第14話
第十四話 ~行動と決心~
俺たちはオメシワトルとマクイルショチトルの転移魔術でティロスの北東の区画についた。
【では、私はこれで。………………出来ればまた演奏を聴かせてくださいね?】
「もちろん。いつでもどうぞ、マクイルショチトル」
そう言い残してマクイルはオメシワトルの下に戻っていった。
辺りを見渡すが時間軸のズレを一切感じないことに感心しつつこれからのことについて考えを巡らせる。
「さて…………っと。やっぱり時間は進んでいないのね…………トモ君、早速幻夢の屋敷の扉開く?」
「……そうだね、寧香。オメシワトルのことだから時間のズレを生じさせるような真似はしないと思うけどねぇ…………じゃ取り敢えず簡易設置も兼ねて開きますか」
オメシワトルの手腕に感心しつつ俺は『ゲート』の呪文で幻夢の屋敷の簡易扉を設置させる。
「さて、設置したことだしセリーが来るのを待ちますか。」
そこでふと寧香は一緒に連れてきてもらった愛奈美に視線を向ける。
「えっと、トモ君、とりあえず愛奈美さん生きてるよね?」
「うん…………まだ目は覚めていないみたいだけど生きてるよ。…………はぁ、俺らが連れて来た人は俺らで目覚めさせろってことか…………」
そこで少し困ったような表情をしていたのか寧香がそっと手をつないで俺の不安を少し払拭しつつお願いしてきた。
「トモ君。私の時みたいに助けてよ」
「………………ん。わかってるよ」
そう言って俺はあらかじめ幻夢の屋敷から以前寧香たちを目覚めさせた薬を用意していたので、袋から取り出した。
そこで、少々問題が発生する。
「えっと………………薬は口移しでないといけないんだけど、俺がやるの?」
「トモ君が………………ん〜…………私はパス。知らない人とは………………というよりトモ君以外とはあんまりキスしたくないなぁ……あ〜でも、仲のいい子ならしてもいいかもね。」
「そうか…………はぁ、じゃぁ俺がやるよ………………」
そう言って俺は愛奈美に口移しで薬を飲ませ安静に寝かせた。
「さてと…………一応寧香は2時間ほど起きなかったけど、愛奈美さんはどうかなぁ…………」
「え!?」
その発言を聞いて寧香は俺に長時間寝顔を見られたと顔を赤くしながら驚いている。その表情がたまらなく愛おしいのだが……それは今回おいておいて、これからのことを優先する。
そのために、城の設計から見直しをしつつ必要な土地の整地を土魔法と風魔法、光魔法、闇魔法、無属性魔法を使って常人では考えられない速度で進めていく。
そんな異様な城の建設作業が行われている最中にセリーは俺が設置した幻夢の屋敷の簡易扉からやってきた。
どうやら、実験は成功のようだ。これで未だに謎が多い幻夢の屋敷の有効的な利用の幅が広がると同時に、距離などの使用制限が果たしてどこまであるのかという疑問が増えた事に頭を悩ませるが、またそれは別の話。
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セリーが僚也たちが待つ築城地へ転移した頃、セレーネは…………
Side~セレーネ~
「あらら…………やっぱり絡まれてますねぇ………あの二人」
若干動きにぎこちなさが残るもののサーシャとシオリの動きは二人に絡んできた数十人のゴロツキとは比べ物にならないほどなめらかだ。
初めは助けに入ろうかとも思ったが、ふとそのまま観察し本当に危険になったら助けようと二人を見守っていたのだが…………
見る限り余裕をもって対処できているようだ。
そうやって思考にふけっていたところ
ドオォォォン
という通常の戦闘では考えられない音がして、その方向を見てみるとサーシャが絡んできたゴロツキを殴り飛ばした後なのか、ゴロツキが可哀想に思えるほど無残な姿で四肢を投げ出して横たわっているのが見えた。
容赦しないというレベルでなく全力をぶつけているようで手加減することを覚えさせようかとも考え始めた時、ふと鼻を刺すような刺激臭が二人の……正確にはシオリの方からしてきたので、もう一度よく見ると毒を発生させているのかシオリの辺りにいるゴロツキの様子が不自然で、中には鎧が溶け出して慌てふためいている者までいる。
そんな戦闘もまともにできそうにない状態で隙だらけだったため簡単にサーシャにゴロツキは殴り飛ばされた
それにしても…………この毒は御主人や御嬢が口にしていた『硫酸』というものなのだろうか………………
確かに話の中にあった刺激臭と現状の匂いは共通することも多く、鎧も溶かすほど強い毒という点も『硫酸』と思わせるような要素だ。
これはあとでシオリに聞いてみなければならない。…………自己防衛のためにも。
そう思いながらも二人がどのようにして絡まれたのか知らないがために今は見守り後で話を聞こうと思うが、少しでも情報を多く手にしておくため『隠秘IX』を使って二人のそばまで行くことにした。
ハイエルフといえども毒は致命的なダメージを蓄積することを十分に把握しているからこそ二人のそばが一番安全であり尚且情報も手に入るというオイシイ状況にするために行動したはいいが、シオリの『分析IX』によって一瞬ではあるが見つけられてしまった。その時はとても焦ってしまったが、シオリがふと笑みをこぼして生き残っているゴロツキを早急に片付けようと毒の威力をあげた事以外目立った変化が起きなかったのは幸いだった。
二人が絡んできたゴロツキを全員のしてしまったのを見計らって私は『隠秘IX』を解いた。するとすぐにシオリが声をかけてくる。
…………もっとも、サーシャは驚いて動けずにいたが。
「……………………全部片付いた」
「そうですね。…………何故私が近づいているとわかったのですか?」
「…………ん、一瞬近くで毒を強く意識している人物がいるとおもったから」
その答えに自分自身、驚いてしまった。一瞬と言えるほどの時間を的確に感じ取る能力がない限りそう簡単には見つからない自信があったのだが…………
改めて自分は御主人や御嬢の次元には到達していないと痛感し、努力する必要があるとひしひしと感じながら、二人にこれからの予定を聞き、特に問題のない行動範囲だったので、私は『ルーナ』にいつでも戻れるように一日の活動終了時に私のところへ来るよう話をつけてから私はこの隣の区画に存在すると噂のある変わり者貴族を見に行くことにした。
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Side~セリー~
僚也と寧香が城を魔法とスキルを使ってものすごい速さでで作り上げていく中、私は二人の元に到着し二人からこれからの予定と、私がすべき事の指示があった。
その指示によって私は愛奈美さんを看ているが、僚也に対してある種の不安を感じていた。
二人が城を作り上げている以外は静かな場所で私はふと、誰に話すわけでもなく思ったことを口にしていく。
「おそらく、トモヤさんのことですから…………真実を言ってくれると思うのですが、それでも多少誤魔化されるかもしれないですね…………
それでも…………この人は何者なのでしょうか。それとトモヤさんとノドカさんは何者なのでしょうか…………それよりも、この世界に元々いなかったってどういうことなのでしょうか…………ひょっとして、伝説や物語にあるような『転生』というものでしょうか…………はたまた、どこかの大陸に存在する代表者が『勇者召喚』でも行ったのでしょうか…………とにかくこの世界の理とは若干違う系統の技を多く持っているトモヤさんたちは………………本当に…………
もし、そうだったとしたら…………トモヤさんたちはとても苦しい心境なのでしょうね…………今まで一緒にいた方や、仲間とも離れ離れに…………それでも尚、私やセレーネさん、サーシャさん、シオリさんに優しく接するだなんて。…………どれほど強靭な精神なのでしょうか…………いや、だからこそトモヤさんとノドカさんはあれほどまでに仲がいいのでしょうか…………それに加えて、元から仲がよろしかったのでしょう。いやはや、そうだとするとここにいるとマナミさんとはどのような関係になるのでしょうか…………
何者かがわからぬ以上、どのような関係といってこともわからないのは当然ですけど………それでもやはり私はこの人を受け入れた上でうまくやっていけるのでしょうか…………トモヤさんたち常識から逸脱したお二人と一緒にいるだけでも自分の感覚が麻痺していないか心配になってくるのに………………
………………ふふふ、私も変わりましたね…………誰かに恋することができるようになっていただなんて。」
私が思考の海にどっぷりと浸かっていた間に、二人はものすごい勢いで今までの常識と真向から喧嘩するような建造物を造りあげている。
そして私が思考の海から抜け出した際、二人が造っている、そんな『否常識』極まりないものを見たが、
もっとトレーニングしなければならないだの、技は見て盗むのだの、私も真似できるのだろうか
といった感想しか出てこないことに気付き、自分もだいぶ常識の枠を気にしなくなってきてしまっている、染まってきていると痛感しうなだれることとなってしまったのだ。
次回の投稿も今回と同じく2週間を目標にしています。
誤字、脱字等ありましたら、報告よろしくお願いします。