第16話
第十六話
「まぁ話をした通り、この世界でどう生きても自由だ。所持金も愛奈美さんはある程度持っているだろうし、この世界での感覚の違いから動きが若干ぎこちないものになるかもしれないけれど、慣れればかなりの能力を発揮できる。これから生きていく上で助言が欲しいなら、まぁ俺たちも殆ど来たばかりで大した助言はできないかもしれないができるだけのことはするつもりだ。それを踏まえたうえで愛奈美さんに聞きたい。………………これからどうする?」
チラッと愛奈美の表情を盗み見るが、何やら強い決意をしたような雰囲気が感じ取れる。
ひょっとすると愛奈美さんは………………
「私は…………正直まだどんな事が自分にできるかわからないけれど、この出会いを逃してはいけない気がするのよ。一期一会って言葉もあるくらいだし……
だからこそ、自分に出来ることを見つけるためにも、私は、あなたたちと一緒に行動したいと思うし、自分に出来ることを見つけてからも、それをあなたたちと共有したいって思う。………………だから………………一緒にいさせてくれますか?」
この言葉を聞いて、俺や寧香やセリーがどんな表情をしたのかはわからないが、はっきりと歓迎する表情ができていたのならいいなぁと思う。
愛奈美さんは能力面でも、精神面でも目を見張るものがある。その上、元いた世界という繋がりもある。
だからこそ、共に行動してもらえるという宣言は俺や寧香にとって嬉しいものだった。
だからだろうか、自然と俺たちは……
「「もちろん。歓迎します!!」」
そう自然と俺と寧香は即答していた。
新しく元いた世界から寧香以外の女性と巡りあったことで、寧香はいい気分ではないのかもしれないが、俺はこの偶然によって出会った愛奈美さんとの繋がりを大切にしたい。
そんな意思を寧香は感じ取ったのか、俺の方を見てニッコリと笑ってこれからの事を一緒に話し始めた。
「じゃぁ新たなメンバーが加わることだし、これからの予定も考え直さなきゃだから、一度『蒼紅』のメンバーで集まって話し合おうよ。」
「うん、そうしようか。じゃぁセレーネに連絡をとって『ルーナ』で集まろうか。寧香が連絡とってね?」
「任せなさーい。トモ君はこれからの事についての予定を立てるのと、セリーと協力して簡易的なものでいいから、ここら辺一帯に状態維持の結界をはって。」
「ん、了解。じゃぁ愛奈美さんはそのまま待機で。セリーやるよ。」
「はぁい。………………大変そうだなぁー」
そんな返事とは裏腹に、俺たちはサクサクとそれぞれに割り振った仕事を終わらせにかかる。
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夕方になってルーナのブリーフィングルームには全員が集まり、話ができる環境が出来上がっていた。
全員にお茶が行き渡ったところで俺は話を切り出した。
「さて、一応これで全員揃ったわけだけど新たなメンバーも加わったことだし、改めて自己紹介から始めようか?」
これからの予定もこのあと話し合うつもりであることを寧香は知っているため、絶妙なタイミングで話が途切れないように自己紹介を始めた。
「ん~…………その必要はあるかもしれないね……じゃ、私から。蓮月寧香。トモ君の恋人兼アマートルだよ~」
そう言って自己紹介を終えるとセレーネに次を促すように目配せをしていることに気づき、改めて寧香の美点をいいなぁ~と思っていたが、考えていることが顔に出ていたのか、寧香にキッと睨まれてしまった…………何故だ……
気づいたときには順々に紹介がされており、既にセレーネと俺、愛奈美さんを残すだけでだった。
「私はセレーネ。僚也殿と寧香殿の従者です。私の他にも従者は二人いたのですが、現在行方をくらませています。」
「んじゃ次は俺だな。蓮城僚也。一応ハイヒューマンだ。ギルド『蒼紅』の重役でもある。……じゃ愛奈美さん次よろしく」
「はい。……私は愛奈美です。僚也さんと寧香さんの同郷人です。よろしくお願いします。」
最後は愛奈美さんということもあり、少々堅苦しくなってしまったかもしれないが、初顔合わせということで仕方ないだろうと割り切ってこれからの予定について話し合うことにした。
「さ~てと。先ず初めに、改めて俺たちが立ち上げた『蒼紅』ってギルドについて詳しく話をしておこう。
『蒼紅』はギルドという体裁をとっているが、実際はティロスに国家を作ることを目標にした個人経営企業と捉えるとわかりやすい。
ギルドという体裁をとっているが故に仕事は俺や寧香から依頼が出す依頼を消化してもらうと成功報酬がもらえるってシステムだ。
金額等経営面はセリーが全て受け持っており、俺や寧香も皆と同じように仕事をする。
この場で確認するが、ここにいる全員は『蒼紅』に所属するかい?」
そう聞くとみんな頷いて肯定する。
「それじゃ明日以降のことについて話し合いで決めたいんだけど…………
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それから30分程が経過した頃にようやく明日以降の予定が確定した。
俺と寧香、愛奈美は今日の続きで城・・・もとい家を作る。
セレーネはサーシャとシオリの2人と一緒に南東の区画の調査と有力で有望そうな貴族サマとも接点を作る。
セリーは今日作った『性剤』を売っぱらってその資金で鉱石とかいろいろな材料の調達と支度金を使って『蒼紅』の経理の体系を作りあげる。
出来上がった予定を見直すととても数日では出来上がらない内容が一部に見られるが、そこはハイヒューマンという常軌を逸した能力の暴力で片付けると決めた。
「よし、目標は1ヶ月で達成だね。」
んな無茶なこと言うな!と寧香に叩かれたが、お互い全力で挑めばできるであろう内容なのに…………
俺を叩いたことなどはじめからなかったかのように、何事も起きなかったかのように寧香が提案を続けた。
「私から一つ…………毎日朝と夜、食事をトモ君と私で作るから戻ってきて。」
何故俺を料理担当にするのかと抗議したくなったが、寧香と一緒に作るのならいいかと簡単に納得し、今朝作っておいた指輪の話もタイミングが良いので話しておくことにする。
「あ~…………魔力で転移と地点登録が可能な移動用の指輪を後で全員に渡しておくからうまく使ってくれ。それと、『ルーナ』の部屋割りはある程度自由だから好きに決めてね。…………一応断っておくけど、暴れるなら結界はってその中で暴れてね。んじゃ皆これ一個ずつとってから解散」
そう言って指輪を各々に渡して俺は地下二階の鍛冶場へと向かったが、背後から「それじゃセレーネたち、おさきにー。」と言いながら寧香が追いかけてくるので大人しく待つことにした。
大人しく待っていたのだが……
「もぉ~……トモ君!おいていかないでよ!」
などと文句を言われなければならないのは少々理不尽だと思いつつ、先程話さなかったこれからの予定について話をはじめることにした。
「ねぇ、寧香…………俺たちの魔力の使い方って普段どんなふうだったっけ?」
「いきなりどうしたの……えっと、全身を血液と同じように廻っている魔力を魔力を使って作った魔法陣に通すことでその魔法陣に込められた効力を発揮してる……よ…………ね?」
「そう、そうなんだよね。でもさ……オメシワトルに使えるようにしてもらった『闘気』って術式って名称だけど魔法陣と似たような仕組みになってるし、闘気そのものも性質が魔力に似てると思わない?」
「言われてみれば……『闘気』は全ての生き物が持っている生命エネルギーだよね………ってあれ?『魔力』も全ての生き物が持ってるはずでしょ?」
「そう!俺はそれがとっても不思議に思えるんだよね。他にも類似点がありそうだから研究してみる価値があると思うんだ。」
「そりゃ確かに興味は湧くけれども……トモ君と私は城みたいな家をつくるんでしょ?研究する余裕なんて無いよ?」
「だからこそ、全力で挑んで1ヶ月で完成させて残りの2ヶ月くらいを研究に費やしたいと思っているんだよね~」
そう言ったら寧香は目を輝かせてこっちを真剣に見てきた。少しは乗り気みたいなので賛成してもらえそうだが……
「ん~……シュウとネネを見つけ出してからじゃダメかなぁ?」
と先伸ばしを提案されてしまった。
しばらく考えたが、従者だったシュウとネネの能力を考えると寧香の出した提案を却下するのはあまりにも現実的ではない事がヒシヒシと伝わるほどわかるが、いち早く研究をしてみたいとも思い心の中で葛藤が続いていた、ふとゲームには存在した『サポートシステム』と呼ばれる召喚システムで解決できないかと早速試してみた。
「『サポートシステムオン従者:ネネ』」
突然俺が喋りだしたので寧香に文句を言われたが俺の魔力がごっそりと消費してシステムが作動したのを確認したため気にならなかった。
暫くすると目の前の足元が輝き魔法陣が出現したと思ったら、いきなりネネが魔法陣の中心に現れた…………髪を濡らした一糸纏わぬ姿で。
状況を把握したのか即座に寧香は耐衝撃と防音の結界を周りに張ったのと同時に
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」という絶叫と共に殴り飛ばされたのであろう俺の意識はブラックアウトした。
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十数分してから意識が戻ったが、目の前には『ルーナ』に常備されていた服を着て顔を真っ赤にしているネネとこちらも同じく『ルーナ』の服を着て静かに座っているシュウとジト目で俺を射抜かんばかりに見ている寧香が座っていた。
何を言ったらいいのかわからずにもたついていると寧香が沈黙を破った。
「まったくもぉ!普通は連絡をとってからサポートシステム使うのに……いきなり使うなんて!それに加えてネネの魅惑的なハダカを見て少し興奮しちゃって!トモ君のバカ!」
「ごめんなさい………私の不手際でした……許してくださいお二人共……」
「主様…どうかお顔をあげてください。それと寧香様も主様にとって十分魅力的で魅惑的なお身体だと私は思いますよ?」
「うっさい!」
そんな顔をほんのり赤く染めて怒気の欠片もない叫びを聴いてから、俺はあのあとどうなったのかを確認することにした。
「んで、結局誰が殴り飛ばしたのかはどうでもいいけれど、あれから寧香はシュウを呼び寄せたのね?」
「そうだよ?これで作業も捗るし、懸念材料も一個減ったでしょ?」
「そうだね、それじゃぁ二人共これからちょっと手伝ってくれるかな?」
「「御意」」
「じゃぁネネとシュウは私の部屋を使って?『ルーナ』の勝手は……言わなくてもいいよね?」
「「もちろんです」」
「それじゃ私はトモ君と一緒に寝るから後よろしくね?ふたりとも」
「「御意。おやすみなさいませ。」」
そう言って俺の抵抗する声を無視して寧香は俺を引っ張って俺の部屋に連れて行き、俺はベッドに押し倒された。
「ちょっと……寧香?いきなりどうしたのさ…………んっ」
そう言っている最中に寧香はキスで俺の言葉を遮る。
その時の寧香の目を見て俺は抵抗することを諦め、これからすることを楽しむことにした。
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翌朝、少々……とは言っても常人にはそうは見えないだろうが……頼りない足取りで俺と寧香は食事を作り、二人の従者を除く全員がダイニングに集まったところで
「さて、今朝はみんなに紹介する人が二人いる。」
そう言って俺は隣のブリーフィングルームで控えているネネとシュウを呼び、連れてきた。
「紹介しよう。寧香の従者をしているシュウだ。能力は・・・俺と寧香を足して二で割った感じだ。」
そう紹介したあとに間髪入れずにシュウが告げる
「みなさん、よろしくお願いします。」
「それでこっちが俺の従者をしているネネだ。能力はセレーネとシュウを足して二で割った感じだ。」
「よろしくおねがいいたします。」
二人が挨拶を軽く終えたら皆に暖かい拍手で迎え入れられた。
話の流れで二人共能力とその能力故に様々な国から追われていたという経緯を紹介したが、とりわけその場の雰囲気が変わることもなく自然と二人は受け入れられた。
ある程度新たに加わった二人と話をしつつ朝食を取り終えたところで俺は皆に今後の予定を変更内容も含めて話すことにした。
「じゃ、これからの予定の確認しておこう。俺と寧香、愛奈美、ネネ、シュウは城・・・もとい家を作る。
セレーネはサーシャとシオリの2人と一緒に南東の区画の調査と有力で有望そうな貴族サマとも接点を作る。
セリーは『性剤』を売っぱらってその資金で鉱石とかいろいろな材料の調達と支度金を使って『蒼紅』の経理の体系を作りあげる。……いいかい?」
そう言ってみんなの顔を一人一人見て確認していったが、全員頷いたのでこの予定ですすめることになった。
これからのことが決まったので最後に寧香が音頭をとった。
「それじゃ、当分この予定で3ヶ月を目処に頑張っていこー」
「「「「「「「おー」」」」」」」
案外このメンバーはノリがいいのかもしれないと思う。
毎度のことですが、誤字・脱字がありましたら報告していただけると幸いです。
近いうちに今まで登場したメンバーの紹介をしようと思っています。