第0話 プロローグ
〜プロローグ〜-とある神の世界-
――Side ???――
どこまでも白い空間
果などなく、遠くかと思えば近く、近くだと思えば遠い、そんなよくわからない場所
そこに一人の人物がどこからともなく出現した。
『老人』にも『若者』にも、『男』にも『女』にも見えるその人が中央に現れたのと同時に
周りの空間が歪み、形作られいく。
唯の白い空間が色彩を帯びていき、カフェテラスのようなふた組みのテーブルとイスが出現した。
淡い緑と澄んだ青のコントラストが中央に立っているその人を引き立てる。
その出来具合に満足すると、イスに腰掛ける。そして、指をパチンッと鳴らす。
すると向かい側のイスに血にまみれで、歯をむき出しにした男が現れた。
「オメシワトル、こんなくだらない用意なんて必要なかったんじゃないのか?」
と現れてすぐに男が言った。
それに目を見開いただけのオメシワトルは男の姿を視界におさめると
「客人はもてなさねばならない。なれば、このぐらい用意すべきであろう?」
と言うが早いか男に威圧をかける。
暫く沈黙が場を支配したところで改めてオメシワトルが語りだす
「このままではこの世界が滅んでしまう……それは何があっても避けねばならん事態だ……
我が完成させた輪廻転生システムのの目を掻い潜って別の世界へ転生しようなどと企む者がおるとは……
しかも、魂に不正な書き込みをするという禁術を使うとは……確実に邪神が関わっておるな……
ミクトよ、今回の事態で他の世界への影響はどうなっておる?」
そう問われたミクトことミクトランテクートリはニヒルな笑みを浮かべつつ答えた。
「今回の事態の影響はこの『planeta』以外の2つの惑星に影響が出ている。
一つは『Earth』もう一つは『Alnitak』。このうち『Alnitak』の被害は比較的小さなもので
霧が無数に発生しているだけだ。これはイツラコリウキに任せれば問題なく対処されるはずだ。」
「そうか、この『planeta』は我が暫く対処するとして……『アルニタク』はミクトの言うとおりイツラコリウキが適任だな。
……『地球』はどんな影響が出ているのだ?」
「オメシワトル……いい加減古い呼び方はやめて『Alnitak』、『Earth』とよめよ……
『Earth』は…………大きな被害が出ているな
生きた人間が百人ほど抹消されるな……」
「なんと……それは由々しき事態だ。なれば、こちらからその百人をここへ飛ばすか……」
「その者たちへの対処はどうするつもりだ?」
「その者たちに最大限の便宜を図ろう」
「……本当にいいのか?厄介事に巻き込まれるのは御免だぞ……」
「では用意が出来次第、直ぐに飛ばすか……ミクトも手伝え」
「……御意」
そう言って迅速に二人の神は行動を開始した。
〜プロローグ〜-『Earth』こと地球で-
夏にしては涼しい日の朝、とある都会のはずれに位置する町にある日本家屋にて
蓮城僚也と蓮月寧香はとある事情でやり込み要素満載のVRMMORPGゲーム『AnotherPlanet』を二人で調査し、プレイしていた。
「うわぉ……このエリアボスめっちゃ強いぃぃ……剣が簡単にいなされる〜」
「うん、強いねぇ……まさかバイコーンがボスだったとはねぇ~
トモ君どうしよっか?」
「うぅん……早いけど角さえ注意しておけば俺らは死なないんじゃない?怪我はするだろうけど……」
「それもそっか。ハイヒューマンでレベルも255だもんね。じゃ作戦立てるために一旦結界はってログアウトしよっか。」
そう言われ二人はヘッドギア型のゲーム機を外して作戦を立てた。
結果、氷の彫刻にしたあとで一刀両断することに決まった。
「よし、この作戦で行こう。んじゃやっつける前に景気付けしとくか。のんちゃん、動かないでね〜」
そう言われ寧香はベッドに座ったままゲーム機を膝においてそっと目を閉じた。
俺は寧香のすぐ前に立ち、中腰になって寧香の唇に自分のそれを近づける。
「んっ……チュ……んはぁ……チュ」
互いに舌を絡ませ、淫猥な音を漏らしながらお互いを貪りあう。
寧香の唾液を味わうにつれて脳裏をトロトロに溶かしていくような感覚に襲われ何も考えられない。
やがて寧香の口が離れていき、唇から銀糸のアーチが伸びて惜しむように切れた。
「んっ……はぁ……はぁ……なんで毎回熱いキスするの……?」
「そりゃのんちゃんのことが好きだからだよ。のんちゃんは嫌だった?」
「……別にそういうわけじゃないけど……トモ君のバカ」
「ふふふ……んじゃいくら防御結界が貼ってあるからって言ってほっとくと面倒だし、片付けますか」
「……うん!」
再びログインして、寧香が結界を解くのと同時にバイコーンの足元を魔術で凍らせる
身動きがとれなくなったバイコーンに僚也が黒い太刀で『一閃』を放ち、バイコーンはバラバラに解体された。
「ふぅ……意外とあっけなかったね〜」
「そうだな。じゃ素材とってログアウトして、さっきの続きやろ?のんちゃんも物足りなかったでしょ?」
「……トモ君のバカ。 でも……いいよ。シよっか」
素材を集めてログアウトしたあと、二人はお互いを求め合うようにねっとりとした口づけをし、唾液を混ぜ合い、貪るように舌を堪能しつつ、包むようにギュっと抱きしめ合った。
そして、いつものように愛し合った後、寧香の乱れ切った髪に顔をうずめると、俺の耳元で彼女の呟く声が聞こえた。
「トモ君……大好き……」
寧香は満足そうに目を細め、心地よさそうにただ身を任せている。
その後いつものように一緒にベッドで寝ようと立ち上がろうとしたとき、
突然、寧香と僚也の周りが異様な輝きに包まれ、幾何学模様の解読不能な文字列が、高速で回転し宙にすら舞っている。
突如歪む世界。普段から非日常的な事件に関して動じることなく行動出来る二人がこの時ばかりは終始声を上げることができないまま、僚也と寧香は意識を手放した。
-再びとある神の世界-
「……ん?……ここは?」
目が覚めたら俺-蓮城僚也-は全く知らない場所に蓮月寧香と一緒にいた。
辺りは淡い緑と澄んだ青のコントラストでちょっぴり幻想的だった。
隣から同じような声が聞こえ、俺の意識は覚醒へと向かった。
「あぁ、のんちゃん?」
「ん……トモ君?」
二人はお互いの姿を確認すると、お互いに真顔で相手にこういった。
「「なんで、裸でいるの?」」
互いに何一つ身につけていない、生まれたままの姿
・・・だが、二人は慌てていなかった。
お互い、普段どうり行為が終わったあとは裸で抱き合っていたりする間柄なので
そこまで取り乱したりはしなかったが、気恥かしさを盛大に感じていた。
【ふむ……起きたか】
そこで突然、冷静そうな表情をした『老人』にも『若者』にも、『男』にも『女』にも見える人が
目の前に現れた。
「「……どちらさん?」」
【我は全てを生み出しし者。全ての事象の管理者だ。】
答えになっていない答えを聞いた二人は少々呆れつつ続きを催促した。
「「……それで、誰なんですか?」」
【うむ、我は創造神オメシワトルだ。】
判断材料が少ないが故にとりあえず自分らの要望を口にすることにした二人は
「「はぁ……とりあえず服を着させてください。」」
と、まぁある種当たり前の要求を神と名乗るソレにつきつけた。
【おぉ、そういえば忘れておった。すまぬな、今作る】
そういった創造神は何もないところから服を出現させた
一つは二人がよく見慣れた(寧香が日頃お気に入りのワンピースだと言って見せてくれた)ものだった。
もう一つは俺が特別なパーティーでピアノの演奏をするときに着るオシャレなタキシードだった。
早速俺たちは服を着て、改めて自分たちに何が起きたのか疑問が浮かんだ。
「俺たちはなんでこんなところにいるんですか?エージェントの調査活動をしてたはずなのに……」
【うむ。その疑問は最もであるが、それに答えるにはまだ役者が足りないんでな・・・・
もう暫く待ってはくれぬか?】
「……では、待っている間俺たちは何が出来ますか?」
「そう焦らんでも良い。直に来る」
そう言われて疑問に思ったことを俺は口にする。
「来るって…… のんちゃん、どうするべきだと思う?」
「ん……待てばいいんじゃないかな?判断する材料もないし……」
僚也は目一杯楽しもうと心に決め、一つお願いを思いついた。
「そうだね……。じゃゆっくり待つのも暇だし……神様、ピアノを作ってくれませんか?」
【構わんよ。】
そう言うとまたしても何もないところからグランドピアノが現れたが、内心まさか作ってもらえると思っていなかった二人は固まっていた
【ほれ。好きなように使え。】
「…………ありがとうございます。」
そう言って俺はピアノの前に座り、自分が好きな曲を弾き始めた。
俺は曲を大体半分ぐらい弾いたところで違和感を覚えた。
おかしい、指がなめらかに動きすぎる。普段ミスタッチしやすい部分もサラリと何事もなく過ぎ去ってしまった。
だが、ここまで気持ちよく弾くことは、そうそう出来る事ではないのでそのまま弾き続けることにした。
・・・この違和感こそが、ここが地球ではないことを物語っているとも知らずに・・・
一曲弾き終えると、創造神と寧香がパチパチと拍手を送ってくれる。
真っ先に寧香が感想を口にする。
「トモ君また上手くなってない?その曲ってリストの曲でしょ?
それで、何回弾いても一箇所間違えちゃうって言ってたのに・・・
今のは一回も間違えなかったね。」
「ありがとう。めっちゃ気持ちよく弾けた」
創造神はなにも言わないと思っていたが、しっかりと感想を述べるだけの演奏だったのであろう、素直に口にした。
【うむ、我は其方が気に入った。少しばかりこれから先に有利になるように手伝ってやろう。
・・・・・おぉ、来たようだな】
そう言うと、創造神の後ろに血にまみれで、歯をむき出しにした男が現れた。
【おい、オメシワトル。連れてきたぞ】
そう言って、少女や少年をはじめ多くの人間を俺たちに向かってほおり投げて、その男は消えた。
目指するだけでもざっと百人はいるのではないかと思うほどの人数が宙を舞う。
俺達は某エージェントの諜報員ではあるが、それなりに武術を身につけている。
それが功を奏したのか、宙を舞う幼気な少女たちを次から次へと受け止めていく。
その姿を見た創造神は少し嬉しそうな表情で、今まで待っていた話を語り始めた。
【うむ、役者も揃ったことだ、全て話そう。まず、お前たちはここに来る前の記憶はあるか?】
その質問に答える際、一瞬敬語で話す必要があるかもしれないと思ったが、自分の直感が不要だと告げているので、
普段通り敬語を使わずに答えることにした。
「そりゃあるよ。俺たちは『AnotherPlanet』で遊んで、そのあといつものようにのんちゃんと愛し合ってからベッドに入ったら
ここによくわからん文様があたりに回り始めて、気がついたらここにいた」
【そうか、ならばよい。ここはお主たちのやっていたゲームに酷似した異星の世界だ。
残念なことにこの世界から重罪の殺人鬼が自らの魂をお主たちの世界に飛ばしてしまう事態がおきた。
我は結界を張って其方らを守ろうと其方らの世界に干渉したのだが……
其方らの世界の神が休眠中で干渉するのが遅れ、その結果その魂に体を乗っ取られてしまってな。
せめて魂だけでも蹂躙されないよう助け出して、こうしてこの世界に集めたという訳だ。】
「え……そんな事って実際に起きるものなのか……小説とかで読んだことしかないようなことが……」
【なんとか其方らの魂だけはは我の神界へと飛ばすことが出来たんだが……戻すのには少々問題があってな……
至極当たり前なんだが、戻すためには元の身体から魂を抜いて空っぽの状態にしてからでないと
元の身体には戻らんのだ。殺人鬼によってどのようなことが其方らの身体に起こるか分からぬ以上
戻す目処が立てられぬ。それに、その殺人鬼の魂を消せばいいという簡単な話ではないのだ。
強引な介入をされた身体は魂を支える受け皿としての機能がグチャグチャに壊されてしまう。
その壊れた器も直さなければならないのだが、これが創造神といえども簡単ではないのだ……】
そう説明された時点で俺たちはどうしようもない不安に駆られ、冷静沈着な普段からは想像できない質問を口にしてしまった。
「「それじゃあ、俺 (私)たちはどうなるの?」」
創造神もその悲痛な不安を感じ取ったのであろう、穏やかで、申し訳なさそうな表情で
【申し訳ないが、この世界で生活してくれぬか?無論、器を直して元の世界に戻してやりたいとは思うのだが、
如何せん、百人を超えておるのだ。膨大な時間が必要になる……すまぬ。】
と頭を下げられ二人は困ってしまった。
今まで一緒に仕事をしてきたパートナーと離れ離れになるなどということにはなりたくなかったため、俺は愛しのパートナーに相談を持ちかける。
「のんちゃん、どうする?」
「うぅん…………トモ君に任せる。トモ君と離れ離れにはなりたくないし……」
「わかった……オメシワトルさん、この世界で生きていくにはどうしたらいいですか?
元の世界では俺たちは武術を使えたのですが、こちらでも使える保証はないので……」
【それは心配いらぬ。其方らは直前までやっていたゲームの能力をこの世界で使えるようにしてやる。
勿論元の世界で出来たことや知識、知恵、記憶などはそのまま残してやる。
これで生きていけるのではないか?
因みに、他の者達も其方らと同じゲームをしていた者は其方らと同じようにしてやるつもりだ。
ゲームをやっていなかったものは、我がそれなりに調整してこの世界でも生きていけるようにしてやる。】
そう提案されたことに対して熟考していきていけるか頭の中でシュミレーションしていく。
ゲームの能力は確か……俺たちはトップに近かった、いや、トップといっても文句は数名からしか出ないであろう強さがあった。
だが、それはあくまで『ゲーム』での話だ。当然、傷つけば痛みを感じるし、手が滑ったりと『VRゲーム』とはいえ補正されていた部分もある。
それらを踏まえても、俺たちはエージェントとして身につけた武術もある。
が、ここは万全を期すべきという考えのもと、少々黒い欲を出してみることにした。
「ゲームで持っていたアイテムや作り上げた拠点などはどうなりますか?」
【ふむ……其方らのゲームはまだ確認していないが、持ち物やアイテム、拠点などもそのまま再現してやろう。
この条件でこの世界でも生きていけそうか?】
「……まだ世界観や貨幣の相場、大陸の作り、文化などの情報がないので生きていけるかどうかわかりません。」
【そうか、なれば今から説明してやろう。貨幣の価値は青銅貨 一¢、黄銅貨 百¢、白銅貨 千¢、銀貨 百万¢、金貨 十億¢だ。
この世界には魔力が存在しており、誰もが魔力を持っている。魔力は世界を覆うように充満しているが、空気と同じで何も感じないと思うぞ。
大陸は多分、大体同じような作りの筈だ。種族はたくさんあるが基本ヒューマン以外は其方らが想像しやすいものと変わりないぞ。】
教えられた情報を吟味して忘れないよう頭に刻みつつ、続きを促した。
「……ヒューマンは何かあるんですか?」
【うむ、ヒューマンの一部は『魔力欠乏症』と呼ばれる『魔力をほとんど持っていないもの』じゃ。
七割の男のヒューマンは生殖機能のある精子が製造できない『不能種』じゃ。
三割の女のヒューマンは生殖機能のある卵子が製造できない『不能種』じゃ。
だが、安心せい。お主は不能種ではない。『純系』でその純度はVじゃから、今までどうりじゃよ。】
「純度って何ですか?不能種はどうやって子孫を残すんですか?」
【順度とは生殖機能の高さのことさ。ランクはI〜Vじゃな。お主は最高ランクのV。
不能種は特殊な性剤を使って確率を上げるが……それでも子孫は残されにくい……
ヒューマンの数を維持するために純度II以上の純系の男はアマートルを作ることが義務になっているんじゃよ。】
ここで俺たちはズッコケそうになる情報を耳にして思わず反応してしまったことを後から後悔するかもしれない……
「「え!?愛人を作らなきゃダメなの!?」」
【……そう言っておるだろ……安心しろ、そこまで危険ではない。
お主には先程の演奏のお礼に我の創造魔術を与えるから、避妊薬だって思いのままに自分の魔力で作ることができるぞ。】
「創造魔法ってのは凄そうだけど用途がありがたみねぇ〜」
【創造魔法も万能ではないからな……例えば太刀を作っても魔力が多く込もっておぬから、
ある程度のところで能力が頭打ちになる。だが、これも我ならば出来る話であって、お主はそこまでのことが出来ぬ。
精々出来たとしても、いい素材を創りだすくらいだろう。】
「えぇ〜なんかビミョーだぞそれ。」
【女の方は……お主の好みの胸の大きさにしておいたから後で楽しむといい】
「「おい(ちょっと)、勝手な事するなよ(しないでよ)!!」」
【では時間も惜しいことであるし、今まで口にした条件を全て守り実行する。
今より、其方らを先にフローネの森に二人共飛ばす、頑張って生き延びよ】
「おいこら、ちょっとまて〜!」
そう言って直ぐに俺たち二人の意識はまたがブラックアウトした。