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続・僕の同僚がヤンデレ過ぎてヤバイ。

ミカミタワーの最上階、塔のてっぺんで、僕は八町島を見渡していた。たまに、こういう一人っきりになりたいときがあるのだ。家には、た~~るにゃん、中島さん、えるにゃん、佐織、アリスと、半年前では考えられないほど、女性が僕の家を徘徊しているのだ。落ち着かない。正直言って、自分の家じゃないと僕はゆっくりとズボンを下ろして、パンツを脱いで、靴下を脱いで、用を足せないのに、それすらもままならない。


「おーとこーにはー、おとこのー、せーかーいがーあーるー、たとえるならー空をかけるー、ひとすじーのながれぼしー」


・・・・・・・・。


コーヒーを飲みながら、僕は一人っきりの時間を満喫する。


「・・・絶景かな。マイフェバリットプレース」


僕は、この時間を、『男の時間』と呼んでいる。深い意味は無い。何人も触れられざる、聖なる領域なのだ。


「見つけたッ!いましたね、いちゃいましたね、アッキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」


今、禁断の聖域が、塗りたてのペンキを踏んだスニーカーで、ずかずかと足跡を残しながら、踏み荒らされた。


「・・・・・ヤッホー・・」


絶対に見つからないだろうと自負していただけに、僕のテンションはだだっ下がりだ。


「酷いですよ、アッキー。23分も説教部屋で演説を聞いたんですよ?しかも、しかもしかも、一週間、おやつ無し!香苗さんの家にお世話になってるんだから、しょーがないんですけど!」


「簡単に人の生き死に口を出したらダメだって、言ったのを破ったのが悪いんだよ」


「エヘヘ」


「褒めてないよ・・」


太平洋に浮かぶ八町島を、彼女も見回す。あっち、ずーーーっと真っ直ぐ行けば、アメリカのカリフォルニアだ。


「・・・いい場所ですね。ここは」


いつも、ヘビィメタルサウンド、というよりは、ラップ調の演歌を歌っているような、吉幾三のような性格の彼女だが、たまに、こういうシーン、ムードに合わせて、たまに、無口になる。そういう時に限っては、なんだか落ち着く。


「僕の秘密の場所なんだよ」


「これからは、僕達の、になりますね」


顔を変えずにさらりという。


「うん」


そうやって、五分間も眺めていると、寒くなってくるのだ。


「凍えてきましたね」


「・・・うん」


「私の部屋に来ませんか?東棟の社員寮なんですけど、まだ来られた事ないですよね」


「香苗さんの家にいきなり上がりこむ事なんて、出来ないよ」


「大丈夫です。言ってありますから」


「・・え?」


意味がよく分からなかった。


「一週間前から、この場所で佇むアッキーを見てたんです。誘ってOKなら、いつでも歓迎だそうですよ。コーヒー、飲みません?」


なぜか理由は、分からなかったけど、僕はむしょうにコーヒーが飲みたくなったのだ。


「・・行く」


その一言で決まったらしく、屋上に降りて、エレベーターから東棟へ向かって、香苗さんの部屋に伺う。


「・・おじゃまします」


「どうぞどうぞ」


部屋に上がった瞬間、床を踏み外しそうになった。真っ黒い空間で室内は満たされていた。


「・・あれれ?催眠術の効きが甘かったでしょうか?まぁいいですけど」


僕はあっという間に、暗黒空間に飲み込まれた。魔法カードによる魔法は、こういう空間さえも作れるのか。


「私、昨日お花を摘んでる時に思いついちゃったんです。アッキーが死ねば、死姦できるって」


なんて場所で考え付くんだ・・・。そこは嘘でも・・・・え?今何て言った!?聞き取れなかったゾ!?


「生憎だけど、僕はかよわい女の子に殺されるほど、弱くは無いんだよ」


僕はナイトフルを展開し、紅の甲冑を身に纏う。


「いつ見ても、素敵!・・・・・・・・あの、右手は、もうちょっと、斜め右にお願いします」


「・・・・・・こう?」


「そうです!右足は、左に4cmほどずらしてください」


「・・・・・こう?」


「そうです!素敵です!キングクリムゾンのキングクリムゾンのジョジョ立ち、素敵です!」


・・・・・・ちょっと嬉しい。


「かかりましたね。その位置なんですよ!」


何時の間にかだった。気が付けば、鎖で全身を縛られていた。


「・・・・ッ・・動けない・・!」


「安心してください。その緊縛スタイルもジョジョ立ちにしてあげてますから」


「そうなんだ。助かったよ」


どうやら、まだ催眠術が効いているらしい。口と頭の意見が違う。


「後はこのソウルブレイダーで、首を切断すればいいんですが、そうですね~~。生涯、私に愛を誓って一日毎晩二回の子作り、サッカーチームが出来る家庭を作ってくれるっていうなら、死姦だけは勘弁してあげますよ?」


「・・・・断る」


しかし、しかし動けない。かなり強い力だ。うまくナイトフルが機動しない。


「そうですか。・・・・・・・あ」


「なに?」


「ちょっとお花摘みに行ってきますね」


「いってらっしゃい」


光に包まれて消えていった。・・え?・・・お花?・・・・・・女の子って、むしょうにお花を愛でたくなる事があるのか!?


「・・・・なかなかメルヘンチックじゃないか」


しかし、こうも長時間のジョジョ立ちはキツイな。


・・・・・・・・。


「かれこれ15分も経ったかな・・・いい加減しないと、この鎖切っちゃいそうなんだけど・・・でも、魔法で生成した物が破壊されたり傷ついたりしたりしたら、行使者にダメージが反転する可能性もあるから避けたいんだよね・・・」


とりあえず、ナイトフルを解く。生身だと鎖が重く感じる。解くべきではなかったか。


「お待たせしました」


「今来たところだよ」


何を言ってるんだ。まだ催眠術がかかっている。


「私って、トイレの時はスカートとパンツをソックスを全部脱ぐから時間かかっちゃうんですよね」


「僕もだよ」


「知ってますよ。真似してるんです」


「そうなんだ・・・」


どこで知ったのか、僕はあえて聞かない。


「よく考えたんですけど、やっぱり殺すのは止めておきます。そもそも死姦ってできるのか微妙ですし。ふにゃふにゃじゃ入らないですよね?それとも固くなるんですか?」


「それ、僕に聞くの?」


「そうですよね。よく考えると、男性は死姦できますけど、女性は死姦できないって、これっておかしくないですか!?不平等ですよ!」


憤慨する顔もカワイイ。・・・顔は。


「どう思いますか!?不平等だと思いませんか!?」


「ごめん。それはちょっと、二次でも、三次でも、ストライクゾーン外なんだ。参考にできるような意見は持ち合わせていないよ」


「そうですか・・・残念です」


本当に残念そうな顔をする。僕は、どういう人間だと思われているんだろうか。確かにパソコン上ではド変態だと思われてしょうがない部分はあるけど。


「ナイトフルも解いてくれたんですね。やっぱり素顔も素敵ですよ」


「ありがとう」


「・・・・・・じーっ」


「・・・・・・」


「・・・・・・じーっ」


「・・・・・・」


「・・・・・・濡れてきました」


「なんで!?」


そう叫ぶ間に、顔を近づけられ、ベロリとほっぺたを舐められた。キスとか、ぺろぺろではなく、ベロリだ。ペコちゃんの舌で舐められた感じだ。


「なんだ。そっちも準備万端ですね!」


縛られてたら、なぜかしら、勃起してしまったのだ。どうしてだろう。生まれて初めての体験で、戸惑っている。


「・・・・・・」


静まれェーーー!静まりたまへぇーーー!!


「あっ。・・・固いんですね。なるほどなるほど。なるほどー」


僕のズボンにいきなり手を突っ込み、僕のジャガージャッカーをぎゅーっと掴んだ。


「痛い!!痛い痛い!もうちょっとやめてよ!訴えるよ!?」


「べつに結構ですよ?どうせ社会奉仕時間の延長になるだけですから」


流石に三千年の社会奉仕活動判決を受けた身分は仰られる事が違う。


「いいかい。もう毎度毎度の事だけどね。そういうセクシャルな事はね」


「何度も聞いて覚えたので大丈夫です。夫婦間だけなんですよね。でもね。人間って我慢は毒なんですよ」


僕の手首を掴み、彼女のスカートの中へ突っ込まれた。


「・・・・!!!!」


あかん。これはあかんやつだ。


「もうこんなに・・・でしょ?あ。それ以上は深くしないでくださいね。血が出ますから」


泣きそうになってきた。鼻水が出てる。


「シャットダウン!」


彼女の叫びで、暗黒の空間は消え去り、代わりに僕はベッドで真横になり、魔法生成物で拘束されていた。


「準備オッケーですね。さくっと済ませましょうか」


「あのね。怒るよ。こういうのは、大切な・・・」


「そうそう!大切な事を忘れてました。性的興奮の五割が前戯を占めるそうです。香苗さんの呼んでた大人の雑誌に書いてありました」


香苗さん~~~~~っッ!!!


鎖が僕の視界を奪った。目隠しをされた。


「とりあえず、Aからいきますねー」


磯野!キャッチボールしようぜ!みたいなノリでキスしようと言わないでくれよ!


「ふざけ・・・」


ふぐっ!?


口付けとともに、舌が僕の口に侵入してきた。音を立てながら、泡を立てながら、グチュグチュという淫猥な響きが、聞こえる。


「!??!」


舌が、長い。僕の前歯、の裏側から、奥歯、僕の喉さえも、その生の内器官のざらざら感が、侵す。


「ふぐううううううううううう」


全力で抵抗しても、かまわず、じゅっぱじゅっぱ音を立てる。こんな音、AVでも聞いた事が無い。・・・・なんて冷静に考えてる場合じゃないっ!!


「ぷはぁ・・・・結構悪くないですね。キスも。どうせ、コーヒーを飲むくらいだろうとか考えてましたけど、すっごいですね。触ってみます?パンツ変えてきた方がいいですよね?」


なんて答えればいいか、なんて言えばいいのか、分からなかった。


「アッキーが悪いんですよ。他の女の子と第一次接触を図るから。でも、キスをしたら、大分すっきりしました。幸せな気分になれますね。うん」


「・・・・」


「なんだか、頭の中が、ぱーっとお花畑が咲き乱れるみたいです」


「・・・・・・」


「今、年中咲き乱れてるだろうって思いましたよね?」


「オ・・オモッテナイデス」


「そうですか。本当なら、このまま引き続きBまで進みたいんですけど、今、私はどうやら最高の気持ちなので、今日はこのへんで解放してあげますよ」


「・・・・・・・・グスン」


「最後に、十分間だけ、キスしてもいいですか?」


「ダメです・・・。っていうか、何か、美味く喋れないんだけど」


「でしょうね。私のは、そういう能力ですから」


「そろそろおうちにかえしてください」


「・・・これからは、私だけを見てくれますよね?」


「ごめん。できない」


「・・・・・空気読めない人ですね。イラッときました」


僕の口にまた舌を突っ込んだ。果たして、これがキスといえるのだろうか。


「ぷは。・・・・・私、諦めませんから」


「・・・・・」


「いっておきますけど、これが私のファーストキスですから。代価は永遠の愛なんですよ。覚えておいてください」


鎖が消え、視覚が戻り、拘束を解かれた。


「・・・・」


たまに、稀に、とてもどこか、遠い景色を見ているような素振りを見せる。空っぽの空白である心を埋めるような、そのための行動であったり。


「今は、香苗さんもいるんだし、僕もいるし、サポートしてくれる人もいるんだから、寂しくはないんじゃない?」


「・・・・そうですね。私は罪人だから、これで丁度良いんですよ」


「どう丁度良いの?」


「決して手に入らない物が欲しくなる事です。目の前にニンジンをぶら下げられたロバのようなものですよ。でも、それがいいんです。私、罪人ですから」


もういいんじゃない。殺した人間の十倍の数の人間を助けたじゃないか。


そんな声が喉にかかったけど、結局声に出す事は適わなかった。彼女の罪なのだ。僕の罰ではないのだ。


「そろそろ晩御飯の時間ですね。部屋の鍵はそのままでいいですよ」


ニッコリとした笑顔でそう言う。


「晩御飯は?」


「そうですね。一応時給三百円貰ってるんですよ。どこかのレストランで済ませますから」


「良かったらうちで食べなよ」


「ありがとうございます。ご両親に紹介されるんですね。わかります」


「同僚だってね」


「よし!それじゃ!レッツゴー!!」


「ねぇ。その監視カメラセットと僕のスマフォのペアリング解除、見つかると問題になりそうな、今引き出しから出してお財布にしまった避妊具を戻すのが条件だけど」


僕は短い舌打ちを聞いた。

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