大陸、マノーム大陸、セイルシム大陸と四つに分けられていることはご存知だろう。
そして、大陸によって神が崇められていたそうだ。
アニルリース大陸の獣神、タッツゲイル。
セイルシム大陸の精霊神、セニュハレイス。
ヒュルジス大陸の人神、シーナニーツ。
この三神は元々は敵対していたが、ケテルネクスが危機へと直面したという非常事態に一時的な同盟を結び、マノーム大陸の魔神、ジルコルネへと牙を向けた。
ジルコルネはマノーム大陸の勢力拡大の為に三神と戦った。当時はまだ人類の発展も乏しく、神同士が自らの国を守るために奮戦した。しかしジルコルネは強く、また、魔力を徐々に高めていっていた。ジルコルネはケテルネクスから魔力を奪っていったのだ。その結果、作物は凶作となり、一部の生物は絶滅。植物は枯れていくという事態に直面する。その結果、精霊も人間もジルコルネの配下である魔人でさえも飢えに苦しんだ。
魔人は魔神に裏切られたという事態に混乱に陥り、内乱が始まった
。魔神を信じる者と魔神を信じない者、この両者が対立した。曰く、魔神は我々を境地に立たせ、試練を与えてる、曰く、魔神は我々の事は唯の魔力を蓄えるだけの餌にしている、と意見が対立し合っていた。
そんな睨み合いが続く中、人神シーナニーツが動いた。人神はこれ以上ケテルネクスを崩壊させない為、マノーム大陸へと乗り込んだ。魔人を一網打尽にし、頭を冷やさせた。今は内乱よりもすることがあるだろう、人神は魔人達を説得した。魔人達は何が敵なのかを思い出したかのように自然と三神側へ付いた。
しかし、その行動に今度はヒュルジス大陸に不信感を呼び寄せた。曰く、人神は魔神の手下、曰く、人神が裏切ったと、誰もが人神を責めた。人神は困惑し、ヒュルジス大陸に戻ろうにも戻れなくなった。その間にもジルコルネはゆっくりとケテルネクスを蝕んでいった。
この状況を打破したのは獣神と精霊神だった。二神はヒュルジス大陸に赴き、彼らに説得をした。お前達は自分の国のことしか考えないのか、ケテルネクスは人間だけのものではないぞ。魔人を助けた人神を寧ろ誇りに思わなくてどうする。ケテルネクスはジルコルネの物ではない。四大陸を合わせてのケテルネクスだ。
獣神と精霊神は人間達に感銘を与え、人間は人神を最信仰した。
こうして、ジルコルネだけを敵に絞り込めた三神はジルコルネに攻撃を仕掛ける。
ジルコルネを三神で叩き、隙が出来た時に獣神が自前の大地を揺るがすような咆哮でジルコルネの魔力を雲散させ、魔力が一瞬薄くなったところで精霊神が魔術を一気に叩き込み、更に弱らせる。魔神は自分の城へと撤退した。それを人神が最後の追い打ちを掛けた。獣神と精霊神はそんな人神の背中を見ていたという。
人神は魔神の城ヒズラに撤退した魔神と互角の戦いをした。魔神は傷を負っていたにも拘らず、凄まじく激しい戦いになったという。
最後はどうなったのかは謎である。分かることはヒズラの城が崩れ去り最後に残ったのはヒズラの残骸であったということだ。魔神も人神もその瓦礫の中からは見つからなかった。
そんな大戦があってから数日後、ケテルネクスに魔力が戻ってきた。死滅した植物は蘇り、作物は豊作。漸くケテルネクスに平和が訪れた。それが現在のケテルネクスである。
ーー著者不明
暗がりの洞窟。そこに一人の男が転移してきた。
「ぐぇぇっ!」
俺はスポーンッと放り出された。見事に顔面でヘッドスライディングした。
「ぐぅ、は、鼻が・・・」
俺は鼻の所在を確認しホッとしてから周りを確認する。あ、ちょっと鼻の皮剥けてる。
「俺は帰ってきたのか?」
鼻を抑えながら呟く。そんな呟く声が洞窟に反響する。
(仮に戻ってきたとしてもここは俺のいた国じゃないよな)
俺の国にはそもそもこんな洞窟何てないはずだ。殆どが科学文明で埋め尽くされてるし。
(取り敢えず洞窟の外に出てみようか。何か分かるかもしれないし)
俺は一応警戒しながら出口を探すことにした。洞窟の天井から水滴が垂れ、ピチョンッと地面に落下する。
暫く歩いて漸く光が差してきた。
(やっと出口か!)
出口へと俺は早足になって歩いて行った。やっと太陽を拝めそうだ。
暗闇から明るい所に出たせいで眩しくて手を目の前で翳した。漸く慣れてきたところで手をどけてみると
「お、おい。なんだよ...これ?」
洞窟から出た先にあったのは、大森林だった。どこまでも続く、大森林。
「はは...何処だよ此処...」
どっからどう見ても俺がいた元の国じゃない。じゃあ外国だろうか?
(もし外国ならパスポートを取って帰らないと行けな••••••••)
そこまで思考をし、何と無く空を見るとそこには
ゴキャァァァ!
「いや!!マジでここどこ!?」
思わず叫んでしまった。それもそうだろう。何せそこには以前苦戦したガーゴイルに似た姿があったからだ。以前といってもまだ俺が弱かった時だが。
「あ」
俺の驚愕の叫びに反応したのか俺とガーゴイルの目があった。するとガーゴイルが獲物を見つけた鷹のようにこちらに急接近してきた。
「ま、昔苦戦したってだけで今は余裕なんだけどな」
俺は腰に納めてある三本の剣から一本を取り出して急接近してくるガーゴイルに合わせて剣を振った。
「そらよ!」
ガーゴイルは横に真っ二つに斬れて悲鳴すら上げられずに絶命した。ズズゥンと大きな音を立てて真っ二つになったガーゴイルが落下した。まさに一瞬の出来事である。
ーーフウラシ流風迅術『閃光』
閃光の如く、一瞬で前へと進みその一瞬に合わせて剣を振るという技である。
「ふぅ、やっぱりこの技はかなり強いな。師匠には感謝だな」
それと同時にその時の訓練を思い出して身震いした。あれは地獄だったな。
それにしても•••••••
「やっぱり元の世界に戻ってないな...あのジジィ、嘘ばっか言いやがって...!」
そのジジィとは魔王を倒したら異界の亀裂が出来ると預言した者である。確かに亀裂は出来ていたが、まさかこんなことになるなんて•••••。信じた俺が馬鹿だった。あんな胡散臭い奴を信じる何てな•••••••。
「はぁ•••••••今度はどんな世界に来ちまったんだ?」
あれが異界の亀裂ならまた別の世界に来ているはずである。それにあのガーゴイルも前の世界、ケテルネクスのガーゴイルに似ていたが所詮似ている、である。
(何にせよ、ここでも元の世界に帰るための旅が始まるということか••••••一からスタートとはなんとも言えない気分だな。
兎に角、街か村を探さないとな)
俺は納刀してからまた歩き出した。
(それにしてもこの地形、何か見覚えあるような••••••気のせいか)
俺はそう楽観的に考えて街を目指して歩くのだった。
▽
「大分歩いたけど、何もないな」
しかも妙なことに歩けば歩くほどなんだか来た道をもどっているような感覚になるのだ。
(そういえばあの洞窟も今考えたら何か既視感を感じるな)
俺はそんなことに疑問を持ちながらも気のせいということにして来た道を戻るように歩みを進めて行った。
(ん?あれ?確かここに街があったような?)
段々と既視感が強くなってきた。まるでパズルのピースがはまっていくかのように。
(まさかまたなのか!?冗談はやめてくれや...)
俺は嘘だ嘘だと自分に言い聞かせていたが、大森林を抜けると
「おいおいおいっ!多少古びているけどキルクスじゃないか!」
そう、そこは魔王を倒しに行くために最後に寄った街、キルクスだった。
因みに魔王は人間の多い大陸にいた。所謂、ヒュルジス大陸だ。
「相変わらず門の前には人が並んでるな••••••」
俺がここに来た時もすごく並んでいたしな。魔王を倒す為に来たって言ったら速攻で入れてくれたけど。
(取り敢えず情報が欲しい。キルクスにお邪魔しよう)
列の最後尾に着いた。魔王も既に故人だから今度はダメだろう。
(しっかしほんと長いな。俺の後ろにも続々と人が並んでくるな。というかこの格好、大丈夫かね?)
自分の格好を見て眉を顰める。今の格好は魔王を倒した後の装備だからボロボロである。一流の魔術師に魔術反射の符呪してもらった黒に赤い線の走った外套も、山に住んでいたドワーフの長に作ってもらったスバルニウム製の手甲や足甲も、中に着ている師匠からもらった特性の軽鎧も切り傷でボロボロだ。
折角の防具もあの戦いで酷い有様だ。剣も3本とも、刃に傷が入っていてただの鉄の剣に見える。ガーゴイルを切れたのは技に依存していたからである。
(なんていうか、汚いな。名前だけ聞けば立派なんだがなぁ。これを見ると信憑性がゼロだな)
「おい!そこの!さっさと進まないか!」
「んぉ!?あ、すみません。すぐ進みます」
どうやら自分の容姿チェックしている間に順番が来ていたようだ。
俺を見た看守がすごい軽蔑した目で見てきた。やっぱり格好が汚いよなぁ。スラムにいる奴に見えるし。後でここの鍛冶屋に手直ししてもらおう。
「身分証を出せ。どうせないだろうがな。」
見下し、嘲笑うように言ってきた。ムカついたから冒険者ギルドカードを差し出した。
ギルドカードには名前とランク、職業が掘られている。全部手作業である。
「ちゃんとありますよ、ギルドカードです」
それを見た看守が怪訝そうな顔をする。
「あぁ?なんだこれは?ハッ!こんな分かり易い偽物を寄越すとはお前は馬鹿なのか?」
え、これ偽物なの?俺今までこれ使ってきたんすけど•••••••。
ちゃんとシルビード製で出来てるよね?
ギルドカードの判別は物質で判断するのだ。
「確かにシルビード製で出来てますよ?」
「シルビードだと!?嘘を付くな。そんな高価で全く手に入れられない物、貴様みたいな貧乏人が手に入れられる代物ではないだろう。そもそもギルドカードはキルテスト製だ。この盗人め!牢獄にぶち込んでやる。さぁ来い!」
ちょ!?何かいきなり盗人認定されたんですけどぉ!?しかも有無を言わさずに牢獄とはまた理不尽だな。俺はたじろいだ。
シルビード製は確かに貴重な物だが、全くという程ではなかったはずである。とはいっても、割と過酷な所にあるのだが。
だからギルドカードはシルビード製で出来ているのである。これは偽装されないように施されたものなので、ギルドカードにもかなり金がかかっている。
な の に、何故俺がこんな仕打ちを受けねばならんのだ。キルテストといえばシルビードよりも一個下の価値だ。一体どうなっているんだ?寧ろ俺としてはキルテスト製のほうが怪しい。
「ちょちょちょちょっと待って下さいよ!ほんとに俺のギルドカードなんですって!ギルドカードを作ってもらった時はシルビード製だったんですよ!」
「言い訳は無用だ。大人しくしろ!あ、こら!避けるな!」
さっきから執拗に俺の腕を掴もうとしてくるが、俺は上手く受け流しながら会話する。
「兎に角、話を、聞いて、下さい、よ!おっと!」
「話は、牢獄で、聞くと、言って!いるだろう...!何で、そんな、避けられ、るんだ!」
会話しながら掴もうとしてくるものだから両者共に会話が途切れ途切れになる。
さっきから周りの目が冷たい。早くしろ糞どもと言いたげな視線だ。こんな視線、耐えられん!
「あぁもう!好い加減にして下さい!」
「それはこっちのセリフだっ!」
「面倒臭いなぁ!これでも...!」
と、俺が逆に掴もうとした時、男の声が聞こえてきた。
「何をしている衛兵!人がどんどん並んできているぞ!早く捌かないか!」
その言葉に俺を執拗に掴もうとしてきた衛兵がピタッとダルマさんが転んだで鬼に見つかった時のように止まった。
「ったく、一人相手に何を遊んでいるんだ。まだまだ人が来るんだ。さっさとその見窄らしい男を通せ。相手にする価値もない。何か問題あれば捕まえればいいんだ。」
この男、どんだけ毒舌なんだ。目のの前にその本人がいるのにそんなことお構い無しに言ってきやがる。見窄らしくて悪かったな!好きでこうなったんじゃないやい。
よく見れば、衛兵を怒鳴りつけた男は体格は柔道でもやってたのかな?と言わんばかりの逆三角形のムキムキボディだ。顔には大きな傷がついていて、目は鋭く、黒い瞳が爛々とギラついている。頭はスキンヘッドで、身長176cmの俺が見上げる程の大男だ。ずっと見ているとお金を差し出せと言われている気分になる。
ハッキリ言って、怖い。
「も、申し訳ありません!おい、貴様。今日のところは見逃してやる。二度はないと思えよ。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
取り敢えず助かったのかな?ギルドカードは再発行してもらったほうがいいかもな。何はともあれこのまま何もなく通してくれれば・・・
「おい貧乏人。ギルドカードを新しく発行してもらえ。そうすればこんなゴタゴタにならないからなあまり面倒は起こすな」
「はい、すみませんでした」
俺はぺこりと一礼してから足早にその場から去った。後で屋上、みたいなこと言われるかと思っていたのでホッとした。
(危なかったな・・・あのままいけば本当に牢獄で暮らすことになったかもしれないな)
俺は街並みに目を向けた。沢山の人が歩いていて、かなり活気に溢れている。そして、記憶にあるキルクスとは違い、なんというか、新しい感じがする。形は同じなのだが、家や屋台が記憶にあるものと大分違っていた。
最初に来た時、良い家では石と木が使われていて、悪い家では木と藁だけが使われていた。
しかし、今は木よりかは石を沢山使って出来ている。どの家も、どの屋台も。これではまるで・・・
(タイムスリップしたみたいじゃないか・・・一体どうなっているんだ?)
謎は深まるばかりである。
(考えるより行動だな。先ずは冒険者ギルドだ)
兎に角、情報が欲しい。明らかに俺の知っているケテルネクスじゃない。ケテルネクスはもっと古い文明の筈だ。
(俺の記憶が正しければあの辺りに••••••っと、あったあった。場所は変わってないみたいだな。若干外装は変わってるけど、間違いない)
場所が変わっていなくてホッとした。これで変わってたらこのクソ広くて賑やかな街を虱潰しで探検することになった。人に聞いてもどうせ俺の格好みたら無視するに違いない。今だって蔑みの視線や哀れみの視線を感じるのだ。
(さて、内装はどうなってるのかな?)
外も色々変わってるから中も変わっているんだろうなぁ、と思いながら冒険者ギルドへ足を踏み入れた。
「相変わらず、汗臭いな」
苦笑いと共に俺は冒険者ギルドへと入場した。中はガチムチのおっさんや若い青年など沢山の冒険者がいた。
冒険者ギルドは基本的には男性ばかりだ。女性はたまにいる程度である。そして臭い。定期的に消臭はしているみたいだが、それでも臭い。そして暑い。むさ苦しいのである。
そんな汚そうな場所がここ、冒険者ギルドなのである。ここに来る者の大半は家事や農業といったところで上手く仕事が出来ない人や戦闘好きなバトルジャンキーなどである。
俺は別に家事とか出来ないわけじゃないが、元々勇者としてケテルネクスに来たから、戦闘を覚えるということで冒険者ギルドに入った。
誰かに絡まれる前に受け付けへと向かった。たまに柄の悪い奴等に絡まれている人がいるのだ。俺もそこに仲間入りしたくない。
「ギルドへようこそ!この辺りではあまり見ない顔ですね。御用件は何でしょうか?」
取り敢えず、美人な猫耳お姉さんの受付の前へと立った。触りたい。
「はい、実はこの街に来たばかりでして。今日は冒険者ギルドに登録をする為に来ました」
「冒険者登録ですね。分かりました。では此方の紙に沿ってご記入下さい。文字が書けない場合は代筆をいたしますのでご所望下さい」
「大丈夫です」
羽ペンとそこまで大きくない紙を渡された。この世界の言葉は俺の世界の言葉と似ていたのですぐに覚えられた。読み書きは大事である。
(えっと名前と職業だけか。これは最初に作った時と同じだな)
俺は名前にシイナ・ニイツと書き、職業に剣士と書いた。
「シイナさんですね。神様と似たようなご立派なお名前ですね。では此方の紙に手をついて下さい」
へー、神様と似たような名前なのか俺。そんなこと産まれて初めて言われたな。何という名前の神様なのだろうか。
神様の名前は後で聞くとして、示された紙のところに手を着くと、
ピカッ!
ビリビリッ!
バチンッ!
ぼぉぉぉ!
「うぉ!?」
「きゃあぁ!?」
一瞬光った後に俺の手に静電気のようなものが走った直後、今度は電撃を受けたみたいに痺れ、その紙が燃え上がり、灰となった。
これでいいのかな?と思って受付の人を見るとどうしていいとか分からないといった表情をしていた。
あこれダメな奴だ。ていうかこの人も「きゃあ!」とか叫んでたし。猫耳もしゅんとしている。
「えっと?これは一体?」
「!す、すみません!紙の不具合のようですね。直ぐに新しい紙を・・・わきゃあ!」
動揺していたのか、新しい紙を取り出す際に紙の束を落としてしまったみたいだ。
「す、すみません!」
「あ、手伝います」
あまり時間をかけたくなかったから猫耳お姉さんの落とした紙を拾った。
「すみません...御迷惑をおかけします...」
「えぇ、大丈夫ですよ、これくら...ん?」
紙を拾っている時に、一枚の紙のある部分に目が止まった。
(お、おい、これ...マジか?これが本当なら手詰まりになっちまう...!)
俺は戦慄し、冷や汗をかいた。その理由は••••••
(3642年7月9日••••••おいおいおい!あれから2000年以上後のケテルネクスってことになるぞ!?)
その紙に書いてあった日付である。
俺が勇者として召喚された年は1213年だ。そこから2429年も後のケテルネクスということだ。俺が魔王を倒したのはその2年後。1215年だ。
(これは•••••••本格的に帰れないかもしれないな••••••)
俺は魔王を倒すのは二の次だと考えていた。先ずは元の世界への帰り方を必死に探しつつ、強くなっていった。それで1年と半年近く調べて漸く見つけたのが異界の亀裂だったのだ。それは魔王の魔力で開くとされていたのだ。だから俺は魔王を倒し、魔王の魔力を解放した。異界の亀裂を作るために。
そうでなかったら魔王など倒していないのだ。この世界なんてどうでもよかった。
ーー!
(あの亀裂は俺を何千年後という想像もつかない程の長い年月をタイムスリップするための亀裂だった?)
確かにタイムスリップをしたとは思っていた。それも嘘だ嘘だと言い聞かせてきたが、この日付を見てしまうと楽しい夢の中から現実に無理矢理戻された気分になった。
ーーぁん!
さっきから何か聞こえるがそれどころではない。
(タイムスリップをするにしても俺はてっきり数十年とかその辺りだと思っていた。まさか千単位だとは思わなかった)
「シイナさぁん!!」
「ぬぉぉっ!?」
急に耳元がキィィンッ!とした。どうやら受付の猫耳お姉さんが呼んでいたようだ。
「もう、どうしたんですか?紙を拾い上げたと思ったら固まっちゃったりして••••••」
「大丈夫ですよ!?」
俺は誤魔化すようにいそいそと紙の束を拾い上げ始めた。でもやはり確認しておきたいことがあった。
紙の束を全部戻してから猫耳お姉さんに向き直り、質問した。
「す、すみません。あのつかぬ事をお聞きしますが、今は3642年ですか?」
「?はいそうですよ。それがどうかしましたか?」
「••••••ありがとうございます。」
「あの?顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
「えぇ、問題ありません。・・・では俺に似ている名前の神様は何というのですか?ついでにその神様の所業もお願いします」
「??人神のことですね。シーナニーツという名前です。ケテルネクスの守り神と言われています。所業は
、大体2400年前に起きた魔神ジルコルネの災厄を止めたという話です。誰でもその名前と物語は知っていると思いますが••••••あの?本当に大丈夫ですか?段々顔色が悪くなっていますけど。••••••オススメの宿なら紹介しますよ?」
「••••••すみません、オススメの宿を教えて下さい。ギルドカードは明日お願いします」
「は、はい分かりました。私のオススメの宿屋は『木下の陰』です。この冒険者ギルドから出た後、左にずっと歩いて、3番目の角を左に曲がればありますよ。」
「分かりました、情報提供ありがとうございます。また明日ここに来ます」
どこかできいたことのあるような宿だと思ったが、どんよりとした気分の俺はあまり気にしなかった。
「あ、あの!手伝ってくれてありがとうございました」
「あー、気にしないで下さい。俺のせいで散らばったようなものですから」
そう言って俺は受付から踵を返し、猫背になりながらフラフラと冒険者ギルドから出ていった。
この時、周りの冒険者からイカれた薬中認定をされていたことはまた別の話。
▽
「ふぅ••••••」
猫耳お姉さんから聞いた通りの道筋を通って、宿屋『木下の陰』を見つけてその宿の目の前に大きな木があったから近付くとベンチも置いてあったのでそこに腰掛けて座って一息付いた。
一息付いた後、両手を顔に覆い被せるように押し隠した後、とてもとても悲痛な声で呟いた。
「俺••••••神様として••••••歴史に名を残したみたいだ••••••」
俺がこの世界の為に魔王を倒したと思うじゃん?
違 う ん で す よ 歴 史 学 者 さ ん 。
(ただ単に元の世界に戻って積みゲーと積み本を消化したかったから魔王とあんな激闘を繰り広げて倒したんだよ!!)
まだまだ沢山の積みゲーと積み本を俺の元の世界に残してきたのだ。読みかけの本、やりかけのゲーム。
(これをやりたい!スッキリさせたい!だから俺は頑張ってきたんだよぉ!)
帰って積みゲーと積み本を消化して寝るために魔王を倒したのにあろうことか、この世界を救った神様として祭り上げられるとは何ともまぁ皮肉な話である。
(俺どうすりゃいいんだ••••••)
動機が自分の欲望で世界を助けたという最低最悪な神様が今までにいたのだろうか。ここにいた。
(俺の心中を知らないで信仰をしている信者達がいると思うと心が痛い••••••)
ここから人神シーナニーツの黒歴史の公開が始まることを『新津 椎名』はまだ知らない。
時間が掛かるかもしれませんが、一週間に一度は投稿したいと考えています。